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EVで店舗販売消滅 ボルボ「オンラインは値引きなし」

スウェーデンのボルボ・カーはすべてのEVをオンラインで販売する
日経ビジネス電子版

スウェーデンのボルボ・カーが様々な経営改革を打ち出している。3月上旬には2030年までに電気自動車(EV)専業メーカーになることを発表。4月1日からは全世界の従業員に24週間の育児休暇を付与する制度を導入した。

その先頭に立っているのが、12年から社長を務めるホーカン・サミュエルソン社長だ。メディア露出が多く、ボルボの顔として広く知られている。その一方、番頭としてボルボの経営改革を進めてきたレックス・カーセマケルス氏は、あまり知られていない。

04年から役員に就任し、2年間のブランクがあったものの合計15年ほど経営幹部としてボルボの経営を支えてきた。主に販売やマーケティングなどを統括し、19年まで6年連続で販売台数を増加させた。そのカーセマケルス氏が、自動車業界の慣習に挑もうとしている。30年までのオンライン販売への全面切り替えだ。

書籍や日用品、食料品までいまや様々な物品がオンライン販売に切り替わっているが、自動車業界はそれがほとんど進んでいない。価格の高さもさることながら、ディーラーが営業・販売することが商習慣として定着している。自動車メーカーとディーラーの共存関係の中で、不可侵の部分でもあったため、ディーラーなどからの様々な反発が予想される。EV戦略と関連の深いオンライン販売についてカーセマケルス氏に話を聞いた。

――すべてのEVをオンライン販売に切り替える狙いは何でしょうか。また、ディーラーはどのような役割を果たすことになるのでしょうか。

「顧客はオンライン販売を必要としていて、製品の注文をオンラインでしたがっています。新型コロナウイルスの感染拡大によってその動きは後押しされ、高価な製品を扱う業界にも導入されました。自動車業界はその一部です」

「オンライン事業を導入すると同時にデジタルの分野に入っていくわけですから、従来の境界や個々のディーラーのくくりを超えることになります。プロセス全体を変える必要があり、ボルボとディーラーが1つのシステム内で統合されなければなりません。私たちの事業がオンラインに移行したからといって、ディーラーとの関係がなくなるわけではありません。実際のところは逆なのです」

「ディーラーは、顧客が車を注文する一連のプロセスに組み込まれています。ボルボの『マスターショップ(Volvocars.com)』は、顧客が車を注文したり詳細な情報を手に入れたりするためのサイトですが、顧客データベースとしても活用されます。私たちはディーラーと共に、この転換を進めていきます。ディーラーがアクセスできるデジタルシステムを構築して、ディーラーとつながる必要があります」

「これを世界中で展開するのは長い道のりです。世界中でEVを販売すると発表しましたが、この計画は、欧州で展開した特別なサブスクリプション制プログラム『ケア・バイ・ボルボ』からスタートしました。そして今、ボルボはEVと共に新時代に突入しようとしています。初のEVである『XC40リチャージ』でこの長い旅路を歩み始めたのです」

レックス・カーセマケルス氏。1960年、オランダ生まれ。ボルボ・カーのエグゼクティブ・マネジメント・チームには2004~08年、10年から現在まで就いている

――オンライン販売に関して、国によってディーラーの状況は違うと思います。米国ではディーラーを保護する法律があり、メーカーの直接販売を禁じる州があります。ボルボは欧州と中国、米国で売り上げを伸ばしていますが、各地域で販売方法は違ってくるのでしょうか。

「主なコンセプトは、顧客とコンタクトを取り、より直接的なプロセスをつくることです。25年までに販売の50%をオンラインにすることが私たちの目標です。そのため、ディーラーの役割は変わってきます。欧州ではそうした直接的なやり取りにおける問題はなく、ボルボから顧客に代金の請求ができます。中国でも同様です」

「しかし米国では法規制があり、最終的な取引はディーラーによって行わなければならず、私たちもそれに従わなければいけません。ボルボは『この価格で販売されるべきだ』という製品価格を設定していますが、最終的に取引をするのはディーラーなので、価格はディーラーの判断に左右されます。つまり、メーカーの設定価格とは異なるものになる場合もあるわけですね」

