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インテル、半導体の首位奪還へ 鍵握る5つの投資戦略

CBINSIGHTS
インテルは2021年に韓国サムスン電子に奪われた半導体売上高の首位奪還に向けて、積極的な企業買収・出資・提携戦略を進めている。2月には同業のイスラエル企業を54億ドル(約6800億円)で買収すると発表した。こうした製造分野に加え、半導体の応用を広げる人工知能(AI)、自動運転、クラウド、サイバーセキュリティーの4分野で活発だ。CBインサイツがインテルの投資活動を分析し、首位奪還の鍵を握る5つの重要戦略をまとめた。
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

米インテルは売上高世界2位の半導体企業だ。2021年は売上高790億ドル、世界で12万1000人の社員を抱え、10カ国に15カ所の工場を持つ。21年に韓国サムスン電子に首位の座を奪われたが、25年までの奪還をめざして戦略転換を進める。

CBインサイツのデータを活用し、最近の買収、出資、提携から、5つの重要戦略を明らかにした。

●人工知能(AI)

自動運転

クラウドコンピューティング&コネクティビティー

サイバーセキュリティー

半導体設計・製造

人工知能(AI)

インテルはこの5年、機械学習とデータサイエンスを中心に、AI企業への買収や出資に積極的だ。18年にはオープンソースの深層学習(ディープラーニング)エンジン「プレイドML(PlaidML)」を開発した米バーテックスAI(Vertex.ai)を買収。最終利用者に近いところで計算するエッジでの映像解析技術(コンピュータービジョン)やAIの処理に特化した低消費電力のプロセッサーを開発する部門「モビディウス(Movidius)」に統合した。

その2年後には、データサイエンスのワークフローの管理や拡張を手掛けるイスラエルのコンバージ(Cnvrg.io)と、中小企業向けのAIモデル開発プラットフォームを運営する米シグオプト(SigOpt)も買収した。

買収を足掛かりに、インテルはプラットフォーム「AIビルダーズ・アンド・ソリューションズ・マーケットプレース(AI Builders and Solutions Marketplace)」を通じて詐欺防止、がんのスクリーニング検査など195のソリューションを提供している。深層学習のアプリケーション開発を支援するツールキット「オープンビーノ(Open VINO)」も開発している。

AIとデータ処理能力を有効活用するため、ヘルステック企業への出資や提携も進める。代表例が中国の匯医慧影(HY)と米プロプリオ(Proprio)だ。両社とも医用画像解析を手掛けるが、匯医慧影は病気の診断と治療が専門なのに対し、プロプリオは複雑な外科手術の可視化システムを提供する。

自動運転

自動運転技術の開発も重点分野だ。インテルは17年、運転支援システムを開発するイスラエルのモービルアイ(Mobileye)を150億ドル以上で買収。さらに、米ミシガン大学の自動運転実験施設「Mシティー(Mcity)」に1100万ドルを出資した。20年にはこの分野の取り組みを強化するため、交通データを保有・解析するイスラエルのムービット(Moovit)を9億ドルで買収した。

最近はドイツのレンタカー会社、シクスト(Sixt)と提携した。傘下のモービルアイはシクストと組んでドイツでロボタクシーサービスに乗り出す。実証実験では、自動運転システム「モービルアイ・ドライブ(Mobileye Drive)」を商用の自動運転配車サービスで初めて披露する。

クラウド&コネクティビティー

インテルは事業の多角化とパソコン依存脱却へ、クラウド&コネクティビティー技術に着目している。21年には自社の既存のクラウドインフラを拡充し、クラウドゲームに参入するためにポーランドのリモートマイアップ(RemoteMyApp)を買収した。メモリーの障害を最小限に抑えるため、中国の京東クラウド(JD Cloud)と提携した。

コネクテッドデバイスとシステムとのデータ共有も進める。例えば、クラウドコンピューティングを分散化し、自社のネットワーク形成、AI、エッジ機能の強化につなげるため、米スマートエッジ(Smart Edge)を買収した。

クラウド事業強化へ、イスラエルのグラニュレート・クラウド・ソリューションズ(Granulate Cloud Solutions)を推定6億5000万ドルで買収した。同社のリアルタイム最適化ソフトウエアを活用し、コンピュートワークロードの性能を高める構えだ。

自社プロセッサー搭載のパソコンの接続性能を向上させるための買収にも乗り出している。一例はパソコンとモバイル機器の接続性に特化するイスラエルのスクリーノベート(Screenovate)買収だ。

無線通信分野の企業との提携も進める。例えば、フィンランドのノキアと組んで実証実験に乗り出し、プライベート5G網(特定地域内での高速通信網)の能力(毎秒100ギガビット以上)と「インダストリー4.0(第4次産業革命)」向けの処理で世界最速を記録した。

