2021年動画配信 アニメが人気、オリジナル作品も健闘
定額制動画配信(SVOD)サービスは、2020年に日本でも一般的になった。では21年はどんな動きを見せたのか。エンタテインメント業界向けのデータ×デジタルマーケティングサービスを提供しているGEM Partnersの代表取締役の梅津文氏に話を聞いた。まずはサービス別の利用状況から。
「ユーザー数ではAmazonプライム・ビデオが他を大きく引き離しています。Netflixが続きますが、その差は小さくありません。一方、利用率(※)の変化を見ると、ディズニープラスの成長が顕著です。米国に比べると、Netflixに対しては大きな差がありますが、伸び率としてはこの2年で約4倍になっています。もう1つ、利用者数が増えているのは、dアニメストア。月によってはディズニープラスと競うときもあるぐらい、利用されています」
(※)同社が毎月1万人弱を対象に実施している「定額制動画配信サービス ブランド・ロイヤリティ調査」で、調査対象となっている18のSVODを有料アカウントで利用している人の割合
利用者の属性はどうだろう。全体的に多くの配信で女性層にも広がってはいるが、年代構成などには変化がないという。
「特定の年代が増えたというより、すべての年代で増えているという状況です。米国では7割の人がSVODを利用しているという調査があるのですが、日本はまだ3割。コロナ禍でアメリカはSVOD利用者において利用サービスが3本から4本に増えたという調査もありますが、日本は主要サービスの中で1.4本が1.5本になった程度の変化で、市場の拡大はまだ"初めてSVODを利用する人"の増加によるものです」
今後はまだ配信を利用していない7割をどう獲得するかが、重要なカギになる。
21年、最も見られたのは

では、21年によく見られたコンテンツは何だろうか。GEM Partnersでは、SVOD利用者に「何を見たか」を聞くアンケート調査を毎週行っている。その結果、1年間を通して1位になったのは『呪術廻戦』だった。2位には『鬼滅の刃』が続く。
この調査は、アンケートに答える人が作品名を自由に記述するもの。具体的に作品のどのエピソードを見たのかは調査の対象外。アニメと実写、テレビドラマと配信オリジナルなど、複数の作品がある場合も、区別はしない。
例えば9位に『キングダム』が入っているが、同作はアニメ、実写に加えて、Netflixの韓国ドラマ版もあり、視聴数はそれを合算したものとなる。
ランキングを見ると、1位から10位までをアニメ化されたコンテンツが占めている。それぞれ月別の順位変動を見てみよう。
「20年の冬までは『鬼滅の刃』が強かったのですが、21年の2月から『呪術廻戦』が抜いて、そこから首位をずっとキープしていました。その後、4月頃から上昇してきた『東京リベンジャーズ』が6月に入れ替わっています。また『名探偵コナン』は4月の映画の公開タイミングで順位を上げています」

