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値上げか減量か 日本ハムの線引き、スタバの価格術

日経ビジネス電子版
原材料価格の高騰などを背景に商品価格の値上げが相次いでいる。だが、消費者にとって値上げは購買意欲を打ち消す要因となりかねない。企業はあの手この手で割高感の軽減を図る。

「規格変更」でも越えない壁

いかにして消費者に割高感を与えないか。価格を上げるのではなく、内容量を減らして対応する企業もある。日本ハムも2月から一部の商品で内容量を見直した。例えば冷蔵ピザの「石窯工房」は、生地のサイズを小さくするなどしてコスト削減を図った。

一方、ウインナーソーセージ「シャウエッセン」のように単純に値上げした商品もある。家庭向けや業務用合わせて同社商品の424品目が改定対象となり、そのうち約6割は値上げ、約4割は内容量を減らすなどの「規格変更」を行った。これらを値上げ率に換算すると5~12%に相当するという。

ではどうして施策が2つに分かれたのか。

加工事業本部、長田昌之マーケティング推進部長は「一般的にお客様は値上げに敏感に反応する。規格の見直しで商品価値が担保できるのであれば規格変更を選択する」と説明する。

しかし、それも簡単ではない。例えばピザであれば生地のサイズやチーズ、ソースの量など、何を変えるかで何通りもの組み合わせを試す。半年近くの試行錯誤の末、「それでも価値を損ねてしまうと判断した商品は、最後の手段として値上げに踏み切る」と長田部長は言う。

それは「第2の新商品開発」とも言える活動だ。しかも「(既存製品という)目指すべき商品像があるだけに、新商品開発よりも自由度が低い」(長田部長)という難しさがある。今回も結果的に6割が値上げに踏み切ったことから分かるように、大半の規格変更は不調に終わるのだという。

2月に値上げをしたシャウエッセンもそうだった。この商品は2013年に、1本を約1グラムずつ少なくする商品規格の変更を実施していた。今回も検討したが「これまで守ってきた価値を毀損してしまう」と判断し、見送った。単純に6本入りを5本入りにする手もありそうだが、「6本のうち4本を朝食で、2本を弁当で使う」といった顧客の生活習慣にも直結するため、簡単には変えられないという。

「ステルス値上げ」とやゆされることも多い規格変更だが、売れ続ける定番商品には、緻密な計算と、越えてはならない一線があるのだ。

「値下げ品」との合わせ技

値上げだけではなく、一部商品を値下げしたのが、スターバックスコーヒー ジャパン(東京・品川)だ。

ドリップコーヒーのショートサイズを319円から350円にする(店内価格・税込み、以下同)など、4月13日から定番ドリンクのほとんどで価格を引き上げた。一方、植物性ミルクを使ったソイラテ、アーモンドミルクラテなどは「お楽しみいただける機会を提供する」として価格を引き下げた。

これは何を意味するのか。「原材料が上がったから反映したというだけではない、明確なスタバの戦略が見える」と語るのは、プライシングスタジオ(東京・港)の高橋嘉尋社長だ。同社は、価格変更によるインパクトを最小限に抑える「プライシングコンサルティング」を手掛ける、ユニークなスタートアップである。

高橋氏が最も注目するのは、スターバックスラテの値付けだ。以前はサイズによって374~506円だったが、値上げで415~545円となった。一方、ソイラテなど植物性ミルクを使ったドリンクは429~561円から415~545円に。これにより、両者は同一価格になった。

植物性ミルクは牛乳に比べて生産時の環境負荷が少なく、SDGs(持続可能な開発目標)の観点で注目されている。いわゆる高付加価値商品という位置づけで高めの価格設定をしていた。しかし、英国のスタバでは22年1月から植物性ミルクの追加料金を撤廃している。日本もこの流れに乗った形だ。スターバックスラテを無料で植物性ミルクに変更できるようにすることで、環境配慮の姿勢を打ち出しながら、味を選ぶ楽しさも提供できる。

ただ実際、すべてのラテが同じ価格になったとき、消費者は何を選ぶのか。高橋氏が独自調査したところ、「それでもスターバックスラテを選ぶ人が最も多い」という結果が出た。

高橋氏の試算では、改定前に418円だったスターバックスラテのトールサイズを、450円や460円にすると、顧客数がこれまでと比べて2.7%減るものの、売り上げは客単価の上昇により450円で4.7%、460円なら7.0%も跳ね上がる。

しかし500円になると売り上げこそ7.1%増えるが、顧客数では10.4%も離反する。客数の減少を極力抑えながら、売り上げも伸ばしたいと考えたとき、ベストな価格帯が450~460円で、実際にスタバは455円という絶妙なラインで価格を決めた。

「収益を確保しながら、SDGsの文脈にも対応した」(高橋氏)と言える今回のスタバの価格改定は、まさに計算された一手だったのだ。

高橋氏によると、価格戦略には鉄則がある。一つは消費者がここまでなら払っていいという「支払意思額」を超えないこと。そのうえで値上げする際は利用者への周知を徹底する。

海外でよくあるのが「サービスをよくするために値段を上げます」と表明する戦略である。前向きな理由であれば顧客の納得を得られやすい。今回のスタバのように値上げと値下げを交ぜるのも、値上げによるイメージダウンを緩和する点で有効だという。

アルペンは「逆張り値下げ」


「今こそ、今だから 値下げしました」。東京・新宿で4月1日にオープンしたアルペンの旗艦店「Alpen TOKYO」。その一角に値下げをアピールする看板が掲げられていた。

値下げしたのは「ティゴラ」などプライベートブランド(PB)の春夏向け商品。Tシャツやパーカー、ズボン、カーディガンなどが対象で、4月末時点で約150商品ある。5月にはさらに30商品ほどが加わる予定だ。値引き率は平均20%以上で、中には半額のものもある。
売り上げ不振による値下げ販売というわけではない。もちろん、在庫処分や傷が付いた訳あり商品でもない。
利益を確保しながら値下げできた理由は生産体制の見直しによるコスト削減が大きい。同社の製品の多くは従来、中国の企業に生産委託するものが多かった。だが、中国では人件費をはじめとした生産コストが年々上がっており、収益を圧迫するようになっていた。そこでここ数年、同社はベトナムやインドネシアなどの東南アジアに生産拠点を移している。
また、スポーツウエアのような季節性が高い衣服は、メーカー各社からの注文が特定の時期に集中する傾向がある。そうした繁忙期は取引価格も上昇するため、アルペンは従来と時期をずらし、閑散期に発注することで仕入れ価格を下げた。
とはいえ、値上げに踏み切っている他の商品と同様、原材料や輸送費などの高騰や、円安といった逆風は同じ。生産コスト低減にも限界がある。アルペンの菅原一剛アパレル事業部長も「正直、苦しくないわけではない」と明かす。
それでも値下げを選択したのは「あらゆる物の値段が上がっている今こそ、価格優位性を生かしてプライベートブランドを広めるチャンスだ」と考えたからだ。「創業50周年を迎えた今年、勝負をかける」と菅原部長は話す。
価格が上がって当たり前の局面だからこそ、値下げは消費者に大きなインパクトを与える。可処分所得が伸びない中ではなおさらだ。さて、アルペンの逆張り値下げ戦略は吉と出るだろうか。

(日経ビジネス 藤中潤、酒井大輔)

[日経ビジネス 2022年5月16日号の記事を再構成]

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