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米インフラ投資1兆ドル 新興テックが活躍する4分野

CBINSIGHTS
世界各国でインフラの老朽化が問題になっている。米国では1兆ドル(約114兆円)規模の超党派インフラ投資法案が11月15日に成立した。同法では古くなったインフラを刷新するほか、高速通信網を整備する計画で、スタートアップなどの最新テクノロジーを活用する好機でもある。高速通信網や公共交通機関、送電網など4つの分野について、テックを活用した改善ポイントをまとめた。

インフラは世界各国で問題を抱えている。老朽化したシステムは非効率的で、特に気候変動により頻発する自然災害への対処に必要な耐性を備えていない。こうしたシステムを強化する適切な資金を投じなければ、企業もコミュニティーもリスクにさらされる。

例えば、米国では配水管が2分ごとに破裂し、公道の43%は「劣悪」または「あまり良くない」状態にある。米市民の半数近くは公共交通へのアクセスがなく、異常気象による停電が頻発している。

日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

こうした要因などから、米国土木学会(ASCE)は直近のリポートカードで米国のインフラの状態を「Cマイナス」と評価した。

インフラシステムを最新の状態にするのは大変な仕事だ。財源の承認を取り付けるのが難しいうえに、米国では熟練労働者も不足している。

だが、この分野には大きなチャンスがあり、米国の公共交通の市場規模だけでも710億ドルに上る。テクノロジーはこのチャンスを活用する上で重要な役割を担うだろう。

ブロードバンド(高速大容量)回線のアクセス拡大から送電網の改革に至るまで、インフラでのテックの4大チャンスを取り上げる。

1.コネクティビティー(接続性)

ポイント:

・米国の半数以上の郡のインターネットの接続速度は、米連邦通信委員会(FCC)によるブロードバンドの定義を満たしていない。このため、在宅学習やリモートワーク、オンライン診療へのアクセスが制限されている。

・高速通信規格「5G」の台頭は、電気自動車(EV)の充電施設の発展や送電網のネット接続など他の分野のインフラ強化にとって不可欠になる。

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)により、確実なネット接続が私たちの日常生活に不可欠であることが浮き彫りになった。だがASCEによると、米国の65%の郡の平均通信速度はFCCによるブロードバンドの定義を満たしていない。

これは深刻な事態だ。2020年には(遠隔)授業を受けるために必要な高速のネット接続がない学齢児童は5分の1に上った。地方在住の会社員の多くはブロードバンド接続が頼りにならず、在宅で勤務できない。地方のコミュニティーの住民は通信環境が不十分なため、遠隔医療も受けられない。

5Gはブロードバンドのアクセス拡大で重要な役割を果たし、他のインフラ改善も進める可能性がある。

全米各地で5G対応の電柱や通信塔などの構造物の設計や建設が進んでいる。例えば、米電力大手デューク・エナジーは最近、ノースカロライナ州シャーロットなどの都市の街灯に5Gのスモールセル(小型基地局)数百基を設置するため、米通信大手ベライゾンと提携した。これにより、道路に新たに構造物を建設することなく携帯電話サービスを強化できる。

米電力会社エクセル・エナジーも無線通信事業者に対し、スモールセルを設置するためにコロラド州の街灯18万本以上へのアクセスを提供しようと取り組んでいる。

これはすでに5Gに多額の資金を投じている米通信大手AT&T、韓国サムスン電子、ベライゾンなどの企業にとって朗報だ。プライスウォーターハウスクーパース(PwC)によると、21年7月時点での米携帯電話事業者の5Gの人口カバー率は約80%に上っている。もっとも、ネットワークの性能が向上し、5G端末の導入が増えるにはまだ数年かかりそうだ。

5Gのカバー率はネットや(ネットに接続された)コネクテッドデバイスを自宅で使っている消費者にとってのみ重要なわけではない。EVの充電インフラの拡大、公共交通の近代化、居住用・商業用ビルの電気・ガス・水道のネット接続などでも重要な役割を担うだろう。

