「未来の車」地固めへ 独ボッシュが出資する企業の数々

ボッシュは未来の車の土台作りに励んでいる。ステアリングコラム(ハンドル軸)などの規格部品に加え、自動運転技術や電動化機器を手掛けている。
自動運転車やEVへのシフト加速に伴い、ボッシュのような自動車部品メーカーは高度な電子機器や半導体など次世代の自動車技術への投資を増やし、他のメーカーとの協力態勢の構築に動いている。こうした部品メーカーでは他社製のハードウエアやソフトウエアを扱う機会も広がっており、優位性を保つには新たな提携や投資を続けていく必要がある。
今回のリポートではCBインサイツのデータを活用し、ボッシュの最近の買収、出資、提携から同社の4つの重要戦略についてまとめた。この4つの分野でのボッシュとのビジネス関係に基づき、各社を分類した。
・車載半導体
・自動運転車
・コネクティビティー(接続性)
・電動化

車載半導体
車のコネクティビティー、自動化、電動化の進展に伴い、半導体は車に欠かせない存在になっている。シートヒーターから死角の察知、先進的な運転支援に至るまで、車載デジタル機能にはそれぞれ特定の半導体が必要だ。このため、典型的な車1台に平均約1200個の半導体が搭載されている。
自動化の推進により半導体の需要は一段と高まっている。センサーやカメラなど自動運転の中核技術には半導体が必要だからだ。
だが、世界的な半導体不足のなかでの需要の高まりにより、ここ数年は自動車生産が混乱している。こうした事態を受け、自動車メーカー各社は半導体メーカーとの提携を模索するようになっている。
ボッシュはこの機会を活用している。半導体のサプライチェーン(供給網)強化を目指す自動車業界の顧客に応えるため、2021年にドイツのドレスデンで12億ドル規模の半導体製造工場を稼働させた。

さらに、完全自動運転車の実用化に向けたコンソーシアム「AVCC(Autonomous Vehicle Computing Consortium)」の設立を支援した。AVCCには英アーム、米エヌビディア、オランダのNXPセミコンダクターズなどの半導体メーカーや、独コンチネンタル、デンソー、米ゼネラル・モーターズ(GM)、トヨタ自動車などの自動車メーカーが参画している。自動運転車の大規模な開発と展開に伴う技術やシステム面での課題に共同で対処するのが狙いだ。
ボッシュは22年9月、トランシーバーや放送用チューナーなどプロセッシング部品の無線周波数(RF)設計の専門企業、オランダのItoMを買収した。高度先進運転支援システム(ADAS)など車載SoC(システム・オン・チップ)の開発を強化することで合意した。同月には、ディープラーニング(深層学習)向け半導体を手掛ける中国の寒武紀科技にも出資した。
自動運転車
自動運転車をきちんと機能させるには、多くの新たなテクノロジーが必要になる。このため、ボッシュはこの分野での機能構築を支える2社を買収している。
22年初めにはレベル3(特定条件下で自動化・緊急時には運転者が操作)とレベル4(特定条件下で完全自動化)の自動運転で使う3次元(3D)マップを手掛ける独アトラテック(Atlatec)を買収した。数カ月後には、ロボタクシー車両の開発から自動運転ソフトの提供に事業を転換した英ファイブAI(Five AI)も傘下に収めた。

巨額のコストや厳しい安全基準など自動運転技術の開発に伴う難題を踏まえ、他の業界大手との提携も進めている。19年には独メルセデス・ベンツグループと組み、米カリフォルニア州サンノゼでレベル4と「レベル5(完全自動化)」の開発を重視した自動運転車の配車プロジェクトを始めた。20年には米フォード・モーターと米ベッドロック(Bedrock)と共同で、自動パーキングについての研究を実施した。
この分野の企業に積極的に出資もしている。20年には自動運転システムを開発するハンガリーのAIモーティブ(aiMotive)に資金を投じた。AIモーティブはその2年後、欧州自動車大手ステランティスに買収された。ボッシュは自動運転システムを手掛ける中国のモメンタ(Momenta)のシリーズC(調達額5億ドル)にも参加した。
ボッシュはこうした活動により、自動運転機能の社内開発を強化している。主にモビリティー・ソリューションズ部門が開発を担っている。
コネクティビティー
クラウドベースのデータプラットフォームからテレマティクス(車両向け情報通信)を活用した保険に至るまで、車のコネクティビティーもボッシュの重要戦略だ。
例えば、同社は車の利用や生産性に関するデータをリアルタイムで収集するデバイス「コネクティビティ・コントロール・ユニット(CCU)」を提供している。これはクラウドを活用した自動車データプラットフォームでの2社との提携の中核になっている。この2社とは、衝突を検知し、盗難車を取り戻すなどのコネクテッドカー(つながるクルマ)システムを手掛けるカナダのモジオ(Mojio)、インテリジェントネットワーキングに加え、緊急時の自動通報などデジタルモビリティーサービスを提供する独ソノモーターズ(Sono Motors)だ。
ボッシュは運転行動に関するデータを収集するブルートゥース(近距離無線通信)機器「テレマティクス・イーコール・プラグ(TEP)」も手掛ける。この機器は衝突の深刻度を判断し、必要に応じて緊急コールセンターに通報する。さらに、運転手向け緊急サービスを開発し、保険会社に衝突の詳細を提供するために、クロアチアの保険テックスタートアップ、アモド(Amodo)と提携している。
20年にはインドの車両管理スタートアップ、ルートマチック(Routematic)のモビリティー製品の拡充を支援するため、同社に200万ドルを出資した。
電動化
ボッシュは電動モビリティー部品のトップメーカーで、モーターやパワーエレクトロニクスなどのEV部品に世界で60億ドル以上を投じている。19年には独ダイムラーとの共同出資会社EMモーティブを完全子会社化した。これにより、ダイムラーやステランティスの「フィアット」「プジョー」、独フォルクスワーゲンの「ポルシェ」、独EV配送車のストリートスクーター、スウェーデンのボルボ・カーに電動モーターを提供する独ヒルデスハイム工場を取得した。
その後、米サウスカロライナ州チャールストンの自社工場に2億6000万ドルを投じる方針も明らかにした。この工場ではGM、フォード、米新興EVメーカーのリビアン・オートモーティブ、米テスラなどの大手自動車メーカー向けに電動モーターなどのEV部品を生産している。
さらに、車載電池メーカーの米セルリンク(CelLink)と中国の易来科得(Electroder)に出資もしている。セルリンクは電池のセルやパックの接続を手掛け、易来科得は電池の設計や生産システムを提供している。易来は自社のシステムを使えば開発時間とコストを減らせるとしている。
もっとも、ボッシュの出資先の一つは波乱の様相を呈している。同社は19年、EVトラックと燃料電池トラックを開発する米ニコラに少なくとも1億ドルを出資した。だがその後、ニコラの創業者は自社の株価をつり上げるために虚偽の説明をしたとして訴えられ、有罪判決を受けた。それでもなお、ニコラは22年末、燃料電池メーカーの米プラグ・パワーに燃料電池トラック最大75台を販売する契約にこぎ着けている。
関連リンク
関連キーワード