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なぜアパレルが外食に? アダストリア、ゼットン効果

日経ビジネス電子版
「グローバルワーク」や「ローリーズファーム」などのブランドを手掛けるカジュアル衣料大手のアダストリアが、レストラン「アロハテーブル」などを運営する外食中堅のゼットンを子会社化(51%の株式を保有)してから半年ほどが経過した。2022年4月にアダストリアが発表した中期経営計画では「アパレルと飲食の枠を超えた『もっと楽しい場』の創出を目指す」と宣言。ゼットンの数値目標として、26年2月期に新型コロナウイルス禍前(20年2月期に売上高102億円、営業利益4億円)と同水準にすることを掲げた。なぜアパレルから外食に手を伸ばしたのか。どんな相乗効果が得られるのか。子会社化後の手応えと今後の展開をアダストリアの木村治社長とゼットンの鈴木伸典社長に聞いた。

――アダストリアがゼットンを子会社化した経緯を教えてください。

木村氏「僕たちは『ライフスタイル』というキーワードを掲げて、いわゆる『衣食住』のすべてにかかわるものをやっていこうと考えてきました。かなり前から『洋服だけじゃない』と思っていたんです」

「衣食住の中の『食』はすごく重要で、我々も外食をやりたいよねとなった。それで、フードサービス事業を手掛ける『ADASTRIA eat Creations(アダストリアイートクリエイションズ)』という子会社を2017年に設立しました。自分たちで外食をやろうと人を集めたのです。当時僕はアダストリアの副社長で、イートクリエイションズの社長も兼任しました」

「ただ、立ち上げたのはいいけれども、すぐに感じたのは『ゼロからやるのは結構しんどいな』ということ。いろいろな外食企業の経営者の話を聞いたりしながら、もっと勉強しなくてはと思っていた」

「ゼットンの鈴木(伸典)社長とは今から6~7年前に知り合って親しかったので、よく相談をしていました。(鈴木社長から)『こういうスタッフが必要なんじゃないですか』と言われたので、『それならちょっと人を貸してよ』と言って社員の相互出向を始めたんです」

鈴木氏「僕は16年に社長に就任したばかりだったので、外食のアドバイスをする一方で、木村社長から経営者の先輩としてのアドバイスをもらっていましたね。『経営とは』とか『チームのつくり方は』とか」

「アダストリアの傘下入りを決断したのは、アパレルと組もうとか、別業種と組もうと考えたからではありません。あくまでも人間関係として信頼できて、僕らを受け止めてくれると思えたからです」

「資本政策は会社の根本だし、最後のとりでです。経営者として、どのような資本政策を選ぶべきかを常に意識していました。コロナ禍でバランスシートが大きく毀損する中、金融機関との連携もうまく取れなかった。それで、我々の可能性を資本として評価してくれる先を探していたのです」

「先ほど話があった人材交流のように、アダストリアとは、木村社長との人間関係から始まった企業同士のつながりがありました。ゼットンから出向した社員の中には、『イートクリエイションズがやっていることが面白いので転籍したい』と言う人もいましたね。そうした信頼もあって資本政策について相談したのがきっかけで、最終的に今回のような形に至ったわけです」

「顧客との接点を増やす意味がある」

――「アダストリアなら受け止めてくれる」という話がありましたが、鈴木社長にとってアダストリアはどのような会社に見えたのですか。

鈴木氏「僕はアダストリアを『洋服の会社』だとあまり思っていなかったんです。取り扱っている商品も洋服だけでなく、生活雑貨やアウトドアのグッズとか、様々な分野に広がりを見せていた。僕の勝手な解釈なんですが、(事業領域をライフスタイル全般に広げる)ビジネスモデルを本当に精度高く設計し、運営していると感じていました」

「僕らは外食店という『プロダクト』をつくり、それを積み上げることで企業として成長するというビジネスモデルでした。ただ、本当の強みは何かと考えると、外食店をつくり続けてきたことで磨いたデザインやオペレーション、プロデュースの力を生かして『もの(プロダクト)づくり』をする部分にある。その感覚をアダストリアなら受け止めてくれると思えたのです」

「だから、『アダストリアが外食企業を買った』という表現だと、その本質が伝わらないのではないかと思います。両社が見ている『ライフスタイル』をより幅広く提供するために、お客様との接点を増やすという意味があるのです」

――木村社長はゼットンに何を期待して子会社化を決めたのですか。

木村氏「まず、外食事業をやっているゼットンという企業自体が魅力的でした。僕らは『スピード経営』を強く意識しています。その意味で、『食』の事業をゼロからやるのではなく、コロナ禍前に(売上高が)100億円規模あったゼットンが加わる意味は大きい」

「ゼットンはここ数年、かなりディフェンス(防御)重視の経営をしていました。16~17年に大きな赤字(編集部注:16年2月期に純損失2億3300万円、17年2月期に同4億4200万円)を出した後、鈴木社長が就任してV字回復させて、利益も出しながら成長してきた。店舗のブランドを整理しながら、一つひとつを磨き上げていました。でも、全国に1400店舗を出している僕らは規模の強みも分かっている。僕らと組んだ以上は、ゼットンをもっと成長させなければいけない。もちろん我々も株主に対してゼットンはこれだけ成長するんだと見せる必要がある」

「ゼットンにはまだまだ店舗を出せる余地があります。今は東京や名古屋への店舗展開が中心だけれども、例えば『アロハテーブル』はもっと多く出店できるでしょう。それ以外にも『この業態は結構強い』というものがある」