「とはいえ、全体としてはVolvocars.comのサイトが中心であり、顧客データベースの役割を担っています。このサイトが、顧客の主要なプラットフォームとなります」

2025年に新車の50%をオンライン販売に

――自動車メーカーにとって、ディーラーでの値引き交渉は収益を引き下げるだけでなく、ブランド価値を損なう可能性があるため大きな経営課題です。オンライン販売は将来的に値下げを防ぐものになるでしょうか。

「その通りです。 私たちは販売価格を設定しますが、当然その価格は他社に競合できるものでなければいけません。価格は市場によって変動します。間接的に値下げをすることもありますが、希望小売価格に大きく左右されるものです」

「ただし、オンラインの販売価格において値引きはありません。国ごとにモニタリングシステムを置き、常に最もリーズナブルな価格を提示していく必要があります。そうでなければ製品を売ることはできません」

――EVのほか、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車、従来のガソリン車はオンラインで販売しますか、それともディーラーが販売しますか。

「オンライン販売はEVを皮切りにします。XC40リチャージと、少し後に出るC40がスタートです。その後、徐々に扱う範囲を拡大していきます。先ほど述べたように、25年までに新車の50%をオンライン販売にするのが目標ですが、それでも残りの50%は従来の方法で販売します。この変化がどのくらい速く進むかはまだわかりません。始まったばかりですから」

――オンライン販売とサブスクリプションサービスやリースサービスは相性がいいと思います。将来的にこれらのサービスをどう強化していきますか。

「サブスクリプションやリースのサービスは高い顧客ロイヤルティーによって支えられているので、常連の顧客はとても大切です。これによって全体のビジネスモデルが変わりつつあります。これまでの卸売り型から、ネットフリックスのような、月ごとに料金を支払うサブスクリプション型のビジネスに移行しているところです。私たちから顧客に、または顧客が私たちに連絡をして、新しい車に変えたいときにサブスクリプションを更新するのです」

「ボルボの考え方は、ディーラーやリース企業に製品を卸すところから脱し、製品も顧客も自分たちで管理する方向に変わっています。そのためには当然、大変詳細な顧客データベースが必要となります。リース企業に任せるのではなく、すべてを自分たちで取り仕切ります。リース業界の仕事を自分たちでやろうとしているので、リース業界の領域に進出することになりますね」

――20年度のバランスシートでは、リース事業の資産が増加していました。この理由は何でしょうか。EVと関係があるのではないかと思っているのですが。

「そうかもしれません。それがまさに、XC40リチャージを『ケアパッケージ』と一緒に販売し始めた理由ですから。車を所有することにためらいがある人がリースを利用します。私たちは新時代、新領域に入っているのです」

「EVのXC40リチャージでは、手間をかけずにボルボ車を楽しんでもらえるようになりました。オンラインでとても簡単かつ便利に注文ができ、また常に修理やメンテナンスの保証がついてきます。国によっては保険も含まれます。リーズナブルな価格で、パッケージ一式を提供しているのです。すべて手配済みなので、顧客は製品を充電するだけでいいのです」

「多様な充電設備プロバイダーがいる国であっても同じことです。様々なブランドの充電ステーションと提携するために、多くの機能を持つ統括的なアプリもボルボで開発しました。事務的なことは私たちが行い、顧客は好きな場所で充電できます。これにより、リースユーザーにも貢献できていると思います。リースを利用する人は複雑な手続きなく簡潔に車を使いたいのです。ボルボはその簡潔性を生み出しました」

ディーラーからの反発はもちろんある

――オンライン販売に移行してもディーラーの役割は重要だということですが、これまでディーラーにとって販売は重要な仕事でした。ディーラー側から批判や不安の声は上がりませんでしたか。

