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ワクチン開発の司令塔が始動 次のパンデミックに備え

日経ビジネス電子版

新型コロナウイルス(COVID-19)感染症に対して欧米に比べてワクチンの導入が遅れた反省から、国は次のパンデミック(世界的大流行)に備えたワクチンの研究開発の司令塔となる組織を設置。4日には初の戦略推進会合を開き、ワクチンの開発・生産体制の強化に動き出した。

動き出した組織は「先進的研究開発戦略センター(SCARDA)」。内閣府、文部科学省、厚生労働省、経済産業省が一丸となって、長期的・安定的にワクチンの研究開発を支援するために設立した組織で、ワクチンの基礎研究から実用化に向けた開発までを一気通貫で戦略的に進める。

2021年6月に閣議決定した「ワクチン開発・生産体制強化戦略」に基づいて設けられたものだ。「切り札はワクチンだ」と語って、米ファイザーのアルバート・ブーラ最高経営責任者(CEO)に直談判するなど奔走した菅義偉前首相の置き土産である。

ワクチン強化戦略に関しては、21年度の第1次補正予算で、計8101億円が確保されている。このうちSCARDAは1504億円を投じて基金を設け、戦略的な研究費の配分を行っていく。国内外の研究開発動向などの情報を収集・分析し、公募で採択した研究テーマに資金を提供。有事にいち早く、安全で有効かつ、国際的に貢献できるワクチンを国内外に届けるため、平時から長期的・安定的かつ戦略的に研究開発を支援するというのがSCARDAの役割だ。

3月下旬に公募を始めたところなので、どのような研究開発を支援するのかはまだ分からないが、国が定める重点感染症に対するワクチンの開発に取り組むとともに、ワクチンへの応用が期待される新しいモダリティー(治療手段)の研究開発にも取り組む。メッセンジャー(m)RNAという新しいモダリティーの研究に長く取り組んできた米モデルナ、ドイツのビオンテックのワクチンがCOVID-19で活躍したのに対して、国産ワクチンが追随できなかったことへの反省がにじむ。

COVID-19の教訓は、その人事にも表れている。平時・有事を通してSCARDAを主導するセンター長には、22年3月まで科学技術振興機構(JST)の理事長を務めていた濵口道成氏が就いた。

JSTは文部科学省が所管する国立研究開発法人で、国内外の論文などを網羅的に分析して研究開発戦略を立案し、研究費を配分する役割を担う。濵口氏は名古屋大学の元総長で、同大学の教授時代にはがんの治療法などの研究に携わっていた。厚労省を中心とするこれまでの感染症・ワクチン施策では、国立感染症研究所など、厚労省にかかわる組織の人材が重用されてきたが、濵口氏の起用はより開かれた印象を与える。

「広範な情報収集を行って世界の状況を確認するとともに、戦略的に意思決定して平時・有事の体制をつくり上げる。課題は山のようにあるが、それに取り組む研究者の人材は全国にたくさんいる。足りないのはそれを1つにまとめて難局を乗り越える力だ。1つにまとめる役割を果たしたい」。4月4日の戦略推進会合の冒頭、濵口氏はこう述べた。

さらにSCARDAは、センター長を補佐して戦略的な資金配分やマネジメントを行うために「プロボスト」という役職を設けた。そこには第一三共で研究開発のグローバルヘッドなどを経験した古賀淳一氏が就任した。

古賀氏は第一三共時代に、研究者が草の根的に研究していた抗がん剤候補の「エンハーツ」に目を付けて、臨床試験を実施するところまで引き上げた人物だ。そのエンハーツは、今では同社のがん事業のけん引役になっている。1970年代に創業間もないJCRファーマに入社して20年近く研究開発に携わり、米アムジェンの日本法人を経て50代半ばで第一三共に入社した異色の経歴の持ち主でもある。

SCARDAの会合で古賀氏は、「欧米、日本、大企業、小企業の区別なく経験を積み、色々なものを見てきた。SCARDAの計画はよく磨かれているので、自分自身はたたかれ役となってこの計画を前に進めていきたい」と語った。

こうした人事からも、民間企業の出身者も含め、国内外の人員を総動員して次のパンデミックを乗り切る体制をつくり上げていこうという意気込みが見て取れる。

SCARDAと各省庁との連携が重要

ただ、それでもSCARDAが担当するのは、ワクチンとその関連技術を研究開発するところまでだ。仮にそこから実用化できそうなものが出てきたとしても、薬事承認したり、公費負担による予防接種の対象にするかどうかを決めたりするのは厚労省だ。SCARDAと各省庁との連携が不十分ではワクチン強化戦略も画餅に終わりかねない。

3月22日に内閣府と日本医療研究開発機構(AMED)がSCARDAの設置に関する会見を行った際、その点を尋ねると健康・医療戦略推進事務局の八神敦雄事務局長は、「戦略推進会合には各省庁からは実務レベルの責任者に出てきてもらい、情報共有をするだけでなく、しっかりと役割を確認して、『次はこういうことをやってくれ』と求めていく」と説明した。

21年度の補正予算では、SCARDAの他、ワクチン強化戦略の関連で、515億円の基金を設けて大学などにおける研究開発拠点の形成を支援したり、500億円の基金を設けて認定ベンチャーキャピタルを通じた創薬スタートアップへの支援をしたりする。これらにより、いつ来るか分からない「有事」に向けた備えを盤石にできるかに、注目していきたい。

(日経ビジネス 橋本宗明)

[日経ビジネス電子版 2022年4月11日の記事を再構成]

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