/

武田薬品、グローバルワクチン企業に一歩前進

日経ビジネス電子版

新型コロナウイルス感染症向けワクチンは、米政府によるワープスピード作戦などのおかげでパンデミック(世界的大流行)の発生からわずか1年で実用化されたが、ワクチンの開発には通常なら10年近い歳月がかかるともいわれている。実際、武田薬品工業が開発してきたデング熱ワクチン「TAK-003」は約10年の開発期間を経て、ようやくグローバルワクチンとしての実用化が見えてきた。

「10年以上にわたる研究開発の集大成だ」。武田薬品工業の研究開発部門トップであるアンディー・プランプ・リサーチ&デベロップメントプレジデントは10月27日の決算説明会で、TAK-003が欧州で承認される可能性が高まったことに対して、感慨深げにこう口にした。

TAK-003は10月14日、欧州連合(EU)の規制当局である欧州医薬品庁(EMA)の下部組織である欧州医薬品評価委員会(CHMP)から、EUとEU-M4allという制度に参加しているデング熱の流行国で、4歳以上を対象に承認を推奨することに肯定的見解を得た。既存のデング熱ワクチンは、デング熱に感染した経験がある人でなければ使えないが、TAK-003は感染経験の有無に関係なく利用できるワクチンになりそうだ。

デング熱は、熱帯・亜熱帯気候の都市部などに生息するネッタイシマカ、ヒトスジシマカと呼ばれる蚊が媒介するウイルス性の感染症だ。原因となるデングウイルスには4つのタイプ(血清型)があり、感染するとそのタイプのウイルスに対する免疫は生涯続くが、それ以外のタイプには免疫が効かないので、4回感染する可能性がある。感染しても80%以上は症状がでない無症候性で済むが、インフルエンザのような症状を起こすことがあり、まれに重症化してデング出血熱と呼ばれる症状を起こし、死亡する場合もある。

デング熱は現在、世界で3億9000万人が感染していると推定され、そのうち9600万人が何らかの症状を有しているとされる。世界的な発生率は急増しており、世界保健機関(WHO)は世界人口の約半分が危険にさらされていると、その拡大に警鐘を鳴らしている。WHOは、2019年のグローバルヘルスに対する10の脅威の1つにデング熱を挙げた。

特にやっかいなのは、一度感染して体内にできた抗体が、次に別のタイプのデングウイルスに感染したときに重症化させる要因になることだ。この現象は抗体依存性感染増強(ADE)と呼ばれる。既存のデング熱ワクチンが感染経験のある人にしか使えないのは、感染経験がない子どもがワクチンの接種を受けた後にデングウイルスに感染して重症化する例が相次いだからだ。

武田薬品のTAK-003は、4つある全てのタイプのデングウイルスに有効な「4価ワクチン」だ。このため、接種をすると全てのデングウイルスに対する免疫を獲得でき、感染経験の有無に関係なく使うことができる。現在承認されているワクチンは、接種前に検査で抗体の有無を調べる必要があるが、TAK-003は検査なしで誰でも利用できるようになりそうだ。

CHMPの肯定的な見解を受けて、EUでは数カ月以内に承認される可能性がある。EU-M4allは、EMAがWHOと協力して、EU以外の市場向けのワクチン・医薬品に科学的意見を提供する制度で、EU域外の各国の規制当局に承認申請する際に意見を利用できる。これまでに90の非EU加盟国がEU-M4allの手続きで評価された医薬品を承認している。

インドネシアでは23年に発売見込み

TAK-003は既に22年8月にインドネシアで6歳から45歳を対象に承認され、23年初頭の発売を見込んでいる。また、中南米やアジアの幾つかの流行国でも審査が行われており、米国でも22年度中に申請する予定だ。クリストフ・ウェバー社長兼最高経営責任者(CEO)やプランプ氏が武田薬品に来る前の12年1月にワクチンビジネス部(当時)を立ち上げ、グローバルワクチンメーカーを目指してきた取り組みが、ようやく花開こうとしている。

「なぜ開発に10年もの時間がかかったのか」。ウェバーCEOは27日の説明会でこの問いに対して、デングウイルスが4つのタイプから成る複雑なウイルスで、感染後に重症化する例があるという難しい感染症であることに加えて、4年半の時間をかけて臨床試験を行ったことを挙げた。「開発期間の半分は、長期の安全性と有効性のデータを得るために試験を行っていたということを理解してほしい」。

その臨床試験で得られたのは、感染経験の有無にかかわらず、デング熱による入院の84%、デング熱症状の61%を予防したというデータだ。グローバルに普及するまでにどれだけの時間がかかるかは不明だが、同社はTAK-003のピーク時売上高が7億~16億ドルになるとの見通しを示している。

武田薬品の業績は目下好調だ。主力の潰瘍性大腸炎・クローン病治療薬の「エンタイビオ」などが順調に売上収益を伸ばしており、22年度の通期業績予想を上方修正した。エンタイビオの売上収益は22年度、7210億円(54億ドル)に達する見通しだ。炎症性腸疾患(IBD)に対する生物学的製剤の市場が拡大を続けていることに加え、その中でエンタイビオのシェアが依然として拡大傾向にあること、皮下投与製剤を米国で23年度に申請予定であること、米国における特許満了が32年の予定であることなどから、エンタイビオのピーク時売上収益想定を、従来の55億~65億ドルから、75億~90億ドルに引き上げた。業界では年間売上収益が10億ドルを超える医薬品をブロックバスターと称するが、売上収益1兆円超えのスーパーブロックバスター誕生も視野に入ってきた。

デング熱ワクチンは、そんな武田薬品の成長の新たなけん引役に加わることができるのだろうか。まずはEU、および申請済みの国々での承認取得動向に注目していきたい。

(日経ビジネス/日経バイオテク 橋本宗明)

[日経ビジネス電子版 2022年11月9日の記事を再構成]

日経ビジネス電子版

週刊経済誌「日経ビジネス」と「日経ビジネス電子版」の記事をスマートフォン、タブレット、パソコンでお読みいただけます。日経読者なら割引料金でご利用いただけます。

詳細・お申し込みはこちら
https://info.nikkei.com/nb/subscription-nk/

初割ですべての記事が読み放題
今なら2カ月無料!

日経ビジネス

企業経営・経済・社会の「今」を深掘りし、時代の一歩先を見通す「日経ビジネス電子版」より、厳選記事をピックアップしてお届けする。月曜日から金曜日まで平日の毎日配信。

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

関連企業・業界

セレクション

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン

権限不足のため、フォローできません