21年、話題をさらった『イカゲーム』は9月に初登場し、10月に2位まで上がった。ただ年間を通してみると、20年の韓流ドラマブームをけん引した『愛の不時着』のほうが上位に来ている。
「こうした過去の作品がいつまでも強いという動きは、配信ならではの現象でしょう。『イカゲーム』を見たことで、これまで韓国ドラマに興味はなかったけれど、この機会に20年に話題になった『愛の不時着』に目を向ける。結果、過去の作品がランキングでいつまでも強いという動きが生まれています」
人気作品はどこでも上位
人気ランキングの上位にランクインした作品の多くは、複数の配信サービスで楽しめる作品だ。これはアニメに限らず、他のジャンルでも同じことが言える。
「例えば、13位にランクインしている『ウォーキング・デッド』。これはジャンル別の"海外ドラマ"では1位で、本当に根強いファンがいます。"海外ドラマ"の中では高い人気を誇る『NCIS』も長年のファンが多い。ただ、『NCIS』も『ウォーキング・デッド』も、複数の配信サービスで楽しめる作品です。また、"日本ドラマ"の中で上位にあがる『孤独のグルメ』も複数の配信サービスで楽しめるものになります」
こうしたランキングを見ていると、改めてNetflixの独自性が際立つ。
「『海外ドラマ』ジャンルで上位に入った『愛の不時着』『イカゲーム』はNetflixでしか見られないコンテンツ。『全裸監督』もNetflixオリジナルですね。サービス別の全体の視聴ランキングを見ると、やはり『呪術』『東リベ』などのアニメが上位に来るのですが、ランキングの半分くらいは『愛の不時着』『イカゲーム』など、オリジナル作品が入ってくる。そういう意味では、Netflixは独自性をしっかりと打ち出していると言えます」
そのサービスでしか見られない、という路線をさらに進めたのがディズニープラスだろう。
「サービス別視聴ランキングを見ると、『ロキ』『マンダロリアン』など上位に来るのは、他の配信では全く見られないオリジナルシリーズばかり。数あるSVODの中では突出しています。ディズニープラスは10月末に、新たなブランド、STARが加わったことで、作品数が1万6000超も増えました。量も確保しつつ、これまで以上に独自性が広がっています」
例えば、STARブランドでは、前出の『ウォーキング・デッド』のファイナルシーズンを独占先行配信しているので、一刻も速く見たいなら入るしかない。また20世紀スタジオやサーチライト・ピクチャーズなどの映画作品や海外ドラマのヒットシリーズもそろっている。その中には他の配信サービスでは見られない、見られたとしても別料金がかかる作品も多く、ディズニープラスならではの魅力がさらに増したと言える。
面白いのは、幅広い作品をそろえたAmazonでも、ここでしか見られないジャンルの作品をそろえていること。
「Amazonは利用者数、作品数も多いのですが、注目はバラエティコンテンツが強いということ。ランキングの15位に『HITOSHI MATSUMOTO presents ドキュメンタル』がランクインしています。21年9月から配信スタートした『ザ・マスク・ド・ザ・シンガー』、人気コンテンツになっている『バチェラー・ジャパン』など、他にも人気を得ているバラエティ作品が多いですね」
21年の配信業界の注目は

21年の配信業界の動きで梅津氏が注目したのは何か。
「『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が3月に劇場公開されて、8月にはAmazonが定額制動画配信サービス内で独占配信したというのは大きかったですね。累計興行収入100億円を達成した作品が新しいやり方で展開し成功したのを見て、ほかの作品も同様のやり方、あるいはこれまでにない取り組みを仕掛けてくるだろうと思います」
3月末にはU‐NEXTがアメリカの総合メディア企業ワーナー・メディアとSVODにおけるパートナーシップの締結を発表。映画並みのクオリティーを誇るHBO Maxの作品を配信することになり、日本でも人気の海外ドラマ『フレンズ』の続編、『ゴシップ・ガール』のリブート版などが見られると大々的に告知された。その効果はどうだったのか。
「インパクトのあるPR効果はあったと思いますが、弊社の視聴コンテンツ調査をみるとU-NEXT利用者がHBO Maxの作品をすごく見ているかというとそうではなく、利用者の獲得・維持にどこまで寄与しているかは未知数です。一方、U‐NEXTはアニメ、韓国、アジア作品など、ジャンルの品ぞろえが豊富で、シネフィルが好むニッチな作品を確保している。Amazon、ディズニープラス、Netflixと海外の巨大な資本を持っている会社が展開する配信サービス業界にあって、日本企業であるU‐NEXTが今後どのような展開を見せていくのかは注目しています」
一方で、「JAIHO」やCSチャンネルが運営の「ザ・シネマクラブ」など単館系作品だけに特化した映画配信サービスや、アニメ、釣りほか特定のジャンルを専門的に扱う動画配信サービスも増えている。
「このコロナ禍で、自分が見たいものを見るために毎月料金を支払うという消費行動が拡大し、定着しました。他で見られないものが見られる、自分のコミュニティの中で一緒に楽しめるものが見られるのであれば、サービスを利用するのに抵抗がなくなってきているとは間違いなく言えるでしょう」
22年の配信業界はどうなるのか。
「コンテンツ力によって市場が伸びていくでしょう。新規の利用者、利用者当たりの本数も伸びしろがありますが、ユーザーが配信サービスに入るのは、やはり見たいものがあるからです。その点では、Netflixは日本のコンテンツも含めて、製作のための予算を増やしている。『イカゲーム』があれほどの世界的なブームになるほどヒットするとは誰も予測もしなかったと思うんですが、ああいうヒットが生まれた背景には、多くの作品を作り、投資してきていることが大きな要因としてある。ラインアップを大幅に強化したディズニープラスには注目すべきですし、他社もコンテンツへの投資を積極的に増やしています。こうした中で、見たことのないような人々を夢中にさせる新しい作品の登場に期待したいですね」
(ライター 前田かおり)
[日経エンタテインメント! 2022年1月号の記事を再構成]
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