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中国、脱炭素「3060目標」で政策着々 原発や資金

Earth新潮流 日本総合研究所常務理事 足達英一郎氏

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞日経産業新聞 Earth新潮流

中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席が9月、ビデオ形式の国連総会一般討論演説で、2060年までに二酸化炭素(CO2)の排出を実質ゼロにする目標を改めて表明した。「中国は発展途上国のエネルギーの低炭素化を大いに支援し、今後、海外で新たな石炭火力発電プロジェクトを行わない」とも述べた。

ちょうど1年前の20年の9月、習主席は「中国はCO2排出について30年までにピークに達し、60年までのカーボンニュートラル(排出実質ゼロ)実現を目指して努力する」と宣言していた。中国ではこれを「3060目標」と呼ぶことが一般化している。

小型原子炉や洋上原発

当初、他国からは「努力すると述べているだけ」「実現への道筋は描かれていない」などの声もあったが、ここにきて政策的な肉付けが着々と進められているようだ。

中国の脱炭素に向けた政策で特徴的なものとして、1つは原子力発電をめぐる方針の明確化が挙げられる。

3月の全国人民代表大会(全人代)で李克強(リー・クォーチャン)首相が政府活動報告を行った。ここでは「沿海部における第3世代原子力発電所やモジュール式小型原子炉の建設、洋上浮体式原子力発電プラットフォームなどのモデル事業を推進する」という内容が盛り込まれた。

11年の日本の原子力発電所事故のあと、中国政府は一時的に原子力発電の新規プロジェクトの審査を停止した。12年に審査と許認可は再開したものの、明確な原子力政策が示されないまま約10年が経過していた。

21年になり風向き変わる

毎年の政府工作報告でも「安全、高効率に原子力発電を発展させる」との言及がなされる程度で、何の言及もなかった年もあった。それが21年になって風向きが明らかに変わったと中国ウオッチャーは指摘している。

中国国営の二大送配電会社のひとつ、国家電網は3月、同社の「カーボンピークアウト、カーボンニュートラル行動計画」を発表した。その中で、30年の営業域内の風力発電と太陽光発電の設備容量が10億キロワット以上、水力発電設備が2億8千万キロワット、原子力発電設備容量が8千万キロワットとなることを明言した。中国は気候変動対策に向けて大きな政治的決断を下したと言える。

2つめの政策として、エネルギーの需要サイドを徹底的に管理するという方針も見逃せない。3月には21~25年のエネルギー強度(一定の国内総生産=GDP=を創出するために必要なエネルギー量)を13.5%、炭素強度(同CO2排出量)を18%削減するとの数字を示した。さらに9月、国家発展改革委員会がエネルギー使用総量の規制にも今後言及していくことを示唆した。

具体的には①エネルギー消費やCO2排出が多い国内プロジェクトをリスト化し厳格に管理する②エネルギー使用権の取引市場を早期に構築し資源を最適配分する③制御の仕組みを地方政府にもきめ細かく展開し目標達成の状況を幹部の評価に反映させる――などを明示した。

この計画の決定に先立って、9月1日に「深圳経済特区生態環境保護条例」が施行された。ここでは、市政府に主要産業の炭素排出基準を設定する権限を与え、基準を超えるプロジェクトをリストアップすることを盛り込んだ。

大手銀も石炭融資凍結

3つめに3060目標達成に向けた資金を管理・誘引する政策が大きく進んだことにも注目したい。9月、中国金融学会グリーン金融専門委員会は「カーボンニュートラル目標とグリーン金融ロードマップに関する研究(概要版)」と題する報告書を発表した。カーボンニュートラルは中長期的に中国の経済成長にプラスの影響を与え、今後30年間の「グリーン・低炭素関連資金需要」(200を超える分類の環境産業全体、18年時点の価格に基づく推計)は累積で487兆元(約8590兆円)に及ぶことなどを明らかにした。

四大商業銀行に数えられる中国銀行は「カーボンニュートラルに向けた行動計画」を作成し、第14次5カ年計画期間中(21~25年)に環境配慮型の産業に対して1兆元以上の金融支援を行うことを打ち出している。

9月の習主席の国連演説を受けて、中国銀行も「21年第4四半期以降、すでに契約済みの案件を除いて、海外の新規石炭採掘および新規石炭発電プロジェクトへの融資を行わない」と表明した。

もっとも、こうした中国政府の方針がどこまで厳密に適用されるかは見極めが必要だが、世界の脱炭素への動きを加速させるためのアナウンスメント効果を再び持つのは間違いない。

インドネシアでは3月、ジョコ大統領が70年のカーボンニュートラルを宣言したものの「中国が60年なのに70年は遅すぎる」との批判が殺到した。結果、10年前倒しし、7月には国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局に「60年目標」を正式に提出したという経緯を生んだ。

中国独自の中央集権的な政治体制と、長年の計画経済が今回の「3060目標」の大号令につながっているとみることはできる。ただ、経済成長に逆効果であることがわかれば政策転換もあり得る。

目標達成の確度は低いという分析も目にするが、当面、中国政府は政策を総動員する姿勢を続けている。約2週間後に英国で始まる第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)での中国の発言に、改めて関心が高まっている。

[日経産業新聞2021年10月15日付]

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