減速の半導体市場 サムスンvs.競合大手・新興企業 - 日本経済新聞
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減速の半導体市場 サムスンvs.競合大手・新興企業

半導体最大手のサムスン電子は微細化技術でライバルを上回る目標を掲げるなど先端技術で業界を引っ張っている。ただ、メモリーなどでは同社がリードする一方、画像センサーではソニーグループが高いシェアを握り、スタートアップが健闘する分野もある。市場の成長が減速するなか、技術革新に向けて半導体関連各社がどのように競争をしているのか、分野ごとに分析した。
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

半導体業界はこの2年、大きな試練を突き付けられている。

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)に伴い半導体不足が深刻化し、半導体を必要とする製品の納期は軒並み延びた。今は景気低迷の中で、大手半導体メーカー各社はコスト削減を進めている。例えば、米インテルは2025年までにコストを年間で最大100億ドル(約1兆3600億円)削減する取り組みの一環として、レイオフ(一時解雇)を計画していると報じられている。

韓国サムスン電子はこの傾向に反し、半導体事業へ積極的な投資を続けている。半導体は車から家電までありとあらゆる電子機器の土台であるため、同社の影響は広範囲に及ぶ。

この業界で前進しているのはサムスンだけではない。集積回路(IC)から電子設計自動化(EDA)に至るまで、既存勢も新興勢も新たな技術を開発している。

今回の記事では各社がサムスンや半導体業界にどう挑んでいるかについて取り上げる。

カテゴリーの内訳

サムスンの技術を2つに分けて定義した。

・製品:様々な種類の半導体とセキュリティーシステム。

・ファウンドリー(製造受託):半導体の生産工程・技術を開発する企業。多くはサムスンの直接のライバルというよりも、提携パートナーや半導体業界の一員だ。

製品

集積回路(IC)

集積回路(IC、チップ、マイクロチップともいう)とは、微細な電子回路とユニット化された部品を組み合わせたものを指す。電気信号を切り替えるために使う数十億個のトランジスタを搭載している。一般的にはトランジスタ(プロセスノード)が微細なほど、最先端品になる。

ICにはデジタル、アナログ、無線周波数、信号プロセッサー、マイクロプロセッサー(MPU)など様々な種類がある。サムスンはIC分野を支配する企業の一つだ。

インテルは長年首位に君臨してきたが、EUV(極端紫外線)露光装置などの製造技術への投資を怠り、サムスンや台湾積体電路製造(TSMC)にリードを許した。サムスンはすでに回路線幅が3ナノ(ナノは10億分の1)メートルの最先端品の量産に乗り出しており、TSMCから首位を奪い、インテルよりも少なくとも1世代は先行している。

この分野には他にも米テキサス・インスツルメンツ(TI)、米IBM東芝ルネサスエレクトロニクス、スイスのSTマイクロエレクトロニクス、オランダのNXPなどの既存勢がひしめく。それでもなお、新規参入組も頭角を現している。

・ICで既存勢と競うにはコストや知識の壁があるため、仏グレイ・マター・ラボ(GrAI Matter Labs)や英リグパ(Rigpa)などのスタートアップは新しい用途に力を入れている。一例は脳型(ニューロモルフィック)コンピューティングだ。脳型チップは人工ニューロン(神経細胞)を使って人間の脳を模倣し、複雑な演算をこなせるようにする。

・米グロック(Groq)は人工知能(AI)や機械学習、HPC(ハイ・パフォーマンス・コンピューティング)向けの最先端ICを開発している。同社は16年創業で、調達総額は3億6200万ドル。

メモリー

データを保存するIC「メモリーチップ」を開発する企業。メモリーチップには様々な形態がある。

・不揮発性メモリー:電源を切っても保存したデータが消えない。ROM(読み出し専用メモリー)やフラッシュメモリーなど。

・揮発性メモリー:電源を切るとデータが消える。RAM(随時書き込み読み出しメモリー)など。

メモリーチップの主要プレーヤーはサムスンや韓国SKハイニックス、台湾の力晶科技(パワーチップ)、日本のキオクシアホールディングスなどアジアに集中している。各社は1980年代にインテルやIBMなど米国勢を抜き、この分野のリーダーになった(IBMは他の市場に移り、インテルはMPUに力を入れた)。

後発の米国勢のマイクロン・テクノロジー、ウエスタンデジタル、キングストンテクノロジーなどは市場シェアを確保し、今やこの分野の大手になっている。

だが、メモリー市場は利益率が低く、製品がコモディティー化する性質があり、景気の影響を受けやすい。サムスンの22年7~9月期の営業利益が前年同期比32%減となるなど、この分野の企業は景気低迷に苦戦している。

・足元のメモリーの減速にもかかわらず、マイクロンは積極的な設備投資を続けている。同社は最近、米ニューヨーク州に1000億ドルを投じて最先端のメモリー工場を建設すると発表した。

・キオクシアは80年代にフラッシュメモリーを開発した東芝から分離・独立した企業だ。現在ではNAND型フラッシュメモリーで推定約18%のシェアを握る。

・中国の得一微電子(YEESTOR)は18年、硅格と立而鼎科技の合併により誕生した。調達総額は4800万ドル。

画像センサー&処理

画像センサー&処理技術はスマートフォンのカメラや自動運転車の認知のほか、写真や複合現実(MR)体験での立体画像の作成を担う「ToF(タイム・オブ・フライト)センサー」などに使われる。

画像センサー市場ではソニーグループが約45%のシェアを握り、サムスンは約20%と差はあるが2位につけている。サムスンは携帯電話の画像センサーでは有数の大手だが、自動車市場でのシェアは小さい。車載センサーの首位は米オン・セミコンダクターで、米オムニビジョンとソニーが続く。

新しいセンサーの活用範囲を広げ、自動車向けに改めて注力することで、サムスンはライバルを追い抜きたいと考えている。

キヤノンはCMOS(相補性金属酸化膜半導体)センサーの大手だ。CMOSはデジタルカメラや一眼レフカメラ、医療分野などに使われる。

・米スタートアップのオキュライ(Oculi)はリアルタイムの視覚解析技術を実用化するため、ニューロモルフィックセンサーと処理機能を搭載したチップを開発している。これにより信号の精度が高まり、処理を効率化できる。同社は16年創業で、調達総額は110万ドル。

ディスプレー技術

サムスンはディスプレー技術の最前線に立ち続けている。

この分野の企業は主に発光ダイオード(LED)や有機ELに力を入れている。例えば、LEDテレビのディスプレーには1つまたは多数のLEDバックライトが使われている。これにより従来の液晶ディスプレーよりも色が鮮明になる。

一方、有機ELは画素レベルで調整可能な発光する有機材料を使い、バックライトなしでデジタル表示できる。これにより完全な黒を表現でき、視聴体験全体が向上する。

スマホや時計など小型の有機EL画面の生産は容易だが、大型有機ELディスプレーを量産できるのは韓国LGディスプレーとサムスンの2社に限られる。両社は他の全てのメーカーに有機ELディスプレーを供給している。

・有機EL技術大手の米ユニバーサル・ディスプレイはこの分野の特許を多数保有し、サムスンやLG、パナソニック、パイオニアなどにライセンス供与している。同社はアクティブマトリクス式有機EL(AMOLED)も開発しており、サムスンはこれをスマホやタブレット端末、時計に使っている。

・中国の京東方科技集団(BOE)はディスプレーなどを手掛ける大手電機メーカーだ。95インチの有機ELディスプレーを最近発表したが、まだ商用化を果たしていない。

・ジェイオーレッド(JOLED)はソニー、パナソニック、ジャパンディスプレイの共同出資会社で、調達総額は9億2900万ドルだ。スマホやタブレット、モニター用の小中型ディスプレーの研究開発と生産を手掛ける。

・米Mattrix TechnologiesはOLET(有機発光型トランジスタ)技術を開発した。これは有機ELの技術的な課題の一部を解決し、その結果生産コストが下がり、色が鮮明になり、製品の寿命が延びる。

生体認証&セキュリティー

セキュリティーシステムには決済セキュリティー機器、生体認証技術を活用したバイオメトリックカード、近距離無線通信規格の「NFC」チップ、携帯セキュリティー端末など様々なテクノロジーが含まれる。

家電メーカーの競争を背景に、こうしたテクノロジーはここ数年、スマホやパソコンなどさらに多くの製品に搭載されるようになっている。インドの調査会社リサーチダイブの予測では、世界の生体認証市場の規模は少なくとも28年までは年平均15%成長する。

サムスンはこの分野に積極的で、デジタルセキュリティーを強化するチップを開発している。

・中国の地芯引力科技(Geoforce Chip)は音響や無線充電向けに加え、NFCや情報セキュリティーのチップセットなどセキュリティー向けソリューションも手掛ける。19年の創業以来、1600万ドルを調達している。

・米インテグレーテッド・バイオメトリクス(Integrated Biometrics)は様々な指紋スキャナーや非接触の生体認証ソフトウエアを開発している。

ファウンドリー

電子設計自動化(EDA)

サムスンなどの半導体企業はICとプリント基板を設計するため、設計支援ソフト「EDA」を活用している。EDAソフトを手掛ける企業は米国に集中している。

サムスンはこのソフトを自社では開発していないが、ファブレス(工場無し)企業を対象にしたクラウド設計プラットフォーム「SAFE(サムスン先端ファウンドリーエコシステム)」に搭載するため、こうしたソフトを提供する企業と緊密に連携している。サムスンはクラウドベースのHPCアプリケーションを手掛ける米リスケール(Rescale)と共同でSAFEを構築している。

ケイデンス・デザイン・システムズ、米シノプシス、独シーメンスなどが開発した様々なEDAシステムを活用し、ワンストップの設計サービスを提供するのがSAFEの狙いだ。

・工業製品のエンジニアリング設計シミュレーションソフト大手、米アンシスはICの設計・シミュレーション機能も提供している。同社はSAFEの一員で、最近ではインテルの設計エコシステム(生態系)「インテル・ファウンドリー・サービス」にも参加した。

・英パルシック(Pulsic)は半導体の設計を効率化するシステムを手掛ける。アナログ設計の自動化を支援する一方、ケイデンスやシノプシスなど大手EDAソフトの搭載も進めている。

製造技術

半導体の製造は極めて難しく、最先端の技術が求められる。ナノメートルレベルの精度を持つシステムと、ほこりの微粒子がほとんど存在しないクリーンルームが必要だからだ。最先端品のノード(トランジスタの集積度)は3ナノメートルに達している。ちなみに、人間の髪の毛の太さは約10万ナノメートルだ。

製造装置は複雑で価格も高い(最先端システムは1台2億ドル以上する)ため、この分野は既存企業が支配している。

サムスンなどの半導体各社が頼りにするこうした製造装置を生産しているのは、一握りの大手企業だ。

・オランダのASMLはEUV露光装置を生産できる唯一の企業だ。この装置はサムスン、米アップル、米クアルコム、米軍などの顧客企業の先端半導体の生産に欠かせない。

・米アプライドマテリアルズ、米ラムリサーチ、米KLAテンコールは半導体の製造装置を手掛ける。3社を含む大半の装置メーカーは米国を拠点としている。

・日本の東京エレクトロン日立製作所ニコンもこの分野で活発に活動している。

・スタートアップはおおむね新たな用途に特化している。例えば、14年に創業したオランダのモルフォトニクス(Morphotonics)は、大型基板にナノインプリントする独自の「ロール・ツー・プレート(R2P)」製造装置・工程を開発した。この技術は1995年に開発されたが、最近になってようやく実用化された。

