再生プラスチックがヒット商品生む ソニーはイヤホン
Earth新潮流 日経ESG 宇野麻由子

リサイクルプラスチックを使いながら付加価値を高めた商品が売れている。英アパレルA.S.H.S.のブランド、アニヤ・ハインドマーチは2020年、「I AM A Plastic Bag」というメッセージをデザインしたバッグを発売した。
プラスチックでも原油から作る新品(バージン材)ではなく、高級アパレルで使われてこなかった市中で回収したペットボトルが原料の再生プラスチックだ。大きいサイズのバッグは9万7900円と高価格だ。だが、デザイナーのアニヤ・ハインドマーチ氏は「より若い世代に顧客層が広がった。人気があり、成功している製品だ」と好調な売れ行きを明かす。
スポーツブランドの独アディダスは海洋環境保護団体のパーレイ・フォー・ジ・オーシャンズと協力し、海洋プラごみをリサイクルした素材「パーレイ・オーシャン・プラスチック」を使用したウエアやシューズを販売する。同プラスチックを使用したシューズの販売個数は累計で5000万足を超えた。
AirPods超え
日本企業の取り組みも出始めた。ソニーが22年2月に発売した完全ワイヤレスイヤホン「LinkBuds(リンクバッズ)」は発売直後に、家電やIT機器の実売データ「BCNランキング」で米アップルの「AirPods(エアーポッズ)」を抜き、首位に躍り出た。

魅力の1つはサステナビリティーだ。本体にリサイクル(再生)プラスチックを使い、包装材は全て再生紙による「脱プラスチック」を果たした。オープン価格(市場価格は税込み2万円前後)という高価格帯の商品ながら、Z世代を中心に高い評価を獲得した。
コーセーのメーキャップブランド「アディクション」は4月、再生プラスチックで実現したスタイリッシュなコンパクトケースを発売した。再生材を使いながら岩石などの自然物のような風合いを表現した材料を、ファッション性の高いブランドの製品に投入することで、"エシカルは格好良い"との意識醸成を狙う。コストが高くなった分、価格は通常製品より100円高く設定したが、売り上げは好調だという。
プラ新法が後押し
日本では4月、プラスチックのリサイクルなどを促す「プラスチック資源循環法」が施行された。企業は商品の設計時にプラスチックを過剰に使うことを避けて最小限の使い方をするほか、リサイクルの仕組みを整えることなどが求められる。
国の動きに前後する形で、企業は経営方針としてバージン(新品)のプラスチック使用量の削減を掲げる。10年に環境計画を打ち出すなど以前から取り組みを進めるソニーでは、25年度までに製品1台当たりの新品プラスチック使用量を18年度比で10%削減するとの目標を掲げる。
コーセーは20年にサステナビリティープランを発表している。30年までにプラスチック容器包装の100%をサステナビリティーに配慮した設計にする計画だ。
だが、トップダウンの方針だけでは、プラスチックの削減や代替材料の探索など限定的な対策にとどまりがちだろう。ソニーやコーセーでは経営方針が現場に浸透し、各現場がそれぞれ"自分ごと"としてとらえるようになった。方針にのっとりながら「どうすればブランド・商品がより魅力的になるか」を考えるようになった。その結果、リサイクルプラスチックを製品の価値向上につなげる事例が出始めたというわけだ。
もう1つ、ヒットの背景にあるのは、大量のプラスチックが一度使われただけで捨てられ、有効利用されていないことに社会が疑問符を付け始めたことだ。
18年、海洋プラスチックごみが生き物に悪影響を及ぼしていることが多くの人に衝撃を与えた。身の回りのプラスチックごみの排出を抑え、過剰な消費や使い捨てを見直し、貴重な資源としてリサイクルすることが急務という認識が強まった。
こうした動きが先行する欧州に対して、日本の意識は低い傾向にあるとされるが、期待を集めるのが「Z世代」である。アーンスト・アンド・ヤング(EY)が22年1月28日~2月15日に24カ国の約1万8000人に行ったインターネット調査によると、日本の18~25歳のZ世代(回答者101人)は、「サステナブルな製品により多くお金を払ってもいい」(41%)、「環境や社会に悪影響を及ぼす製品は好まれない」(38%)と回答した。
圧倒的多数ではないものの、デジタルネーティブとも呼ばれるZ世代は、SNS(交流サイト)などを通じた情報発信力が強く、25年以降はミレニアル世代と共に日本の生産年齢人口の過半を占めるようになる。Z世代は日本のサステナブル消費のけん引役になると注目を集める。
さりげなさが重要に
サステナビリティーでヒット商品を生んだ企業は、Z世代を中心に変化する消費者の関心をつかむ商品開発と、効果的に伝えるコミュニケーションを実践している点が共通している。例えば、若い世代の心を動かすのは、商品の背景にある「ストーリー」への共感だ。
高い透明性で情報を開示して共有される今、商品や企業の「評判」も商品力になる。一方で、SDGs(持続可能な開発目標)などへの対応の大々的な発信は逆に反発を招くこともある。押しつけがましくない、さりげない伝え方を探りたい。
[日経産業新聞2022年7月15日付]
