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三越撤退後の恵比寿ガーデンプレイス「客層を絞る」

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日経ビジネス電子版

新型コロナウイルス禍を経て都心部の不動産運用が変わり始めている。オフィスタワーや商業施設、ホテル、住宅などで構成される複合商業施設「恵比寿ガーデンプレイス」では、開業時から入居していた「恵比寿三越」が2021年2月に閉店。同施設を運営するサッポロ不動産開発(東京・渋谷)は、都心部の不動産の在り方を再検討し、22年にテナントを大幅に入れ替えるリニューアルを実施する。21年10月には手始めに創業130年の歴史を誇る米ニューヨークの老舗ステーキハウスを隣接地にオープン。9月から予約の受け付けを始めたところ、開始わずか3分で140組の予約が入ったという。開業から30年近くが経過した複合施設は、新しい施設とどのように競うのか。「不動産の目的を絞らなければ勝ち残れない」と語るサッポロ不動産開発の時松浩社長に今後の不動産戦略を聞いた。

――百貨店の三越が閉店し、恵比寿ガーデンプレイスは大きな変革期に差し掛かっています。コロナ前は年間1300万人が訪れていたそうですが、運営方針はどのように変わるのでしょうか。

「恵比寿ガーデンプレイスの商業棟は22年秋のリニューアルオープンを目指して改装中です。まず22年春に、スーパーマーケット『ライフ』や老舗食品店『明治屋恵比寿ストアー』、ドラッグストアの『トモズ』など一部の店舗を先行開業する予定です」

「サッポロビール工場跡地の再開発事業として恵比寿ガーデンプレイス(1994年竣工)をつくったのはバブル経済が終わる時期で、ちょうど百貨店もピークを迎えていました。恵比寿周辺に富裕層が多いことは変わりませんが、今日の消費行動は当時と明らかに変わっています」

「三越の閉店は、20年秋には通知されていました。ただ、テナント運営の戦略転換について議論していたのはコロナ禍の前からです。大規模な商業施設で幅広く集客して、その人流を施設内の飲食店に誘導する戦略から脱却しようという計画を立てていました」

「当社がビールとの関係が深いということもあり、恵比寿ガーデンプレイスにはレストランやカフェ、『ウェスティンホテル東京』も含めると約4000席の飲食客のキャパシティーがあります。しかし、この規模はずいぶん前から過剰気味でした。オフィス棟のテナント企業が時代に合わせて変化したことで『夜の需要』が弱くなっていたのです」

飲食店の席数を来秋までに3割減らす

――テナント企業の変化で飲食店の顧客層が変わったということでしょうか。

「かつてはオフィスタワーに金融機関などのいわゆる『堅い』会社が数多く入っていました。こうした企業では夜になると集まってお酒を飲みながら親交を深めようという文化があった。近年ではテナント企業がIT(情報技術)系やスタートアップなど、働き方が『柔らかい』会社に入れ替わっています。オフィスで社員が交流し、飲食店などをあまり利用しない傾向が強いのです。かといって、恵比寿駅周辺には飲食店がごまんとあるので、ガーデンプレイスまで人を呼び込むのは難しい」

「飲食は1店1店の効率を上げなければ、貸す側にも借りる側にもうまみはありません。お客様に来てもらう『待ち』の姿勢ではもう続かない。『恵比寿ガーデンプレイスでなければ味わえない体験』ができるテナントに絞る必要がありました」

「米老舗ステーキハウスの『ピーター・ルーガー・ステーキハウス東京』を隣接地に誘致したのは、そうした戦略の一環です。青山のジャズクラブ『ブルーノート東京』の店舗も入居する予定です。来秋の商業棟オープンまでにはテナントの入れ替えなども含めて、飲食のキャパシティーを現在の約4000席から3割ほど減らすプランを立てています」

顧客ターゲット絞った不動産運営へ

――戦略転換がこのタイミングだったのはなぜですか。

「不動産は30年周期で運用の在り方が大きく変わると考えています。三越の閉店やコロナ禍は変革のスピードを速めましたが、いずれにしてもテナント戦略は変えるべき時期に来ていました。これまでの恵比寿ガーデンプレイスは幅広い客層の来場を目指していました。しかし、これからは万人受けを狙うのではなく、ターゲット層を定めた不動産運営が重要になります」

「ライフと明治屋という客層の異なる食料品店を誘致したのも、顧客ターゲットを明確に意識したからです。例えば、恵比寿ガーデンプレイスには460台以上が駐車できるスペースがあります。高級食材店は徒歩の範囲を商圏にしていることが多いのですが、新しくオープンする明治屋であればクルマが利用できるため、高級食材を求める買い物客を広く呼び込むことができます」

「一方で、地域住民の利便性向上も欠かせません。手ごろな価格の食料品や生活雑貨が購入できるように、ライフやトモズなどのテナントも誘致したのです。コロナ禍でテレワークが定着し、東京郊外の生活圏に密着する商業施設が重視されるようになってきました。都心に通勤しない人が増えるなら、ターゲットは働く人ではなくなる。利用者のペルソナ(典型的なユーザー像)を絞り、テナントのポートフォリオを考えなければなりません。そのバランスの見極めは非常に難しいのですが……」

コロナ禍でも強いシェアオフィス需要

――三越の跡地は、ほかにどんな用途に転換するのですか。

「商業棟の2階と地下1階の半分を小規模オフィスに切り替える改装をしています。スタートアップや個人事業主に向けたオフィス需要は非常に根強いとみているためです」

「恵比寿ガーデンプレイスでは、19年秋に仮眠室やカフェを併設したシェアオフィス『ポータルポイント』を開設していました。コロナ禍で一時期は需要が落ちたものの、すぐに利用者の数が戻りました」

「新しい小規模オフィスには事業者同士がコミュニケーションを取るためのラウンジも設けて、ビジネスチャンスが生まれる空間にしていきます。特に2階は、外のテラスと室内を連結させるレイアウトにして、自然を感じながら仕事ができるようにします。ここで育ったスタートアップが成功を収め、いずれはオフィスタワーに入居してもらえるような循環を期待しています」

「恵比寿の近郊では渋谷駅周辺の再開発が進行しています。新しく供給されるオフィスビルは省エネ性能などにも優れた建物となり、SDGs(持続可能な開発目標)を掲げる外資系テナントなどを引き寄せるでしょう。開業から26年が経過した恵比寿ガーデンプレイスが有力なテナントを呼び込むには、戦略的にフロアや施設を改装していかなければなりません。まずは22年に施設内の自社使用分の電力を100%再生可能エネルギーに切り替える取り組みを進めていきます」

(日経ビジネス 江村英哲)

[日経ビジネス電子版 2021年11月11日の記事を再構成]

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