/

会員100万人超の越境EC 日本の商品を購入代行・発送

社員の国籍はじつに25カ国にも上る。超がつく多国籍部隊が、大阪のオフィスビルで外国人の買い物を支え続けている(写真:山本尚侍)
日経ビジネス電子版

日本に留学したウクライナ人学生が、海外から日本の商品を気軽に買える仕組みをつくった。ビジネスの素人が始めた会社は会員数が100万人を超えるまでに成長、上場も視野に入る。

ゼンマーケットは、海外に住む人が日本の商品を買いたいときに、購入を代行して国際発送する企業だ。オークションサイトにも対応するなど、その使い勝手の良さが評価され、右肩上がりで成長を続けている。

ゼンとは日本語の「禅」。サービスを「禅のようにシンプルに分かりやすく」というのがその由来という。だが立ち上げたのは日本人ではない。ウクライナのキエフ国立大学で日本語を学んだ同級生3人と、うち1人の奥さんのロシア人、うち1人の弟のウクライナ人の5人だ。

グーグルにあこがれて

日本語を勉強した3人は日本の大学院に留学し、現代日本文学や翻訳理論、社会学などを学び、学者か教師にでもなるはずだった。そのうちの1人、コーピル・オレクサンドル氏は早稲田大学の大学院に留学。卒業後は翻訳の仕事をしていた。

仲良し3人組は日本でよく集まった。若者特有の成功ストーリーへのあこがれとして、話題に上ったのが米国のグーグルやフェイスブック。「オレらも何かしたいよね」。素人にもかかわらず、彼らは無謀にも起業を試みる。

最初は「ペットのオンライン墓地」。日本にはペットを飼う人が多いから、という理由だった。ウクライナに住む弟1人が優秀なプログラマーで、その才能を活用しようと考えた。

結果は目も当てられない失敗だった。1年間で有料ユーザーはたった1人。貯金が底を突きそうになり、方針転換を余儀なくされた。インバウンドブームに乗じた観光会社も考えたが、「IT(情報技術)の強みを生かしにくく、成長性を感じられなかった」のでやめ、たどり着いたのが、知り合いが手掛けていたロシア向け購入代行サービスだった。

ロシアでは個人輸入の免税枠が大きく、越境EC(電子商取引)でモノを買うのが当たり前でニーズは見込めた。同業者を調べると「どこもユーザーインターフェースが悪くて使いづらく、勝てると思った」(オレクサンドル氏)。こうしてゼンマーケットを2014年に立ち上げた。

だが当時、ロシアの関税のルールが変わるという話が持ち上がっていた。「ロシアのお客がいなくなるかもしれないという恐れがあり、大急ぎで英語版を立ち上げた」(オレクサンドル氏)。これが利用者拡大に奏功し、今では全体の6割が英語版経由だ。

1年ほど購入代行を続けていると、外国人が最も買いたがるのがオークションサイトのヤフオクの商品だと分かった。ヤフオクは商品数が豊富で安く、海外からみると宝の山。そこでヤフオクの商品情報をゼンマーケットのサイトで表示できるようにシステムを構築、それを自動翻訳した。

さらに改良を重ね、ゼンマーケットのサイトからヤフオクに入札できるようにした。これが利用者をさらに増やした。しかもヤフオクの出品者は基本的に海外には発送してくれないので、自動的にゼンマーケットの海外発送サービスを利用する。取り扱い言語を増やしたこともあり、売り上げも右肩上がりになった。

ゼンマーケットの売上高推移。売り上げは順調に伸びている

業界で初めて、手数料を1品あたり一律300円で固定したのも好評だった。同業他社は商品価格の何%という手数料形態が多く、「高額商品を買うならゼンマーケット」という評価が定着した。

中小の越境ECを手助け

事業は順調だったが、「我々は所詮、仲介業者。ECサイトが購入代行を禁止したり、自ら海外発送を始めたりしたら終わり」という不安が次第に頭をもたげてきた。自分たちだけで成り立つビジネスモデルはないかと考え、16年に始めたのが、日本のお店が海外にモノを販売できる越境ECプラットフォーム「ZenPlus(ゼンプラス)」だ。

日本の内需が縮小していけば、海外にモノを売りたいというニーズは高まる。しかし多言語対応や決済、発送、クレーム処理など、海外にモノを売るためのハードルは高い。小さなお店は対応が難しいため、「大きな越境ECモールがいずれ必要になるはず。我々がそれになる」という発想だ。

ZenPlusはお店から見ると日本語で商品を登録でき、売れた場合も国内倉庫に発送するだけ。ゼンマーケットが一度商品を買い上げてお金を振り込むため、支払いは円で回収リスクもない。導入費用、初期費用はなく、手数料もモノが売れるまで取らない。

出品にリスクがないため、地元企業の経営不振に悩む地方の商工会議所が、出品企業をどんどん紹介してくれるようになった。商品数は約600万まで増えたが「まだまだ少ない。100倍に増やしたい」とオレクサンドル氏は意気込む。

今後は日本企業向けのマーケティング支援事業も開始する予定だ。同社は10以上の言語に対応していることもあり、社内で多くの国籍の外国人が働いている。それを生かし、アラビア語やベトナム語、マレー語など日本企業になじみの少ない言語でのマーケティングを希望する企業からの受注を見込む。

事業を多角化して収益を安定させた先に目指すのは株式上場だ。モール事業を大きくするには「知名度と資金力がものをいう」(オレクサンドル氏)からだ。ビジネスの素人が立ち上げた企業は着実に前へ進んでいる。

(奥貴史)

[日経ビジネス 2021年4月12日号の記事を再構成]

日経ビジネス電子版セット

週刊経済誌「日経ビジネス」の記事がスマートフォン、タブレット、パソコンで利用できます。「日経ビジネス電子版」のオリジナルコンテンツもお読みいただけます。日経電子版とセットで月額650円OFFです。

お申し込みはこちらhttps://www.nikkei.com/promotion/collaboration/nbd1405/

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

日経ビジネス

企業経営・経済・社会の「今」を深掘りし、時代の一歩先を見通す「日経ビジネス電子版」より、厳選記事をピックアップしてお届けする。月曜日から金曜日まで平日の毎日配信。

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

暮らし

新着

注目

ビジネス

暮らし

新着

注目

ビジネス

暮らし

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン