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デジタルと店舗融合で生き残り 米小売り技術の最先端

CBINSIGHTS
新型コロナウイルスの感染拡大でアパレルなど小売業界が苦戦を強いられる中、デジタル技術を活用し、EC(電子商取引)と実店舗をうまく連動させ、複数の接点を通じて顧客とより深い関係を築く「オムニチャネル化」が生き残りのカギとなっている。米国のターゲットやナイキ、オールバーズなどの成功事例を基に戦略を紹介する。

オンライン販売が急拡大し、デジタル体験が消費者の実店舗での行動を左右するようになっている。消費者はかつて実店舗で買い物するだけで満足していたが、今やオンラインとオフラインの両方でブランドとやり取りしたいと思っている。

日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

小売業者にとっては、あらゆる接点で消費者とつながる必要性からオムニチャネルの販売戦略をとっている。オムニチャネルでは買い物客は様々なチャネルをスムーズに移動しながら、一貫した体験を享受する。このマルチチャネルの体験を提供できない小売りは、機敏なライバルに後れをとることになる。

今回のリポートでは、オムニチャネル革命を推進するテクノロジーを取り上げ、スタートアップや既存企業がこの小売りのイノベーション(技術革新)の波にどうやって乗っているかに目を向ける。

オムニチャネルとは何か、なぜこれが今重要なのか

定義

オムニチャネルとは、いわゆるウインドーショッピングからフルフィルメント(受注、発注、梱包、配送、代金回収などの一連のサービス)まで、ネットとリアルのチャネルで一貫した買い物体験を提供することを重視した販売手法だ。

複数の接点を統合して付加価値を生み、シナジー効果を上げるという前提に基づいている。

典型的なオムニチャネル (出所:ショッピスタン)

オムニチャネルに画一的な戦略はなく、各社は自社のカテゴリーや顧客に応じて立てる。

例えば、ディスカウントストア大手の米ターゲットはいくつかのオムニチャネルの取り組みを展開し、特にECの受注配送に力を入れている。同社のネット通販「ターゲット・ドット・コム」では、顧客に宅配(当日配送、無料での2日以内の配送)か店舗での受け取り(店内、店舗前)の選択肢を提供している。さらに、オンラインでの注文を実店舗とEC配送センターを通じて受けることで、様々なチャネルの在庫を連携させている。

無料の会員プログラム「ターゲットサークル」もオムニチャネル機能により強化されている。会員はターゲットのアプリ、携帯番号、ネット通販のアカウント、会員カード「レッドカード」、レシートのスキャンによって、ネットでも実店舗でも特典を得たり割引を受けたりできる。

ターゲットはオムニチャネル戦略などが好調で2020年11~12月の既存店売上高が増えた

もう一つの例は手作りアクセサリーを販売する米プラヴィダ・ブレスレット(Pura Vida Bracelets)だ。同社はオムニチャネルを活用し、顧客がネットとリアルのチャネルをスムーズに行き来できるようにしている。同社のメールリストに登録している買い物客は、品切れ商品の再入荷のお知らせや特別セールの情報を受け取る。ウェブサイトを訪問した顧客も、キャンピングカー「エアストリーム」を使った期間限定の対面イベントに勧誘されるなどネット広告の対象になる。

さらに、SNS(交流サイト)のインフルエンサーと手を組み、プラヴィダのアクセサリーを無償提供して同社についてのメッセージを拡散してもらっている。

スポーツ用品大手の米ナイキのオムニチャネル戦略では、自社アプリや実店舗でのやり取りから収集したデータの知見を活用している。同社のアプリの利用者は2億5000万人に上る。ナイキはリアルタイムの顧客データからヨガをする人が増えていることに気付き、新たなヨガウエアを素早くデザインして生産した。この新商品はまさにオムニチャネル方式によりオンラインと店舗の両方で販売した。

企業によってオムニチャネル戦術は異なるが、顧客があるチャネルから他のチャネルにスムーズに移動できるようにするという目標は同じだ。顧客はこの体験を享受しながら、ブランドとさらに深くつながる。

▼なぜ今なのか?

ECの台頭や顧客の行動の変化、小売業界の激しい競争によりオムニチャネルの人気は高まっている。企業が決算発表で「小売り」に関連して「オムニチャネル」に言及した回数は2020年以降大幅に増えている。

英ソフトウエア会社ブライトパールと調査会社マルチチャネル・マーチャントによる研究結果 (出所:「オムニチャネルの現状」)

同時に、各社は売り上げを伸ばし、オムニチャネル戦略を実行に移すためのデジタルツールをかつてないほど持っている。オムニチャネルの重要性が増している理由の一部を以下に挙げる。

・デジタル機器が実店舗の売り上げを左右している。独調査会社スタティスタによると、22年には買い物の前や最中のデジタル端末の利用は実店舗の売り上げの58%に影響を及ぼすようになる。消費者は決済や会員カードの管理から、顧客サービス担当者とのやり取り、商品のイメージの確認に至るまで様々な形でモバイル端末を使っている。実店舗は依然最大の販売チャネルだが、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)に伴う巣ごもり消費でオンラインの売り上げは急増している。米国では20年の小売売上高に占めるECの割合は推定21.3%に上った。

