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脱炭素でも深刻な「熱」問題 新素材で解決目指す

西谷CEOは新素材を加工するノウハウを含めて売り込む
日経ビジネス電子版

データセンターの新増設ラッシュや電気自動車(EV)の普及などに伴い電子機器が発する「熱」が課題になっている。熱を冷やすための電力消費量は増えており、「脱炭素」でも残る難題だが、放熱素材で革新を起こそうとするのが名古屋大学発スタートアップのU-MAP(ユーマップ、名古屋市)だ。新素材は厄介者だったが、量産加工できるノウハウを確立。クールな技術で世界を冷ます。

U-MAPの西谷健治CEO(最高経営責任者)の右手首は左に比べ少し筋肉がついている。その理由は後ほど明らかにするとして、西谷CEOは謎の綿菓子のような素材を私の前に差し出した。「これで私たちは世界の熱問題を解決します」。西谷CEO、とにかく笑顔がさわやかすぎるのだが、その裏には秘めた野心が見え隠れする。

綿菓子の正体はファイバー状の単結晶窒化アルミニウムという。初めて聞いたときには何のことだかさっぱりわからなかったが、なんでもこの素材は電子機器が発する「熱」を劇的に取り除いてくれるらしい。

近年、人工知能(AI)やあらゆるものがネットワークにつながるIoTの進展で世界各地にデータセンターが雨後のたけのこのように出現。サーバーを冷やすための電力量はとてつもなく増えている。世界の消費電力の3~6%はデータセンター向けで、2030年には20%を占めるともいわれている。

パソコンやモビリティーを含めれば25%になるという見方もある。それだけ電子機器の熱問題は地球に負荷をかけているのだ。その熱退治に威力を発揮するのがファイバー状の単結晶窒化アルミだという。

U-MAPは名古屋大の研究室から生まれた

偶然の発見

窒化アルミというのは自然界に存在しない無機物で、窒素やアルミと反応させ結晶を成長させることで取り出せる。半導体の材料などに使われているが、これまで窒化アルミは粉末状で多結晶でしか実用化されていなかった。

この材料に技術革新を起こしたのが、U-MAP取締役で名古屋大教授の宇治原徹さんだ。西谷CEOの師匠にあたる。

宇治原教授は2013年、窒化アルミの結晶を成長させる研究で偶然、別の結晶ができているのを発見。顕微鏡やX線装置で見たところ、単結晶でしかもファイバー、つまり繊維状だったのだ。「これはすごい」。化学メーカーの技術者に持ち込むと驚きの声が相次いだ。当時、大学4年生だった西谷CEOら研究室のメンバー全員も色めき立った。なにがすごいのか。

すでに商用化されている多結晶タイプは、結晶がばらばらと多数並んでいるがゆえに放熱の妨げとなり熱がこもりやすい。一方、単結晶は結晶構造が一つなのできれいに熱が伝わりやすく、水とも反応しにくい。素材として安定しているのだ。さらに、ファイバー状だと繊維が熱の通る経路になるため熱伝導率、つまり放熱性が高まる。

単結晶は「バーで出てくる氷」

結晶構造の違いについて、西谷CEOは「家の冷蔵庫でできたちょっと白っぽい氷が多結晶、バーで出てくる氷が単結晶」と例える。熱を光に置き換えれば透明な氷の方が光をよく透過するのは一目瞭然だ。

放熱性の高さは立証済み。これまでの窒化アルミの熱伝導率は200W/mK(W/mKは熱伝導性を示す単位)だが、U-MAPは270W/mKある。この値が高ければ高いほど放熱性に優れている。顧客がテストで樹脂を混ぜて使ったところ、放熱性が従来に比べ約2倍になるメーカーが相次いだ。

窒化アルミは電子機器などの部品の材料として使う場合、樹脂に混ぜる。混ぜる割合は単結晶は10~40%と、粉末多結晶の窒化アルミの60~80%に比べて少ない。これまで多結晶窒化アルミを混ぜた場合、硬い板状にしか成形できず扱いにくかった。だが、単結晶だと軟らかく自由自在に成形できる。

もちろん弱点はある。樹脂と混ぜ合わせる技術が難しいことだ。繊維なのでとにかくすぐ絡んでしまう。だまになる。そしてバキバキに折れてしまう。

均一にうまく混ぜ込まないと熱伝導率が10分の1になる場合もあるという。空気を多く含んでしまうと素材の強度にも影響する。また、うまく混ぜるためには結構な力がいるらしいが、あまりに強く混ぜすぎるとファイバーが折れてしまう。優れものだが、ちょっと厄介なのがファイバー単結晶窒化アルミなのだ。

お決まりのレールには乗らず

西谷CEOの右手首に筋肉がつくのも、絶妙な力の入れ具合が求められるからだ。かくはん機メーカーに持ち込んだときも「こんな厄介な素材見たことない」と眉をひそめられたんだとか。

だったら、わざわざ混ぜなくても「窒化アルミ」だけ販売すればコストも人手もかからないのでは、と思うのだが、そうではないらしい。「厄介だけど混ぜるひと手間を加えれば付加価値がつく。そうすれば収益性の高い素材になる」と西谷CEOは話す。

多結晶の粉末窒化アルミはトクヤマと東洋アルミニウム(大阪市)が世界2強を占めるが、単品売りに終始している。U-MAPはそうではなく樹脂と混ぜ合わせるノウハウをライセンス技術として販売。身の丈を意識して量産には手を出さない。多くの樹脂メーカーと組むことで広く利益を取り込もうとする。

苦労を重ねたかいがあり「混ぜ合わせるノウハウはおおむね確立した」(西谷CEO)。19年には愛知県瀬戸市に試験プラントが完成。次は安定した生産を目指して日夜、社員らと汗を流している。

西谷CEOはちょっと変わった経歴の持ち主だ。 15年に名大院修士課程修了後、東海地方を地盤にスーパーマーケット「バロー」を展開するバローホールディングス(HD)に入社した。

材料工学を修め、末はトヨタ自動車かそのグループ会社のエンジニアかと嘱望されていた。だが、あっさり「違う世界を見てみたい」と名大院卒理系出身者のあるあるコースから外れた。

店舗でパンを焼いたり、新規事業開発に取り組んだりと研究とは全く無縁の生活。だが、宇治原教授とその関係者が、熱という社会課題を解決する新素材で16年に起業。産業に根付かせようとする話を聞くなか、むくむくと参画への意欲が湧き上がってきた。

サーバー機器やCPU(中央演算処理装置)用の封止材料、EVやロボット向けのインバーターなどこれまでU-MAPには200社から引き合いがきている。サンプル販売は海外も含め80社にのぼっている。

(日経ビジネス 上阪欣史)

[日経ビジネス電子版 2021年5月10日の記事を再構成]

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