鈴木氏「僕がゼットンの社長に就いたときには赤字で、もうボロボロな状態でした。どうやったらこれがもう一度離陸するのかと考えたときに、『大きくならなくてもいいからもっと強い会社になりたい』と思った。それで会社の再構築に取り組んで、数年で結果がついてきて、もう一度売上高を伸ばしていこうとしたときにコロナ禍になってしまった」

「それでアダストリアと組んで、いろいろとコミュニケーションを取っていく中で、やはり会社の規模も含めた成長をしながら強い会社にしていくのが優秀な経営者だと考えるようになりました。1400店舗を展開するアダストリアのグループの中で、僕らももう少し店舗を増やしていく必要があると思っています」

業態開発競争から一線を置く

――ゼットンは多店舗展開に注力していくということでしょうか。

鈴木氏「店舗数を積み上げることばかりに力を入れるつもりはありません。あくまで、アダストリアとゼットンのお客様を受け止められるような店舗展開を考えています」

「外食企業はこの50年間、『業態』(編集部注:コンセプトや店の雰囲気、メニュー、価格帯、回転率などのデザインのこと)という側面でしか語られてきませんでした」

「席数に限りがあって、その席数に多くの設備投資をして、人を抱える必要があるのが外食業界です。商売としての利益率が非常に低い中、当たるかどうか分からない業態をどんどんつくらなければならないという風潮がありました。業態開発競争の末に、外食店の飽和状態が生まれてしまい、市場が新しい業態に飽きてしまった」

「僕たちはとがった店をやろうとしてきたし、それで当ててきました。だからこそ、業態をつくるということに対して大きなプレッシャーがあったし、そこに疲れてきたという面もあると思います。業態ではなく、もっと経営の観点で語れる人が増えないと、この業界はよくならない」

――ゼットンは19年から公園の再生事業に乗りだしています。業態開発とは違うのでしょうか。

鈴木氏「僕らは通常の外食店事業を『完結型』と呼んでいます。先ほど言ったように、外食店という『プロダクト』をつくり、それを運営し始めた時点でビジネスとしては完結しているわけです。それが当たるかどうかは分からないし、成長するためには店舗数を積み重ねていかなくてはならない」

「僕らはデザインもできるしオペレーションもプロデュースもできる。それならつくるものを変えようよ、となったんです。もともと企業理念に『街づくり』という言葉を掲げていたんだから、街のエリア開発事業をもう一回考えてみようと」

「公園再生事業には『拡張性』があります。例えば葛西臨海公園の再生事業。最初は『カフェを1軒つくってください』という案件でした。僕らの主な営業エリアから離れた場所にカフェを1軒つくるのも難しいので、僕らの力を生かしていろいろなコンテンツに落とし込みながら公園全体を活性化する事業にしたいと提案したのです」

「テークアウトが中心のカフェから始まり、テラスを生かしたイートイン型のカフェ、手ぶらでできるバーベキュー場、そしてウエディングセレモニーができる会場などに範囲を広げていきました。ランニングコースも整備して、葛西臨海公園の楽しみ方の発信も始めた。すると、じゃあ水族館をどう使うんだ、観覧車は……という話になっていく。こういう拡張性を持つ事業こそ、僕らの力が生きる道なんだと思っています」

「僕らは今、家族・カップル・仲のいい友達という3つのカテゴリーを重視しています。かつてはトレンドを追っているオピニオンリーダーに刺さる業態を目指していたけれども、公園の再生事業を手掛けて人々の生活にどう寄り添うかを考えたときに、『ここが商売の原点だな』と思ったんです」

木村氏「アダストリアにも『街づくり』や『場づくり』をやろうという依頼が多く来ています。飲食会社の中でそういう分野に既に乗りだしているというのもゼットンの大きな魅力でした」

シナジーはまだまだこれから

――アダストリアとして、そのほかの相乗効果をどのように考えていますか。

木村氏「どのようなシナジーが生まれるかは、正直なところまだまだこれからです。EC(電子商取引)プラットフォームにゼットンを絡めていけば、我々のECにも広がりが生まれるし、ゼットンにとっても新しいビジネスが生まれるはず。そんな期待をしています」

「海外展開も進めたい。ゼットンはハワイの事業が好調ですが、米国本土にも行きたいですね。アダストリアも米国に会社があるので、シナジーが出るだろうと」

「僕ら(アダストリア)は中国でも積極的に事業を展開しているし、東南アジアの事業も組織を格上げしました。ゼットンのアジアへの出店も期待しています」

「4月に発表した中期経営計画の中でも示したんですが、アパレルと周辺市場の垣根がなくなって、『ライフスタイル』という市場になってきています。最近話題になっている会社とか調子がいい会社の多くが、アパレルとか飲食、インテリアなどの垣根を越えて事業を展開している」

「僕らは会社のミッションとして『Play fashion!』を掲げています。そういう(業界の)垣根をなくしていろいろなところと組んで、様々な人に楽しみを提案していこうとしている。そこには洋服もあるし、フードもあるし、場づくりというのもあるでしょう。ライフスタイルをいかに『Play fashion!』につなげていくかという点で、ゼットンと組む効果が間違いなく生まれると思っています」

(日経ビジネス 藤原明穂、鷲尾龍一)

[日経ビジネス電子版 2022年9月12日の記事を再構成]

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