民生兼用の防衛投資を - 日本経済新聞
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民生兼用の防衛投資を

SmartTimes iU情報経営イノベーション専門職大学教授 久米信行氏

昨今の地政学的リスクの高まりを受けて防衛費増強の議論が展開されている。岸田首相の発言にあったミサイルや戦闘機の購入も必要だろう。しかし有事以外は今後顕在化する社会課題の解決のために民生利用される一石二鳥の投資を考えるべきだ。そうでなければ世論は法人税・所得税の増税を受け入れまい。

今では生活に欠かせないインフラとなったインターネットが軍事技術だったことは周知の事実だ。同様に次世代のインフラをなるべく国内独自の技術で開発し自国で生産することが経済安全保障にもつながろう。

例えば、前大戦における日本の敗因の一つともされるロジスティクスはドローン活用で解決される。これは少子高齢化と過疎化で深刻化する地方の交通と配送システムに兼用できる。有事の物資や輸送に使われるドローンを、平時は民生兼用で地域活用すればよい。

既存の基地以外にドローン基地を過疎化が進む地方に分散配置。特区として法規などの規制を緩和し実証実験を繰り返す。ドローン操作・運行管理・メンテナンスの知見を高めていく。

民生活用できるレベルになったら、費用を自治体や交通運輸業者が負担すれば初期投資を回収し運用費用も賄える。いざ有事の時はドローンの一部または全部を徴用する方式だ。

もちろん、日本が得意とするロボット技術はさらに高度化したい。今後、少子高齢化で生産人口が減少、働き方改革も進んで、農業から建設まで生産現場が支えられなくなる。各現場に特化しつつプログラミングで平時から有事まで使えるロボットを開発すれば、生産現場の危機と地政学的リスクを同時に回避できる。

民生用ロボットの軍事転用に関しては様々な議論はあろう。軍事大国でロボット兵器の開発が進み技術的進化を遂げることは必至だ。そうなれば日本のロボット技術の比較優位も失われよう。次世代を展望した傾斜生産方式として、平時にも有事にも活用できるロボットは重点投資対象となるはずだ。

さらに重要なのはエネルギーの確保だ。ロシアのウクライナ侵攻でも、原子力発電所はじめ各地の発電所が攻撃目標となり、波及効果の大きさが再認識された。ミサイルで破壊されたら終わりとなる発電所を地上に作れなくなるとしたら、住宅の屋根も含めて分散発電をするか、宇宙で発電、送電するしかない。

大気圏外の静止軌道で発電し無線で地上に送電する仕組みも技術的にも経済的に可能になりつつあり投資対象にすべきだ。

平和を希求する者のひとりとして今の国際情勢は嘆かわしい。だが防衛費投資が不可避だとしたら、再生産不可能な兵器生産のみならず、経済安全保障に役立ち、社会課題の解決にも寄与する投資にしてほしい。しかも未来の主力輸出産業育成を目指すべきだ。

[日経産業新聞2023年1月23日付]

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