三菱マテリアル参入 EV用電池リサイクルで合従連衡

「レアメタルの需要は今後逼迫することが懸念され、資源循環の拡大は当社の中長期的な事業戦略においても重要だ」。12月2日、エンビプロHDと使用済みリチウムイオン電池のリサイクル技術を共同開発すると発表した席上、三菱マテリアルの高柳喜弘執行役常務は同電池のリサイクルに参入する狙いをこう語った。
リサイクルでは、まず使用済み蓄電池を焼却・破砕してブラックマスと呼ばれる黒い粉をつくる。その後、ニッケルやコバルト、リチウムなどのレアメタルを取り出し、正極材などの電池材料に再利用する流れだ。
このうち、ブラックマスから薬品などを用いてレアメタルを取り出す「湿式精錬」の技術をエンビプロHDと共同開発する。三菱マテリアルの銅製錬所の近くに新設備をつくり、共同での新会社設立も視野に入れる。25年度中の事業化を目指し、取り出したレアメタルは電池材料メーカーに販売する。
先行する中国や韓国を追撃
ブラックマスの製造はエンビプロHDが担う。同社ではすでに電池の製造工程で発生する廃材などを使用してブラックマスを製造しており、海外電池メーカーへの販売実績もある。佐野富和社長は「中国や韓国は電池リサイクルをかなり先行してやっている。(EV普及で)使用済み電池が大量に発生し始める30年に向けて、中国や韓国、欧米各国にも負けない体制をつくっていきたい」と強調した。

エンビプロHDは単独での湿式精錬参入も検討したが、精錬に必要な硫酸の安定調達や排水処理設備の確保が難しく、三菱マテリアルに声を掛けた。「独自でやった場合よりも、立ち上げが早くコストも抑えられるため競争優位を確保できるのではないか」と佐野社長は期待を込める。
車載用電池の市場は3倍に
矢野経済研究所(東京・中野)によると、世界の車載用リチウムイオン電池の市場規模は30年に21年比で約3倍に拡大する見通し。環境面からもリサイクルは不可避となっており、欧州連合(EU)の欧州委員会は20年12月、電池に関する規則の改正案を発表。蓄電池の原料について、30年にコバルトの12%、ニッケルの4%、リチウムの4%をリサイクル由来にしなければならないと記載した。
三菱マテリアルはこれまで、電池の正極材に使う高純度のレアメタルの精錬などはしてこなかったが、今回の共同開発で電池材料の生産に本格的に参入することになり、成長産業への足がかりができる。
非鉄業界では三菱マテリアル以外の大手も、EVの普及が見込まれる30年前後をターゲットに、「同盟」による電池リサイクルの技術開発を加速している。
住友金属鉱山は関東電化と
住友金属鉱山は22年1月、関東電化工業と共同で高純度のリチウムをリサイクルする技術を確立したと発表した。正極材を製造する住友金属鉱山はブラックマスなどからニッケルやコバルトを取り出す実証実験には成功していた。しかし、製錬時にニッケルやコバルトから分離するスラグに含まれるリチウムを高純度で取り出す技術がなかった。そこで頼ったのが、電池の電解液などに使用する「六フッ化リン酸リチウム」を製造する関東電化だった。
住友金属鉱山は、関東電化にスラグを販売することで収入増につながり、関東電化はリサイクル由来のリチウムを安定的に調達することが可能となる。
DOWAホールディングス(HD)は研究機関と手を組んだ。子会社のDOWAエコシステム(東京・千代田)はブラックマスの製造をしているが、11月に秋田大学との共同研究結果としてブラックマスから正極材の製造に成功したと発表した。また、JX金属はリサイクル技術の共同研究のため、独自動車大手フォルクスワーゲンなどのコンソーシアム(共同事業体)への参画を決めた。
政府は経済安全保障の観点から、国民生活に不可欠で安定供給を確保すべき「特定重要物資」の候補の1つに蓄電池を挙げている。原料のレアメタルを海外からの輸入に頼る日本では、リサイクルする仕組みの確立が不可欠だが、課題はコストだ。三菱マテリアルの高柳氏は「(25年度を見込む)事業化時点での黒字化というほど楽観はしていない」と話す。もくろみ通りにEVが普及し、量産効果が出てくるまでは各社とも我慢比べを強いられる可能性がある。
(日経ビジネス 田中創太)
[日経ビジネス電子版 2022年12月12日の記事を再構成]
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