植物の成長とストレス応答、制御するホルモン発見 名大
名古屋大学の松林嘉克教授らは、植物の成長を促すホルモンを新たに発見した。細胞の表面にある受容体に結合すると、病害や温度変化といったストレスへの応答を抑えて成長を促す作用があった。遺伝子を効率よく改変できるゲノム編集の技術を使えば、植物工場などで育てる作物の収量を増やせるとみている。

植物は外部から過度なストレスを受けると、それまで成長に使っていたエネルギーをストレス応答に振り向けて耐性を高める。植物が成長とストレス応答に使うエネルギーのバランスを調整する仕組みは詳しく分かっていなかった。
研究チームはPSYという成長を促すホルモンを新たに発見した。細胞から常に放出されているが、ストレスでダメージを受けた部位では濃度が下がる。濃度が高い場合は成長を促し、濃度が低くなると成長よりストレス耐性の獲得を優先することが分かった。
細胞の表面でPSYを検知する受容体のたんぱく質「PSYR」も突き止めた。PSYが結合していない状態では、ストレス応答を促す働きがあった。PSYが結合すると、ストレス応答を抑えた。植物はストレス応答に消費した残りのエネルギーを成長にまわしている。
松林教授は「植物の細胞はストレス応答を促す『非常ベル』が常に鳴るようにしていることが分かった。PSYはベルを止める役割を果たす」と説明する。ストレス応答の準備を整えておくことで、素早く耐性を獲得するのにも役立っているとみている。
PSYとその受容体のPSYRを壊した変異株で実験した。PSYRを欠損させると、重量は14%増えたが、病害や温度変化といったストレスには弱くなった。環境の変化が少ない植物工場の作物に応用できれば、収量の増加を見込めると期待する。
ゲノム編集技術を使った品種改良に応用しやすい利点もある。成長を促す植物ホルモンは他にもあるが、受容体などを欠損させると収量は逆に減ってしまう。農薬として使えば、コストが高くなる。
PSYはその受容体を壊すだけで、農薬として与えた場合と同じような効果が期待できるという。実験植物のシロイヌナズナを使って解析したが、今後は農作物でも試して収量を増加させる効果があるか調べる。