サイバーセキュリティー

データ漏洩が頻発し、深刻化している。インテルはこの問題に対処するため、サイバーセキュリティー分野の主要企業や組織と提携している。

20年には他人のコンピューター端末の処理能力で暗号資産(仮想通貨)を採掘(マイニング)する「クリプトジャッキング」に対処するため、カナダのブラックベリーと提携した。米通信大手ベライゾンの報告書によると、20年に暗号資産の採掘のマルウエアを受け取ったり、ブロックしたりしたことがある組織は約10%に上った。

注目すべきは米政府機関や大手防衛関連企業との提携だ。インテルと米マイクロソフトは21年、米国防総省の国防高等研究計画局(DARPA)と提携し、「仮想環境でのデータ保護(Data Protection in Virtual Environments、DPRIVE)」プログラムの一環として「準同型暗号」の活用促進に取り組む。準同型暗号は暗号化されたデータを復号することなく(つまり元のデータが他に漏洩するリスクを冒すことなく)分析できるため、従来の暗号方式より安全性が高いと考えられている。

さらに、米NPO「トラスティッド・コンピューティング・グループ(Trusted Computing Group、TCG)」の枠組みでサプライチェーン(供給網)の安全性と耐性を強化するために、マイクロソフトと米金融大手ゴールドマン・サックスと提携している。21年4月には高性能計算(HPC)の作業負荷の安全性向上を目指し、米防衛大手ロッキード・マーチンと米オーロックテクノロジーズ(ORock Technologies)と提携した。

半導体設計・製造

半導体は製造が最も複雑なデバイスの一つで、工程は1000以上に及ぶ。製造コストも莫大で、最新の生産施設の建設には100億ドル以上かかる。多くの企業は製造工場(ファブ)を持たず、設計に特化して生産を外部企業に委託する「ファブレス」へと移行している。一方で、ファブレス企業向けの生産に特化している企業「ピュアプレーファウンドリー」もある。

もっとも、インテルは自社で設計と生産の両方を手掛ける総合半導体メーカーだ。最近は他社が設計した半導体を生産するファウンドリー(受託生産)事業に乗り出し、新たなビジネス市場も開拓。社内外の製造と設計に多額の費用を投じ続けている。

ファブレス

インテルはここ数年、ファブレス分野で多くの重要な買収をした。米イネダシステムズ(Ineda Systems)や米セントールテクノロジー(Centaur Technology)など多くは半導体を設計する技術者を発掘し、獲得する狙いだ。AIや機械学習、カスタマイズ可能なアプリケーションなど新たな用途のアーキテクチャーを設計する企業も買収した。

18年には米イーエイシック(eASIC)を買収した。イーエイシックは従来型のスタンダードセルのASIC(特定用途向け集積回路)より性能とコスト効率が優れていることで知られるストラクチャードASICを設計している。

次に、SoC(システム・オン・チップ)の設計・検証プロセスを自動化する米ネットスピードシステムズ(NetSpeed Systems)を買収した。さらに、回路を自由に書き換えられるFPGA(フィールド・プログラマブル・ゲートアレイ)を開発する英オムニテック(Omnitek)も買収した。

ファウンドリー

インテルの提携や買収活動からは、同社が様々な半導体の開発と生産に重点を置いていることがうかがえる。例えば、インテルと米セムテック(Semtech)は最近、高性能センサーLiDAR(ライダー)に最適な半導体を開発するため、提携すると発表した。

この分野で最も重要な買収の一つは、イスラエルのタワーセミコンダクター(Tower Semiconductor)の54億ドルでの取得だった。タワーは自動車や産業市場など向けのアナログ集積回路を生産している。買収によりインテルはタワーの既存の顧客基盤と生産施設を活用し、ファウンドリー事業をさらに発展できるだろう。

インテルのファウンドリー事業には顧客が列をなしている。デジタル無線通信向けチップを設計するファブレスの米クアルコムは、インテルのファウンドリー事業と提携し、将来の生産を支援。同様に、AIや機械学習、ディープラーニング向けに低消費電力の演算プラットフォームを手掛ける米エスペラントテクノロジーズ(Esperanto Technologies)も、オープンソースの仕様規格「RISC-V(リスクファイブ)」を採用したプロセッサーをインテルと共同で開発する。

インテルはこの分野でのリーダーシップを強化するため、自社の半導体事業の進化に向け、ビジネス関係を構築している。例えば同社は現在、回路線幅10ナノ(ナノは10億分の1)メートルの製造プロセスを採用しているが、ファウンドリー世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)はさらに先端の5ナノメートル(回路線幅が狭くなるほど処理性能は高くなる)の製品を生産している。インテルは競争優位を維持するため、米IBMと提携して最近開発した2ナノメートルの製造プロセスについて研究している。

インテルはこの技術の活用方針を明らかにしてはいないが、この提携は2ナノメートルやさらにその先に向けた最良の道をみいだそうとするインテルの取り組みを示している。

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