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「バイクのカワサキ」の電動三輪車 完売まで15時間

川崎重工が100台限定で販売した電動三輪車「noslisu(ノスリス)」
日経ビジネス電子版

わずか15時間で総額2950万円が集まり、計100台が完売となった。川崎重工業が5月12日にクラウドファンディングのサイトを通じて発売した電動三輪車「noslisu(ノスリス)」だ。

「正直ドキドキしていた。本当に売れるのか、誰が買うのか、どのように使われるのかなど、分からないことだらけだった」。こう振り返るのは、ノスリスの開発を担当した開発部の石井宏志プロジェクトリーダー。即日完売という結果に、「需要が予想以上に大きいと実感した。一般発売に向けて弾みとなる」と喜ぶ。

「バイクのKawasakiが提案する新しいスタイルの3輪電動ビークル」。こんなキャッチフレーズでクラウドファンディングサイト「Makuake(マクアケ)」で販売したノスリスは、前に車輪が2つ、後ろに車輪が1つある三輪車だ。自転車のようにこぐペダルを備え、こぐ力をモーターが補助する「電動アシストタイプ」と、モーターのみで動く「フル電動タイプ」がある。電動アシストタイプ50台が発売から12時間、フル電動タイプ50台が同15時間で完売した。

ノスリスの特徴は大きく3つある。スタンドなしでも倒れない自立性、最大20キログラムの荷物を載せられる大きな前かご、そしてハンドルを操作した際に安定して曲がれるように前方の2輪の軸をずらして車体を傾ける機構だ。傾ける機構はバイクの開発で培った技術を応用したという。フル電動型は普通自動車免許を持っていれば乗車可能で、電動アシスト型は免許不要。ヘルメット着用の義務もない。

価格はフル電動型が32万円(税込み)、電動アシスト型が27万円(同)。自転車の延長線上にあるような車両としては高価だが、それでも即座に売り切れた理由を石井氏は「他社製品とはまったく違う製品だと受け入れてもらえたのではないか」と分析する。石井氏が「三輪車ではなく『三輪ビークル』」と繰り返し強調することからも、既存の枠組みにない製品として認められたいという川崎重工の思いが浮かび上がる。

二輪の手軽さと四輪の安定のいいとこ取り

「近くに住む家族に会いに行くのに自転車も自動車も不便。手軽で安全な乗り物がほしい」。かつて石井氏は、60代くらいの男性がこう話しているのを耳にしたという。確かに二輪車には転倒の危険があり、安定する四輪車は大きく重たい。「小型で安定する乗り物」の需要を満たすには二輪と四輪のいいとこ取りができる三輪車がいいのではと考えたのがノスリス開発のきっかけだった。

最初に取り組んだのは三輪のバイクを小型化し、普通自動車免許で乗れるようにすることだった。試作車を消費者に見せると、「『Kawasakiらしくていいですね』とは言われるが、女性はほとんど試乗してくれなかった」(石井氏)。バイクでは女性に訴求できないと判断した開発チームは、より手軽に乗れるように自転車をベースにする方針に転換した。ターゲットとしたのは、免許取得や車体整備にかかるコストや手間などの理由で二輪車に乗らない層だ。

女性も手軽に乗れるように自転車をベースにした

2020年9月には川崎重工が始めた新規事業の社内公募制度の第1号案件として選定され、その後、一般向けの試乗会を複数回にわたって開催。約1年をかけて開発したノスリスを延べ300人ほどに試乗してもらうことで、「たくさん荷物を積めて、楽しく、安定して乗れるモビリティー」へのニーズがあるという手応えを得た。

第1弾の発売にクラウドファンディングを利用したのは、「新しい顧客に出会える」(石井氏)と考えたからだ。「通常の新商品開発の手続きに乗せると、どうしても既存の顧客に寄せた商品になってしまう」(同)との問題意識があった。ただし、結果的にマクアケでの購入者は男性が圧倒的に多く、年齢は30~50代が中心。二輪車に近い顧客層だったという。川崎重工は今回の購入者の主な用途や誰が実際に乗るのかなどを調査し、22年の一般発売に向けた開発やマーケティングに生かしていく考えだ。

ニーズがあるのは個人だけではない。「観光地でノスリスをシェアリングサービスに使う話が既に進んでいる。コロナ禍で発表の時期こそ延びているが、気軽に乗れてたくさん荷物を載せられるノスリスを要望する声は多い」(石井氏)という。

「夢は三輪で世界制覇」。抱負をこう語る石井氏は、ノスリスの強みについて「体を少し傾けるだけできれいに曲がれる、手を添えているだけで真っすぐ進むといった癖のない走りは、長年のバイク開発で培った技術が貢献している」と話す。「脱炭素」の波があらゆる産業に押し寄せる中、環境負荷が小さい乗り物としてさらに注目される可能性もありそうだ。これまで活躍の場としてきたバイクとは異なる市場で、川崎重工が新たなチャンスを見いだしている。

(日経ビジネス 藤原明穂)

[日経ビジネス電子版 2021年6月9日の記事を再構成]

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