/

石油・ガス業界の効率化急げ 変革担う新興55社

CBINSIGHTS
石油・ガス業界でテック企業による変革が進んでいる。人工知能(AI)やセンサー、ロボットなどを使って鉱区から精製所に至る各段階で業務の効率化に取り組む。天然ガス不足などによるエネルギー価格の高騰を受け、この分野のサプライチェーン(供給網)の正常化・効率化は急務ともいえる。変革を担うスタートアップ55社をCBインサイツが選び、その役割や資金調達の状況を整理した。

石油・ガス業界は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)により特に大きな打撃を受け、多くの企業が業務の縮小や停止を余儀なくされた。

需要の増減や再生可能エネルギー源への長期的なシフトに対処するため、デジタルトランスフォーメーション(DX)や最先端のアナリティクス(分析)、自動化がこれまで以上に重要になっている。

日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

スタートアップはこうしたテクノロジーを活用し、石油・ガスのバリューチェーンのあらゆる段階を効率化する重要な役目を担っている。例えば、米エンベラス(Enverus)や米サービスマックス(ServiceMax)などのアナリティクス企業は地質のデータを高速処理し、最適な掘削地点や坑井の配置を選択できるようにする製品を開発している。米アップテイク(Uptake)は精製事業のインターネット接続を推進し、安全性を高め、予期せぬダウンタイム(システムや機械などが停止する時間)を減らす。

この業界は炭素集約度の高い探査・生産を減らすため、持続可能な燃料の開発にも取り組んでいる。米ランザテック(LanzaTech)や米モノリス(Monolith)などのテック企業は、排出された二酸化炭素(CO2)を新たな燃料源に転換しようとしている。

CBインサイツのデータに基づき、石油・ガスのバリューチェーンの各部門で技術革新に取り組むスタートアップを分類した。

ここで取り上げる石油・ガス会社は、「探査・生産(上流)」「輸送(中流)」「石油・ガス製品の精製(下流)」を手掛ける企業のほか、「持続可能な燃料を生産」する企業とした。電力企業・公益事業体は除外した。

この市場マップは未上場の存続企業のみを対象とし、この分野の企業を網羅するのが狙いではない。カテゴリーは重複している場合もあり、各社は主な用途に応じて分類されている。

カテゴリーの内訳

<上流の探査>
探査・生産(E&P)企業は鉱業権を取得し、鉱区を探査する。

水圧破砕法(フラッキング)を使って硬い岩石層のシェールオイルを採掘できるようになったことで、採掘可能な陸上埋蔵量は大幅に増えた。このため、特に北米で陸上の坑井を評価する技術の需要が高まっている。原油安により海洋資源の探査は魅力的ではなくなったが、各社は陸上向けの新技術には引き続き関心を示している。

ここでは上流の探査分野におけるスタートアップの2つのカテゴリー「アナリティクス」「イメージング」を取り上げる。

アナリティクス
この分野のスタートアップは埋蔵場所の規模、採掘の可否、化学的特徴や地質の特徴について分析する。

エンベラスはこの分野で最も調達総額が多い企業の一つだ。公表ベース(以下同)の調達総額は2億1800万ドルで、米インサイト・パートナーズや米バッテリー・ベンチャーズなどから出資を受けている。エンベラスはAIとアナリティクスを活用して探査データを解析し、掘削地点や坑井の間隔に改善をもたらす。

米ランタイトル(RunTitle)は鉱区の権益所有者のデータベースを提供する。顧客は同社のプラットフォームを活用し、石油・ガス資産や地下の不動産の登記を分析できる。

イメージング
この分野の企業はイメージング技術を提供している。例えば、米ワイヤレス・サイズミック(Wireless Seismic)は無線技術を使った地震探査データ取得システムを開発している。同社は仏石油大手トタルのベンチャー投資部門などから8300万ドルを調達している。
<上流の生産>
埋蔵場所が特定されると、インフラを整備した上で生産を開始する。この段階には生産量を増やし、坑井の寿命を延ばす多くの機会がある。

生産業者はこの分野に(ネットに接続された)コネクテッドデバイスやアナリティクス、テクノロジーにより原油の回収率を上げる技術を導入し、効率化を進めて利益率を引き上げようとしている。この分野で入手できるデータ量はここ数年で急増している。例えば米調査会社マンハッタン・インスティテュートによると、頁岩(シェール)を1フィート(約30.48センチメートル)掘削するごとに1メガバイト(MB、メガは100万)のデータが生成される。

ここでは生産を「業務改善」「回収率の向上」の2つのカテゴリーに分けた。各カテゴリーはさらにサブカテゴリーに分かれる。

業務改善
産業用IoT(IIoT):生産設備をネットでつなぐデバイスを提供する企業。米ウェルアウェア(WellAware)は生産設備からのデータを捉えるデバイスを展開する。データはモバイルアプリを通じて配信され、ユーザーは生産量を最適化し、予期せぬダウンタイムを減らすことができる。同社は米アクティバント・キャピタル、メキシコの実業家カルロス・スリム氏、ディック・チェイニー元米副大統領などから計7500万ドルを調達している。

アナリティクス:コネクテッドデバイスにより生産環境のデータが多く手に入るようになり、綿密な分析が可能になっている。米カリフォルニア州に拠点を置くスパークコグニション(SparkCognition)は様々なデバイスから集めたデータを統合し、分析するプラットフォームを運営する。これにより事業者は機器の故障を予知し、健康や安全性のリスクを評価できる。

