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「PB値上げせず」 イオンや西友、我慢比べの舞台裏

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日経ビジネス電子版
生活必需品の価格が軒並み上がる中、いかに値上げしないかを競い合っているのが、大手スーパーのPB(プライベートブランド)だ。「我慢比べ」の舞台裏と、メーカーの企業努力を追った。

イオンは、今こそ企業努力が必要な時と考えます」「トップバリュは、食料品・日用品約5000品目の価格を本年6月30日まで値上げしません」──。2022年3月下旬、流通大手のイオンは高らかにこう宣言した。

延長また延長の「価格凍結宣言」

生活必需品の価格が軒並み上がる今だからこそ、自社のプライベートブランド(PB)「トップバリュ」の価格を据え置き、お値打ち感を際立たせようという試みだ。対象店舗はイオン、イオンスタイル、マックスバリュ、ダイエー、まいばすけっとなど、全国の系列スーパー約1万店舗に及ぶ。イオンがグループの総力を挙げて挑む「価格凍結宣言」。実は、今回に始まった話ではない。延長に延長を重ね、もう半年以上も続けているのだ。

イオンが最初に「価格凍結」を打ち出したのは21年9月13日だった。イオン本社に近い「イオンスタイル幕張新都心」をのぞくと、「値上げしません!年内価格凍結!」と書かれたポスターが食料品売り場の一角を埋め尽くしていた。年内、つまり21年12月31日まで、トップバリュの食料品約3000品目の価格を据え置くという内容だった。

しかし、実際にその年末が近づくと、イオンは次なる一手に出た。トップバリュの価格据え置きを22年3月31日まで延長し、新たにトイレットペーパーやキッチンタオル、アルミホイルといった消耗品を対象に追加。値上げしない商品を、食料品約3000品目から「食料品・日用品約5000品目」に広げたのだ。

そして3月31日が迫る中で掲げたのが、冒頭の「6月30日まで値上げしません」宣言である。実際、「全国1万店」を巻き込んだインパクトは大きく、21年9月からの半年間でトップバリュの食品主要カテゴリーの売上高は、前年比で15%伸びた。それだけトップバリュを手に取る消費者が増えたということを意味する。

4月23日に開業したイオンタウン旭(千葉県旭市)でもトップバリュは特設コーナーで大きく展開していた。トマトケチャップは500グラムで105円(税込み、以下同)、マヨネーズは500グラムで170円。いずれも「満足品質 驚きの価格」というポップをつけて、安さを猛アピールしている。

今、イオン一押しのトップバリュ商品は3月に発売した「プレミアム生ビール」である。350ミリリットルで184円。サッポロビールが製造を担っていることもあり、「安いのにうまい」と発売直後から話題をさらった。イオン側も「プレミアム品質でこの価格を実現!」と店頭販促に力を入れ、1カ月弱で110万本を売り上げるヒットとなった。

イオンの吉田昭夫社長は「PBは将来に向けての収益拡大ポテンシャル(潜在力)がある領域だと思っている。これまで手掛けていなかった新カテゴリーや、他社にはないコンセプトの商品を訴求していきたい」と、トップバリュのさらなる強化に意欲を示した。

西友「がんばるプライス」で追随

日本全体に値上げドミノが押し寄せる中、あえて値上げしないスーパーは他にもある。EDLP(エブリデー・ロープライス、毎日安売り)を旗印とする西友だ。PB「みなさまのお墨付き」の全商品の価格を、イオンと同様、22年6月30日まで据え置くという決断を下した。

「がんばるプライス 1254品目全品値段も、量も、変えません。」。売り場ではポスターを張って、値上げはもちろん、内容量を減らして価格を維持する「ステルス値上げ」も行わないと来店客に約束していた。

実際、西友のPBの売り上げは伸びており、食品全体に占めるPBの売上高構成比も高まっている。7月以降も「できるだけ多くの商品で価格を据え置けるよう努力している」と担当者は明言する。

西友のPBは消費者テストを実施し、味(使い勝手)、価格、容量で80%以上の支持率を獲得したアイテムだけを商品化している。

特に人気なのはレトルトカレーと、ご飯にかけるだけの「On the ごはん」シリーズ。支持率97.3%の「マッサマンカレー」、同95.5%の「チリコンカン」はともに162円の安さだ。価格は西友のPBにとって生命線であり、容易に変えていい代物ではない。値上げする場合は、再度消費者テストを実施し、80%以上の支持率を得る必要があるという。