動画の視聴も急拡大している。20年に動画コンテンツを視聴する時間が増えたと答えた消費者は約3分の2に上った。高速通信規格「5G」の対象エリアは拡大し続けているため、今後はデジタル端末で拡張現実(AR)など動画ベースのアプリをスムーズに実行できるようになる。5Gの台頭により、動画テクノロジーの技術革新が加速するだろう。

・消費者の関心は様々なチャネルに分散している。消費者はオムニチャネルのサービスを活用している。ある研究では、価格の安い商品を見つけたり、価格を比べたり、実店舗のタブレット端末を使ってオンラインで商品をチェックしたりするなど複数のチャネルを活用している買い物客は75%近くに上ることが明らかになった。さらに、ネットでも実店舗でも、オムニチャネルを活用している買い物客の方が1つのチャネルしか使わない顧客よりも購入額が多い。このため、オムニチャネル戦略を採用している小売りは年間売上高が多く、平均取引額の伸びが大きく、収益も高いのは驚きではない。

・消費者はオムニチャネルを求めている。ある研究では、ネットとリアル両方のチャネルを採用するブランドとのやり取りを好む消費者は85%以上に上ることが明らかになった。この傾向はあらゆる世代で一貫している。

・効果的なオムニチャネル体験という点では、小売りには成長の余地がある。オムニチャネル戦略が既にあるか、この技術への投資を計画している大手小売りは90%を超える。だが、オムニチャネルを使いこなせていると答えた企業はわずか8%だった。企業が円滑なオムニチャネル体験を提供しているとみなす消費者も1割にとどまった。

・多くの小売りには有効なオムニチャネル技術がない。小売りのほぼ半数には適切なオムニチャネル技術がないか、さらなる技術を活用する可能性がない。有効な技術がなければ、様々な販売チャネルを統合するのはさらに難しくなる。

オムニチャネルを可能にするテクノロジー

オムニチャネルで優れた顧客体験を実現できれば、顧客は至る所にいることになる。だが、複数の接点で買い物客に円滑なサービスを提供するのは至難の業だ。幸い、多くの新しいテクノロジーのおかげで店舗の開設やオーディエンス(利用者)との関係構築、顧客体験の向上、商品の配達は簡単になっている。

店舗の開設:ECとインフラ

優れたオムニチャネル体験の実現への道のりはデジタル店舗の開設から始まる。デジタル店舗はECインフラの不可欠な要素で、オンラインの買い物客へのサービス提供や、実店舗の売り上げ増加を支える。各社は事業の目標や好みに応じ、セルフサービスのプラットフォームや先進的なヘッドレスコマースシステム(多端末・多メディア時代に対応し、接客機能と決済処理・在庫管理などの機能を分離したECシステム)を使って店舗を開設できる。

セルフサービスのECプラットフォーム

ECプラットフォームはユーザーが自らオンライン店舗の開設や実店舗のデジタル化、販売、支払い処理、受注した商品の配送ができるようにするソフトウエアのエコシステム(生態系)だ。こうしたプラットフォームは小売事業の中核として機能し、オンラインとオフライン双方のチャネルで顧客と簡単に取引できるようにする。

カナダのショッピファイは最も知名度が高いECプラットフォームの一つだ。同社のプラットフォームを使えばオンラインビジネスを始めたり、事業をオンラインに移行したりできる。

ショッピファイは対面、ウェブサイト、ソーシャルメディア、仲介サイトでの販売を簡単に実施できる技術を開発している。同社のアプリストアには販売する商品や事業の目的に応じて店舗のカスタマイズを支援する4000以上のアプリがある。

他の知名度の高いECプラットフォームは、米ビッグコマース(BigCommerce)や米ソフト大手アドビに買収された米マジェント・コマース(Magento Commerce)などだ。

新興スニーカーブランドの米オールバーズ(Allbirds)はショッピファイのPOS(販売時点情報管理)システムを使い、20以上の店舗でオムニチャネル体験を提供している。各店舗では売り場のどこでも精算できるよう、店員が最大18台のモバイルのショッピファイPOSシステムを持っている。オンライン店舗での迅速な会計プロセスが実店舗でも再現されている。

オールバーズは店舗に投資する前からECでの販売に力を入れていた (出所:オールバーズ)

オールバーズは「店で注文し、自宅で受け取る」機能も提供している。従来は店舗にない商品を求める実店舗の顧客には、店員がPOSシステムを使って顧客にオンライン店舗のカートのリンクを送り、自分で精算してもらっていた。今では店員が取引を処理し、倉庫から顧客に直接商品を配送する。

オールバーズはより多くのデータを収集し、知見を得ることからも恩恵を受けている。同社のグローバル小売事業を統括するトラビス・ボイス氏は「当社は今や実店舗に足を運んだが目当ての品がなかった顧客の数も測定できる。これにより在庫判断に関する情報をさらに的確に伝えることができるようになった」と説明する。

オムニチャネル技術により、オールバーズの顧客はどのチャネルからでもさらにスムーズに買い物できるようになっている。

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