機械:石油・ガスの生産を改善する機械を製造する企業。ハードウエアシステム、特にロボットは坑井での業務を改善する。英ロボップ(Rovop)、米スクエアロボット(Square Robot)、米サルコス・ロボティクス(Sarcos Robotics)は遠隔操作での点検や保守管理を手掛ける。

□回収率の向上
物質(薬剤):原油の回収率を上げるために使う物質を生産する企業。米ローカス・バイオエナジー・ソリューションズ(Locus Bio-Energy Solutions)は回収率を向上させる生分解可能な化学物質の開発に取り組んでいる。

機械:回収率の向上に使う機械を製造する企業。主なプロセスの一つは油層に圧力をかけて原油を地表にくみ上げる人工採油だ。例えば、米リーチ・プロダクト・ソリューションズ(Reach Product Solutions)はポンプに多相コンプレッサーを搭載している。同社は米シェブロン・テクノロジー・ベンチャーズなどから出資を受けている。
<中流>
中流部門では原油やガスを精製所に輸送する。この分野のスタートアップは主にパイプラインからの石油・ガスの流出やメンテナンスの状態を監視している。コロナ禍に伴うソーシャルディスタンス指針により、ここ1年でセンサーやドローン(小型無人機)などのデバイスを使ってパイプラインを遠隔監視するオプションの利用が増えている。

センサーによる監視
化学成分や圧力、音の変化を検知するため、パイプラインに取り付けるセンサーを開発している企業。米カービック(Carbic、旧フローコマンド)はパイプライン向けに無線の音響センサーを製造している。

空からの監視
空からの監視により石油・ガスの漏れやメンテナンスの必要性を検知する企業。数社がドローンを使ったパイプラインの監視を手掛けている。カナダのオンタリオ州に拠点を置くスカイX(SkyX)はパイプラインと送電線の機能を維持するため、パイプラインの上空にドローンを飛ばしてデータを収集し、分析する。
<下流>
下流部門では、精製所で原油などの炭化水素を燃料や石油化学製品などの完成品に加工する。精製所は非常に複雑な施設で、コネクテッドデバイスやアナリティクスによって性能を高める様々な機会がある。このため、下流の業務も利益率上昇に向けた効率化の対象になっている。

この分野のスタートアップを「業務改善」と「精製」の2つのカテゴリーに分けた。

業務改善
産業用IoT:事業者は精製所でコネクテッドデバイスを使うことで、安全性の向上や予期せぬダウンタイムの減少、業績の改善につながる判断を下せるようになる。米フルチュラ(Flutura)は精製業務のIoT化を手掛けるスタートアップだ。精製資産をネットに接続し、機器の故障を予知するプラットフォームを開発している。

アナリティクス:多数のセンサーとコネクテッドデバイスによって生成される産業用データが手に入るようになったことで、石油・ガス業界のアナリティクスに新たな機会が生じている。

例えば、米シーク(Seeq)は事業会社による機械データの分類や分析を支援する。同社はシェブロン・テクノロジー・ベンチャーズ、米ネクスト47、サウジアラビアのサウジアラムコ・エナジー・ベンチャーズなどから多額の資金を調達している。石化分野では予知保全の分析、製品の品質を予測するための上流の状況の分析、バッチのトラッキングなどの機能を提供する。

精製
センサー:精製プロセスで使うセンサーを提供する企業。米VUVアナリティクス(VUV Analytics)は品質管理を支援するスタートアップで、ガソリンなどの石化製品の炭化水素の構成を測定するセンサーを手掛ける。

プロセス:石化製品の生産プロセスを開発する企業。カナダのイムテックス・メンブレーンズ(Imtex Membranes)はガス分離技術「Permylene」を開発した。この技術ではパラフィンと、多くのポリマーやプラスチックの出発物質であるオレフィンを分離する。

物質:精製プロセスを支援する物質を開発する企業。米リキグライド(LiquiGlide)は粘性液体を動きやすくする特殊なコーティングを手掛ける。
<持続可能な燃料>
持続可能な燃料の分野には、バイオマス(化石燃料を除く生物資源)やCO2回収によって水素や新たな合成燃料「e-fuel(イーフューエル)」「e-diesel(イーディーゼル)」を製造する企業が含まれる。各国政府は気候変動問題への対処やCO2排出量削減目標の策定、従来の石油・ガス生産の規制に取り組んでおり、この分野は伸びている。

例えば、ランザテックはバクテリアを使って排ガスを新たな製品や燃料に転換し、CO2をリサイクルしようとしている。同社は米コースラ・ベンチャーズ、ネクスト47、ソフトバンク・チャイナ・ベンチャーキャピタルなどから計3億8400万ドルを調達している。

米シルリア・テクノロジーズ(現在は米ラマス・テクノロジーの傘下企業)は触媒プロセスにより、ナノ材料を使って天然ガスをドロップイン燃料(そのまますぐに利用できる燃料)に転換し、原油を使わずに済むようにする。同社は米クライナー・パーキンス・コーフィールド&バイヤーズ(KPCB)、サウジアラムコ・エナジー・ベンチャーズ、米バルカン・キャピタルなどから出資を受けている。

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

関連企業・業界

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン