業績アップの先行指標「NPS」 上げると株主にも恩恵

このブランドを友人らに薦めたいですか――。この1問に絞り、取材班は2022年に続いて2回目となる消費者1万人調査を実施。薦めたい度合いを0〜10点の11段階で選んでもらった。9〜10点を選んだ人を「推奨者」、7〜8点を「中立者」、6点以下を「批判者」と分類。推奨者の割合から批判者の割合を差し引いたNPSを算出した。
ブランドを信頼し、愛着を持たなければ、薦めることはできない。つまりNPSのスコアの高さは「ファン」の割合が高いことを示す。

NPSのスコアが上がれば、企業の売り上げはどう変わるのか。それを分かりやすく示したデータがある。
日本国内の主要クレジットカードを対象に「そのカードを親しい友人や知人に、どの程度薦めたいか」を、0点から10点の11段階で選んでもらう。すると、推奨度が10点の利用者は、5点の利用者と比べて毎月のカード利用額が平均で2万円多く、平均利用回数も2.4回多いという結果が出た。
折れ線グラフで描き出すと、点数が高くなるにつれて利用額も利用回数もおおむね右肩上がりになっていく。調査を手掛けたエモーションテック(東京・港)の石垣大輔氏は、これまで数々の業界でNPSを調査してきたが、「推奨度の高さと利用頻度・回数には一定の相関関係がみられる。クレジットカードだけでなく、自動車や家電、保険など様々な業界で同様の傾向がある」と指摘する。

9点や10点をつける推奨者は、その商品やサービス、ブランドを心から気に入っている可能性が高い。推奨者と長期にわたって良好な関係を築いていくことで、LTV(顧客生涯価値)も高まり、業績の向上が期待できる。
NPSを補完するEGR
NPSを考案した米コンサルティング会社のベイン・アンド・カンパニーは、「NPSは将来の業績成長につながる先行指標」(東京オフィスの大越一樹パートナー)と位置付ける。
実際、NPSのスコアが高い国内の「NPSリーダー企業」11社を対象に2011年1月1日から10年間の株主総利回り(TSR、キャピタルゲインと受取配当金の総額を投資額で割った比率)を分析すると、東証株価指数(TOPIX)構成銘柄の平均を大きく上回るリターンを生んでいる。

NPSの長所は、既存顧客のロイヤルティーを数値として可視化できることにあるという。NPSを上げるためにPDCA(計画・実行・評価・改善)を回す過程でファンが増えて収益が伸びる。結果、株主へのリターンも大きくなるという流れだ。「実際の成果につながるまでには時間がかかるが、スコアが上がれば業績が今後上がっていくという確からしさがNPSにはある」(大越氏)
そしてこのNPSを補完する指標としてベインが新たに提唱しているのが、プロモーター獲得成長率(EGR)である。EGRは広告以外の手法でどれだけ売り上げを増やせたかを可視化する。既存顧客による継続的な売り上げと、口コミで獲得した新規顧客の売り上げ拡大を追う指標だ。これをNPSと組み合わせることで、顧客のロイヤルティーを高めた成果を、実際に売り上げ増という形で収穫できているかどうかをつかめる。
重要なのはNPSやEGRを計測するだけでは意味がないということ。分析して地道に改善を重ねることで、初めて強固なファンベースを獲得できる。
(日経ビジネス 酒井大輔)
[日経ビジネス電子版 2023年3月10日の記事を再構成]
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