EVへの移行が本格化すれば、5Gの活用により交通安全を強化するカギとなる車車間通信(V2V)を強化できるようになる。5Gは信号やバス停、道路などのインフラとクルマをつなぐ車路間通信(V2I)でも重要な役割を担う。これにより交通の流れを改善し、外部の危険因子を減らし、クルマの反応時間を増やし、公共交通を効率化できる。

5Gは発電や送配電、エネルギー利用の革新的な解決策にも道を開きつつある。電力の供給量を最適化する次世代送電網「スマートグリッド」の次の波を引き起こすとみられているからだ。スマートグリッドが普及すれば、エネルギー管理はさらに効率化し、ピーク電力需要と全体的なエネルギーコストが減るだろう。

さらに、5Gは電池で動く機器の寿命を最大10年と大幅に延ばす。これにより、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」センサーの大量展開が一段と現実的な解決策になる。

2.電気自動車(EV)

ポイント:

・バイデン米政権はインフラ投資計画の一環として、30年までにEV充電設備を国内50万カ所に設置する資金を拠出する構えだ。

・自動車メーカー各社は新たな規制に対応し、消費者はより環境を意識した解決策を求めているため、EVシフトはすでにかなり進んでいる。

投資家はすでに新たな排出規制や気候変動への懸念に対応し、EVに多額の資金を投じている。21年に入ってからこの分野への投資額は166億ドルに上り、過去最高だった20年通年を上回っている。

EVに加え、充電ステーションやバッテリー技術などの関連テクノロジーは、米国のインフラ刷新のカギとなる。米国内では現在、一般向け充電ステーション約4万1000カ所に10万基以上の充電器が設置されている。だが、EVのオーナーは日常的に、アクセスや利便性、相互運用性の問題に見舞われている。充電ステーションはなかなか見つからず、全ての車種に対応しているとは限らない。しかも、EVの充電はガソリン車の燃料タンクを満タンにするよりも時間がかかる。

EV充電ステーションの市場規模は264億ドルに上る。バイデン政権は30年までに新たな充電設備50万カ所の建設費を拠出する計画を掲げているため、この分野の企業はEVの充電をよりシームレスな体験にできる大きなチャンスがある。

例えば、米EVパスポート(EVPassport)は利用者がアプリやアカウントをいくつも持たなくてもEVの充電料金を支払えるプラットフォームを手がける。同社は21年7月、米ニューラボ(Newlab)とベライゾンが5Gの次世代の産業利用を支援するために設立した米5Gスタジオと提携し、5Gを活用したEVの充電を試験運用している。ベライゾンの5Gサービス「5Gウルトラ・ワイドバンド」とモバイル・エッジコンピューティングにより、充電の待ち時間を50%以上減らせたとしている。

他の企業も充電網も構築している。米新興EVメーカーのリヴィアン(Rivian)は23年までに、北米600カ所の充電ステーションで充電器「アドベンチャーネットワーク」3500基を展開する。これはリヴィアン製EVのオーナーしか使えないが、同社は全てのEVに対応した一般向け充電器「ウェイポイント」数千基の設置も計画している。

EVの普及に弾みがつくのに伴い、電池メーカーへの投資額も過去最高の水準に達しつつある。

自動車メーカー各社は電池メーカーに巨額の資金を投じている。例えば、独フォルクスワーゲン(VW)はスウェーデンのリチウムイオン電池メーカー、ノースボルト(Northvolt)や全固体電池メーカーの米クアンタムスケープ(QuantumScape)などの電池テック企業に数億ドルをつぎ込んでいる。

車載電池技術のカテゴリーのうち、投資件数が最も多いのは電池製造だ。もっとも、ナノテクや全固体電池、電池管理システムなどでも機会が生じている。

3.公共交通

ポイント:

・公共交通はASCEの最新のインフラ診断書「インフラリポートカード」で最も評価が低かった分野の一つだ。

・航続距離を延ばす車載電池と充電インフラの拡大が進んでいるため、電気バスは今後増えそうだ。

・都市部では自転車やキックスケーターのシェアサービスなどのマイクロモビリティーを活用しやすくなっている。

米国の公共交通は早急に刷新する必要がある。この分野は状態が悪く、アクセスも不十分なため、ASCEの最新の評価では「Dマイナス」にとどまった。米運輸省によると、現時点でバス2万4000台以上、鉄道車両5000台、数千マイルの線路や電力系統の修理が実施されていない。