大手スーパーでは北関東のベイシア(前橋市)も3月、自社のオリジナル商品を5月31日まで値上げしないと表明した。対象は食料品1000品目と日用雑貨など270品目に上る。普段から「1円でも安く」としのぎを削る薄利多売の業界だけあって、少しの値上げが命取りになるという意識は強い。あらゆる手を尽くして値上げを抑える「我慢比べ」が広がっているのが現状だ。

とはいえ、我慢にも限界がある。原材料費や物流費などあらゆる面でコスト高が続く「絶望物価」時代にあって、イオンや西友が自社PBの商品価格を抑えられているのは、スケールメリットを生かしているからだ。

価格据え置きにより販売数量を増やすことで、コスト上昇分を吸収する。さらに粗利率の高い商品と低い商品を組み合わせて販売する「マージンミックス」により、利幅の減少を抑える戦略だ。イオンの場合、全国に様々なスーパーを展開しているが、仕入れも物流もグループ全体で取り組むことで交渉力を高めている。

こうしたスーパー側の自助努力とは別に、PBは生産するメーカー側の協力なくしては成り立たない。廉価販売を可能にするため、メーカー各社はまさに爪に火をともすようなコスト削減を強いられているのだ。

メーカー「やれることはすべてやる」

「イシイのおべんとクン」でおなじみのミートボールを製造する石井食品(千葉県船橋市)は08年から10個入り120円(税別)の希望小売価格を維持している。ただし店頭では3袋セットでの販売も多く、1袋100円前後が相場だ。商品仕様は異なるものの、一部スーパーにはPBのミートボールを卸しており、そちらは80円の値がつけばいいほうだという。

石井食品では値上げ回避に向け、これまでも様々な手を打ってきた。「例えば、パッケージを1ミリメートル未満の単位でどんどん薄く改良していき、品質と薄さのギリギリを攻めている」と石井智康社長は明かす。

もう一つは「原材料をシンプルにする」という発想だ。ショートニング、脱脂粉乳、イーストフード、卵白、コショウ、チキンブイヨン、水あめなど、年を追うごとに原材料を減らしてきた。今や原材料は鶏肉、玉ねぎ、パン粉と各種調味料だけといっても過言ではない。

「原材料の種類を減らしていく代わり、主要原料はなるべく良いものを使う。そうすることで主要原料の原価は上がっても、全体としてコストアップにならないようにして値上げせずにここまで来た」と石井氏は言う。

しかし、今回の原材料費の急騰ぶりは過去に経験のないレベルだった。既に21年の時点でカナダの熱波の影響などから、菜種油の国際相場は急激な上昇カーブを描き、1年間で変動費が1億円も上昇した。年が明けてロシアのウクライナ侵攻が重なり、エネルギー価格も高騰。食品業界にとっては年間の営業利益率が2ポイント下がるほどの衝撃だという。

社内では21年にコスト削減プロジェクトを立ち上げ、あらゆる契約の見直しに着手した。国内3工場で使う作業着のクリーニング代を削減したり、長年の慣行で商品アイテム数以上に種類が増えてしまった段ボールの規格を絞り込んで無駄を省いたり。配送回数をなるべく減らし、配送車1台に詰め込むミートボールの数を増やすことにも取り組んだ。

これらにより、21年は8000万円のコストカットを成し遂げたが、足元の変動費の急上昇は、もはやコスト削減でどうにかなる水準を超えている。

石井食品は22年2月1日納品分から、ミートボールの出荷価格を引き上げた。過度な値引き販売を防ぐため、すべての取引先に足を運び理解を求めたという。しかし、希望小売価格の変更は現時点で考えていない。

「経営会議では頭を抱えているが、売価を上げる前にやれることはすべてやろうと腹をくくった。差し迫った脅威は、何かを変えるチャンスでもある」と石井氏は前を向く。

中長期的に取り組みたいのは、油をなるべく使わず、油の酸化を防ぎながらミートボールを作る調理法の開発だ。「もっと言えば、油を使わないノンフライ製法も研究したい。1カ月、2カ月でできる話ではないが、うまくいけば、よりヘルシーなミートボールをお客様に提供できるし、製造コストも下げられる」(石井氏)

パッケージを薄くしたことも、結果的にプラスチックの使用削減につながった。余分な原材料を省いたことで、より健康的でおいしい商品になった、という自負もある。

限られた予算でやり繰りすることは確かに改善や工夫を生むことにつながるが、過度な安値競争は、メーカー側はもちろん、販売するスーパー側の体力もじわりじわりと奪いかねない。値上げを回避したまま走り続ける「チキンレース」から、良いものを適正価格で売る方針への転換も、総値上げ時代の正しい生き抜き方の一つである。

(日経ビジネス 酒井大輔)

[日経ビジネス電子版 2022年5月11日の記事を再構成]

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