高齢者が挑戦できる社会へ
SmartTimes インディゴブルー会長 柴田励司氏
メタばあちゃん"ひろこ"が大人気だ。発表後1日でツイッターのフォロワー数が1万5千を超えた。マスコミ各社からの取材依頼も殺到している。「メタばあちゃん」とは私が塾長を務める渡辺記念育成財団のみらい塾5期生が発表したバーチャル・ユーチューバーだ。CGによるかわいらしいキャラクターが実は後期高齢者(85歳)というギャップがうけている。

この企画は物忘れやズレなどの老人性をネタにしたものでは全くない。むしろ、高齢者であっても挑戦できるというコンセプトだ。同財団ではリアクティブな社会をプロアクティブな社会に変えたいという想いから、昨年来EverWonderと称する活動を始めている。
コアメンバーは財団理事長で芸能プロダクションTopCoat代表の渡邊万由美さん、ソニーグループシニアアドバイザーの平井一夫さん、ボーカルグループGReeeeNのHIDEさん、日本テレビプロデューサーの福井雄太さん、そして私だ。
経済的な問題、コロナなどの要因によって、好きを好きと言えない、やりたいことがやれない閉塞感の中で立ち止まっている人たちの心に火をともすきっかけを提供し、その想いの実現に向けて支援したいと考えている。「メタばあちゃん」はその一環の企画だ。
米アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)が認める80代でiOSアプリを開発したおばあちゃんや平均68歳の秋田のe―スポーツチームなど活躍している高齢者がいる。素晴らしいことだ。ただ、EverWonderが対象とするのは、こうした自分の意思と力で行動を起こしている人ではない。やりたいことはあるが、その一歩を踏み出せない高齢者の背中を押す場を創る。それが「メタばあちゃん」プロジェクトである。
CGキャラクターを使っているので顔出しは不要。やってみたいという75歳以上の方を募集している。第一号の「ひろこ」も最初は「バカ孫に言われて」と、なんのことかわからず始めたが、やってみると楽しく、その収録も自分で納得いくまで繰り返したと聞く。
発表後、SNSには国内外からコメントが寄せられた。「実年齢幾つでもバーチャルなら若返るから夢があるね。」「車椅子に乗っていても、肌の色が緑でも、目が見えなくても、Vチューバーになれるんだなって改めて思った」。コメントの大半は若者のものと思われる。メタばあちゃん「ひろこ」により、彼らの心に火が灯った。
総人口の約3割が65歳以上の日本で、高齢者が元気になると日本全体が明るくなる。老人だからできないではない。老人だって自分の肯定感を感じることができる。そういう社会づくりの一助となれば、企画者の1人としてこれ以上の喜びはない。
[日経産業新聞2023年1月18日付]