EVシフトを可能にしたのと同じ技術が、バスにも影響を及ぼす可能性がある。17年には世界で公道を走る電気バスはわずか38万6000台だった。米ブルームバーグによると、25年には120万台に増える見通しだ。

現時点では、世界の電気バスの98%近くが中国で展開されている。米国では航続距離に対する懸念と初期費用の高さから導入が進んでいない。電気バスの価格はディーゼルバスよりも約50%高く、1基10万ドルもする充電ステーションが必要になる。

だが実際には、燃料や保守整備費を考慮に入れると、政府や地方自治体は電気バスの導入により最大17万3000ドルを節約できる。さらに、バイデン政権は30年までに米国内の全てのバスのCO2排出量をゼロにするとの目標を掲げており、米プロテラ(Proterra)やカリフォルニア州にある中国の比亜迪(BYD)子会社などの米電気バスメーカーに待ちに待った追い風が吹く可能性がある。

全米各地では自動輸送車の試験運行も始まっている。例えば、オハイオ州コロンバスは自動運転のシャトルバスサービス「スマートサーキット」を開始している。利用料は無料で、住民をレクリエーションセンターや輸送拠点に運ぶ。こうしたサービスは、公共交通の主要路線から外れる地域に住む人との格差を埋める役割を担う。

公共交通のコネクテッドカー(つながるクルマ)の普及に弾みがつけば、クルマとあらゆるモノをつなぐV2X技術の重要性が高まるだろう。V2X技術とは、クルマを他のクルマ(V2V)や歩行者の端末(V2P)、インフラ(V2I)などと無線通信させるハードウエア(例:センサーやレーダー)を指す。この技術の成否のカギを握るのは「ネットワーク効果」だ。例えば、道路やインフラとつながるクルマが十分に増えれば、異常気象や事故、渋滞を切り抜けやすくなる。

この分野に取り組んでいる企業の一つが、カリフォルニア州に拠点を置くサバリ(Savari)だ。同社はクルマが他のクルマやインフラと通信できるようにするセンサーや関連ソフトウエアを開発している。同社は21年2月、米自動車部品大手ハーマン・インターナショナル・インダストリーズに買収された。

もっとも、公共交通は今やバスや鉄道だけにとどまらない。都市部を席巻しつつある自転車やキックスケーターのシェアサービスを手がけるマイクロモビリティーは、都市の短距離輸送の重要な要素になっている。米国のマイクロモビリティー市場の規模は30年には2000億~3000億ドル相当になるとみられている。

仏エコベロ(Ecovelo)、インドのユルバイク(Yulu Bike)などの電動自転車や、米バードライズ(Bird Rides)や米ライム(Lime)などキックスケーターのシェアサービスは、短距離移動ではクルマの代わりとして、長距離移動では公共輸送の拠点までのつなぎとして機能し、渋滞を緩和する。都市やコミュニティーは公共交通の評価を上げようとしているため、マイクロモビリティーは急速に普及し、使いやすくなるだろう。

4.送電網

ポイント:

・現在の米国の送電網は、気候変動により頻発しつつある異常気象に対応する体制が整っていない。バイデン政権は送電網の改修に730億ドルを投じる方針だ。

・EVの普及に伴い、車載電池は送電網のエネルギー貯蔵源として「第二の人生」を見いだしつつある。

世界がますますつながるなか、安定した電力の供給がこれまで以上に重要になっている。現在の米国の送電網(発電所から住宅や会社まで電気を運ぶ送電線、変電所、変圧器のネットワーク)は1890年代に建設されて以降、ひっきりなしに更新されてきた。現在のシステムは総発電容量が100万メガワット(MW)を超える約9200基の発電設備からなり、全長30万マイルに及ぶ送電線に接続している。これは相当な規模に思えるが、米国の送電網は限界に達しつつある。

