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地元写真家は見た 大西洋ラ・パルマ島、噴火のリアル

NIKKEI STYLE

ナショナルジオグラフィック日本版

写真家のアルトゥーロ・ロドリゲス氏がスペイン領カナリア諸島最大の島であるテネリフェ島の自宅でシャワーを浴びていたとき、隣室のテレビから動揺した声が聞こえてきた。「噴火しました! 噴火しました! 信じられません!」とリポーターはカメラに向かって叫んだ。

2021年9月に噴火が起きるまでの数週間、北西のラ・パルマ島では、マグマの動きを示唆する群発地震が観測されていた。ラ・パルマ島で生まれ育ったロドリゲス氏は、50年にわたって休止していた火山を監視する科学者たちを撮影するため、旅の準備をしているところだった。

ロドリゲス氏はすぐにシャワーを止め、フライトを変更し、数時間後、ラ・パルマ島に入った。そして、その夜、クンブレ・ビエハと呼ばれる火山の尾根から噴き出す溶岩を撮影した。周囲の町は不気味な光に照らされ、崖にぶつかる波を連想させるごう音が鳴り響いていた。ガラスの破片のような火山灰が空から降り注ぎ、腐った卵のにおいが充満していた。

「このように大規模な噴火を間近で体験することになるとは夢にも思いませんでした」とロドリゲス氏は語る。「とても大きく、とてもパワフルです」

噴火は2カ月たった11月下旬になっても続いていた。これまでに2500以上の建物が破壊され、数千人が避難した。火山灰が幾重にも降り積もり、屋根は崩れ、農地は埋まり、溶岩が通り道のすべてを覆いつくした。「このモンスターは最も人口が多い地域の真ん中で爆発しました」とロドリゲス氏は話す。「ここに暮らしていた全員の痛みがわかります」

その痛みを特に強く感じた瞬間がある。迫り来る溶岩から逃れようと、荷物をまとめている人々を撮影していたとき、その中にいとこの姿を見つけたときだ。ロドリゲス氏はカメラを置き、急いで荷物を箱詰めするいとこを手伝った。

ロドリゲス氏は生まれ育った島の将来を案じている。島の経済はバナナ栽培に大きく依存しているが、かつてバナナを育てていた何百ヘクタールもの土地が溶岩に埋もれてしまった。生き残った木も多くが火山灰に覆われ、バナナを輸出できる状態ではない。

家や生活空間が溶岩の下敷きになり、島を出ることを選択した人もいる。数年先の見通しすら立たないとロドリゲス氏は言う。「島は苦境を強いられることになるでしょう」

次ページでも、想像を超える火山島がもつパワー、そこに暮らす人たちが体験したことを写真でご覧いただこう。

(文 MAYA WEI-HAAS、写真 ARTURO RODRIGUEZ、訳 米井香織、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2021年11月29日付]

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