「ええ、反発はもちろんあります。ただ変化には抵抗がつきものです。新しいビジネスモデルですから。ビジネスモデルが変われば自分たちの仕事もどうなるかわからないので、ディーラーは不安になるでしょう。ただ、彼らは価格決定にプレッシャーがかかっていることもわかっています。私たちは市場での適正価格をしっかりと維持する必要があります。利幅はすでにとても薄いので、市場適正価格より安く売ることはできません」

「オンライン販売によって生まれる(価格の)安定性はもちろん大変重要です。ですが、私たちはディーラーに対して、『私たちはビジネスモデルを変えるけれど、ディーラーはその変化の中に組み込まれている』ということを常に明確にしてきました。オンラインに移行して顧客をすべてさらおうとしているわけではありません。実際はその逆です」

「私たちはスムーズなオンライン/オフラインの仕組みをつくろうとしています。オフラインでは、自分たちで何でもするわけにはいかず、ディーラーに任せることとなります。サービスや製品に関するアドバイスなどですね。ディーラーの役割はこれまでと変わりません」

「ただそれと同時に、効率を高めようとしています。サブスクリプションプランや製品提供、料金請求をオンラインで行えば、納車までのすべてのプロセスを自分たちで管理できるようになります。そうして、自動車業界全体の経済を成長させ、より良いバランスを見つけようとしています」

「これには、現在は自分たちでできることに多くの人件費を割いており、大きな損失につながっているという背景があります。とはいえ、利益をすべて自分たちだけのものにしたいということではありません。ボルボとディーラーにとってウィン・ウィンの状況をつくりたいと考えています。現在はバランスを取り直しているところで、新しい報酬体系を再構築しています」

――これまでの自動車業界の商習慣を変えるため、大変な取り組みになりそうです。

「これは革命と言えます。自動車業界の中で、ボルボはその革命を率いていくことを選びました。何もないところから始め、同じことを成し遂げた米国のメーカーもありますね。私たちが取り組んでいくのは、すでにしっかりと確立されたネットワークを活用することです。これはボルボのアドバンテージだと捉えています。毎日ボルボで働く全世界の従業員は、素晴らしい仕事をしてくれています」

――その米国のメーカーであるテスラと比べ、ボルボの強みは何でしょうか。テスラはEV専業でオンライン販売が主流です。

「ボルボはアドバンテージのある状態でスタートしたと思います。ブランドはよく知られていて、信頼されており、製品もたいへん安全です。これが私たちの出発点です。そしてそこに、顧客が望む変化を加えていきます。EVの性能には自信があります。さらに、一流のカスタマーサービスで素晴らしい体験を顧客に届けてくれる、2400ものディーラーが世界中にあります。他社と比べて、これがボルボの大きなアドバンテージです」

◇  ◇  ◇

筆者は、ドイツのウォルフスブルクにあるフォルクスワーゲン(VW)の本社に足を運んだ際には、本社近くにある自動車博物館内の巨大な納車スペースに必ず訪れるようにしている。多くの人たちがピカピカの新車の前で記念写真を撮り、自ら運転して出庫していく様子を眺めていると、車を所有する喜びがひしひしと伝わってくる。

自動車オーナーにとって納車は特別な瞬間で、遠方はるばる駆けつけ、博物館見学とセットで納車を楽しむ人もいる。私が話を聞いた人は、地名は忘れてしまったが、家族と別の車で本社まで引き取りに来たことを喜々として話してくれた。

ボルボは今後、ディーラーが販売する機会は減っていくが、購入の相談や納車はするとしている。欧州のディーラーではマイカーの修理をカフェ風の待合スペースからガラス越しに眺められるところが多い。オンライン販売に移行すると、サービスの優劣によりディーラーの選別がより進みそうだ。

一方、オンライン販売への移行で、様々な販売手法が生まれる可能性がある。3月にボルボ・カー・ジャパン(東京・港)は新型EV「C40」のオンライン販売について、100台はサブスクでの契約になると発表した。さらに、「EVを試してみたいが不安がある」という顧客に対応し、100台のサブスクについては3カ月を過ぎればペナルティーなしで解約できるという。

(日経BPロンドン支局長 大西孝弘)

[日経ビジネス電子版 2021年4月13日の記事を再構成]

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