送配電システムはなかなか安定せず、この部門で停電の92%が発生している。気候変動により異常気象が増えているため、こうした問題は悪化する可能性が高い。異常気象は14~18年に報告された停電638件の主な原因となった。

この傾向はその後も続いている。21年2月には、寒波によりテキサス州全域で配電網が機能不全に陥り、数百万人の住民が数日間電気を使えなくなった。その数カ月前には、カリフォルニア州の山火事で同州の電力大手PG&Eの顧客数万世帯が停電したばかりだった。最近では、大型ハリケーン「アイダ」の影響でルイジアナ州ニューオーリンズの住民が1週間以上にわたり暗闇に取り残された。

米国のインフラ改修は送電網をクリーンで強靱(きょうじん)にし、安定性を高める大きなチャンスをもたらす。ここで期待されるのがスマートグリッド技術だ。スマートグリッドは発電所と顧客の間の電力やデータの双方向の流れを可能にする。このため需要にリアルタイムに対応したり、停電や機器の故障などの際には自動で配電ルートを切り替えたりできるようになる。

スタートアップは需要への対応から再生可能エネルギーの活用、エネルギー貯蔵の管理まで、送電網の近代化の様々な要素に対処し始めている。例えば、米オートグリッド・システムズ(AutoGrid Systems)や英グリッドビヨンド(GridBeyond)、米オームコネクト(OhmConnect)は電力会社や送電会社がピーク電力を抑え、システムの信頼性を高め、容量を増やす必要性を減らす。米サンバージエナジー(Sunverge Energy)やカナダのブルーウエーブAI(BluWave-ai)、米マップドウェル(Mapdwell)などは電力会社や送配電事業者が様々な再生エネ資源を送電網に活用できるようにするプラットフォームを開発している。

この分野ではエネルギー貯蔵技術も不可欠だ。電力会社や自動車メーカーなど向けにエネルギー貯蔵を効率化し、活用しやすくするスタートアップが台頭している。例えば、米フォーム・エナジー(Form Energy)は発電事業用にエネルギーを貯蔵するフロー電池システムの開発に取り組んでいる。フロー電池は電解液をためたタンクと反応室を使ってエネルギーを貯蔵する。このテクノロジーの利用は送電網用の長期の蓄電にほぼ限定されている。

送電網のデジタル化に伴い、スマートメーターなどエッジコンピューティングを活用するスマート機器が一般的になりつつある。米ユーティリデータ(Utilidata)や米グリッド4C(Grid4C)などはこうしたエッジ機器から収集したデータを使い、電力会社による送電網の管理やコストの最小化、停電の把握を支援する。さらに、オフピークの間に発電した電力でピーク需要を満たすため、発電事業用のエネルギー貯蔵の展開も進んでいる。フォーム・エナジーはエネルギーを数週間貯蔵できる発電所を開発し、この分野のリーダーになろうとしている。

一方、EVが軌道に乗れば、電力需要をダイナミックに管理し、停電を防ぐためにEV充電インフラを活用できるようになる。

「寿命」を迎えた車載電池も送電網で新たな用途を見いだしつつある。これは「セカンドライフバッテリー(再利用電池)」技術と呼ばれる。EVの電池パックは数千個の電池セルからなり、時間がたつにつれて蓄電機能を失う。だが、寿命を迎えた時点でもなおかなりの容量を保っている場合が多く、蓄電池として5~7年間再利用できる。

車載電池の再利用には性能検査と組み立てのコストしかかからないため、これは送電網にとって安価なエネルギー貯蔵源になる。

この技術に対するメディアの注目度は着実に高まっている。米マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームが20年5月、EVメーカーが再利用された車載電池を「太陽光発電と蓄電を組み合わせる」技術の開発を手がける企業に販売し、収益を得られる可能性を示した研究を発表すると、ニュースでこの技術を取り上げる回数は急増した。韓国・現代自動車傘下の起亜と同化学大手SKイノベーションが20年9月、車載電池の循環経済を築くために提携を発表した際にも関心が高まった。

電力会社は再利用電池と安価な風力や太陽光発電を組み合わせることで、電気供給コストを抑え、消費者に還元できる。

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