先端パッケージング

先端パッケージングとは半導体の部品を組み立てる工程だ。CPU(中央演算処理装置)コアやメモリー、アンテナなどのモジュールも含む。

インテルやTSMCなど大手の多くは総合パッケージングサービスを手掛ける。この分野に特化している企業もあり、OSAT(後工程請負会社)と呼ばれる。

サムスンは先端パッケージングを手掛ける。この工程はサムスンを含む大手6社で8割以上のシェアを占めている。

・米アムコー・テクノロジー、台湾の日月光投資控股(ASE)、中国の江蘇長電科技(JCET)の3大OSATによる21年のシェアは65%に上った。

・米ノースロップ・グラマンなどの防衛企業は先端パッケージング機能に多額の資金を投じている。安全保障の観点から半導体の重要性が高まっているためだ。

ファブレス(半導体設計企業)

ファブレス企業とは、無線チップ、パワーエレクトロニクス、ICなど半導体の設計に特化している企業で、これを生産するには専業ファウンドリーや、設計と生産の両方を担う垂直統合型デバイスメーカー(IDM)が必要になる。ファブレス企業は業界で最も収益力があり、時価総額も高い。設計など利益率の高い業務に特化しており、多額の費用がかかる製造機能が不要だからだ。

この分野の企業の大半は米国の既存勢だ。だが、スタートアップも多く存在し、主に自動運転やAIなどの新興技術に力を入れている。

サムスンは自社でチップの設計と生産を手掛けるほか、ファブレス企業向けの生産も担っているため、この分野の直接のライバルとはみられていない。一方、より優れたチップを設計してTSMCなどに生産を委託している企業は直接の脅威になる。

・米アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)や米ブロードコム、米マーベル、英アーム、クアルコム、米エヌビディアなどの業界屈指の大手はいずれもファブレス企業だ。

・アップルはプロセッサーを自前で設計し、TSMCに生産を委託している。

・クアルコムと台湾の聯発科技(メディアテック)は4G(LTE)や5Gなど無線通信技術向けの半導体設計の2強だ。

・この分野のスタートアップは豊富な資金力を誇る。例えば、イスラエルのウィリオット(Wiliot)と米アンビック(Ambiq)の調達総額はそれぞれ2億4500万ドルで、オーストラリアのモースマイクロ(Morse Micro)と英エックスモス(XMOS)はいずれも9500万ドルを超えている。

専業ファウンドリー(半導体受託生産)

半導体の生産は徐々に専門化している。サムスンやインテル、TIなどは設計と生産の両方を担うが、多くは専業ファウンドリーかファブレスモデルを採用している。

専業ファウンドリーは比較的新しい概念だ。各社はファブレス企業の設計データを受け継ぎ、生産に専念する。専業ファウンドリー第1号はTSMCで、1987年に台湾の工業技術研究院から分離独立した。TSMCは今や専業ファウンドリーの世界最大手だ。

ファブレス企業が設計し、専業ファウンドリーによって生産されたチップは、サムスンなどIDMの直接のライバルになる。

専業ファウンドリーの大半は既存の大手企業で、新規参入組は政府か大企業から多額の出資を受けた企業に限られている。

・米グローバルファウンドリーズは米フォード・モーターや独フォルクスワーゲンなど自動車メーカー向けの大手ファウンドリーだ。一方、アップルなど消費者向け電子機器の受託生産を手掛ける台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業傘下の富士康科技集団(フォックスコン)も、自動車メーカー向けの受託生産に参入している。欧州ステランティスなどと提携している。

・米スカイウォーター・テクノロジー(SkyWater Technology Foundry)はこの分野で最も新しいスタートアップの一つだ。19年に米国防総省から8000万ドルの出資を受け、21年に新規株式公開(IPO)により上場した。米国防総省の研究所DMEAの信頼できるサプライヤーとして、米政府や重要な同盟国向けの半導体を生産できる。

・中国には武漢新芯集成電路製造(XMC)や中芯国際集成電路製造(SMIC)、華虹半導体(HuaHong Group)など多数の専業ファウンドリーがある。こうした企業は現在、米中対立の影響でEDAソフトや製造装置の購入を制限されているため、業界トップに立つ力はない。

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