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進化するサイネージ 「効果が見える」広告メディアに

日経ビジネス電子版

新型コロナウイルスの感染が落ち着きを見せるなか、サイネージ広告が注目されている。外出自粛中に広まったネット広告のように、実世界でも広告効果を明瞭にする需要が高まっているためだ。単に看板を電子化するのではなく、データを活用した新たな広告メディアとして収益化を図ろうとしている。

東京都港区にある「ファミマ!!青山ビル店」には、レジ上部に大型モニター3枚が掲げられている。売れ筋商品やキャッシュレス決済「ファミペイ」などの広告だけでなく、テレビドラマなどの娯楽情報や天気予報、ニュースを放映している。

ファミリーマートの親会社、伊藤忠商事第8カンパニーの中元寛ゼネラルマネジャーは、「広告だけ流していると『必要が無い情報』という印象を来店客に与えてしまう」と語る。伊藤忠とファミリーマートが目指すのは、単なる看板の電子化ではなく、「店舗のメディア化」だ。

両社は2021年9月、新会社ゲート・ワンを設立。NTTドコモやサイバーエージェントと設立したデジタル広告配信を担うデータ・ワンと連携し、店舗のデジタルサイネージ(電子看板)を活用した広告メディア事業を本格展開する。サイネージの設置店を22年春までに3000店舗に広げる計画だ。

コンビニがメディアを目指す背景には、業界が直面する「成長の踊り場」がある。新規出店で成長してきたモデルは行き詰まり、オーナーの高齢化や24時間営業の限界など様々な課題が山積する中で、どう収益を伸ばすのか。参考にしたのが米ウォルマートだった。

小売りはメディアに向いている

ウォルマートは、米アマゾン・ドット・コムに対抗する手立ての一つとして、「1週間に1.5億人が訪れる約4700店舗」を広告プラットフォームにすると宣言し、サイネージを設置している。ファミリーマートの国内約1万6600店舗も同じように生かせるのではないかと考えた。

伊藤忠とファミリーマートは約1年前に100店舗で実証実験を始めた。1万5000人を対象にしたアンケートや、サイネージに設置した人工知能(AI)カメラのデータを分析すると、イートインスペースに置いたタブレットや、棚に設置した中型モニターの視認率は5~10%ほどにとどまったが、来店客が必ず立ち寄るレジ上は平均約50%と高かった。

ファミマの強みは、販売データを活用した分かりやすい広告効果だ。広告を見た人は見ていない人に比べて「購買意欲」が最高で1.6倍に上り、ほかの媒体よりも高い結果を出した。また、サイネージ設置店では広告対象商品の売り上げが非設置店より2割強増えた。伊藤忠の中元氏は、「強い顧客接点と、販売データを持つ小売業は、広告メディア事業と相性がいい」と手応えを語る。

従来の広告は「見ている人数が分からない」「性別や年齢など配信先を細かく狙えない」という課題があったが、それが当然だと受け入れられていた。しかしコロナ禍でネット通販の存在感が高まると、ネット広告による表示数の算出や「ターゲティング広告」と比較されるようになる。関係者は「人通りが多い目抜き通りや、1日10万人が乗り降りする駅というだけでは広告主が満足しなくなっている」と明かす。

効果測定できる屋外広告

サイバー・コミュニケーションズ(東京・中央)の調査によると、20年のデジタルサイネージ広告市場は前年比3割減の516億円。コロナ禍で大きく減少したが、22年に19年の水準に回復し、その後伸びていくという見立てだ。

NTTドコモの「モバイル空間統計」を活用し、課題解決に挑むのが、LIVE BOARD(ライブボード、東京・渋谷)だ。ドコモが51%、電通グループが49%出資し19年に設立した。「日本で唯一効果測定ができるデジタル屋外広告メディア」をうたう。

モバイル空間統計とは、基地局ごとに集計した携帯電話の台数に、ドコモの普及率を加えて推計する人口統計だ。国際基準に基づいて屋外広告が視認できる範囲を割り出し、滞在人口をモバイル空間統計などを使って算出。アンケートなどで導いた視認率をかければ、広告の視認者が分かる。

配信の対象は、屋外サイネージ120面超に加え、駅構内や電車内、ドコモショップなどで5000面以上に上る。モバイル空間統計は性別、年代、居住エリアが分かる。「20代の女性10万人に広告を見せたい」という注文があれば、ターゲット層が多い時間帯やスクリーンを選んで広告を配信できる。商品が買える店舗近くに配信したり、天気や気温と連動して広告コンテンツを使い分けたりもできる。

例えば、第一三共ヘルスケアは、天気予報など頭痛の関連情報と合わせて鎮痛薬の広告を出している。同社担当者は、「広告の投資結果が『見える化』できるため、限られた予算の中で利用しやすい」と話す。

マンション内にも広告メディア

コロナ禍でも人流が減らない場所としてマンションに目を付けたのが、AIによる画像解析サービスを提供するニューラルポケットだ。紙の掲示板を避けたい高級マンションのエントランスで、住民向けの案内を流しながら広告を配信している。生活用品や有機食品などの出稿が多い。

同社の強みは「エッジ処理」だ。クラウド型の場合、映像データを現場の端末からサーバーに送信してAIが解析するが、エッジ型は現場でデータを処理する。処理後のテキストデータは送信コストが低く、映像データそのものを送受信しないため、プライバシー保護に有効だという。

AIが広告の視認率や、年齢、性別を測定する。従来は商業施設などにサイネージを販売していたが、AIの分だけ価格が高くなり販売ペースが十分でなかった。そこでマンションに無料で設置し、広告主から対価を得る「広告メディア型」に転換した。

これまでの3例はサイネージの展開場所は異なるものの、広告効果を見える化し、単なる電子看板にならないよう、コンテンツの種類を豊富にしようとしている点で共通する。今後は、視認者のスマートフォンに詳細な広告やクーポンを配信するような、リアルとオンラインを融合させた手法も出てくるとみられている。

人出が戻りつつある今、ネットからリアルに広がるアフターコロナの広告競争は激しさを増していく。

(日経ビジネス 鷲尾龍一)

[日経ビジネス 2021年11月8日号の記事を再構成]

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