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白さを求めない漂白 老舗工場が常識変える技術で勝負

日経ビジネス電子版

木綿や麻の布地を生産するための一工程である「晒し(さらし)」。糸や生地の不純物を取り除き、染色しやすいように白く漂白するのがさらしの役割だ。

織られたばかりの生地には、綿糸に元から付着している油分や、織物を織る工程で糸が切れないようにつけられたのりなど不純物が付いている。このままでは水をはじいて吸水しないため、薬剤に漬け込んで不純物を取り除く。

1911年に創業した堺市の武田晒工場は、古くからさらしを請け負ってきた町工場だ。従来は生産の一工程を担う存在だったが、自ら製品開発、販売に乗り出し、成長を遂げている。

きっかけは2007年に開発した「Eco晒」。さらしの工程で使用する薬剤や水の量をできる限り減らし、環境に優しい製法を編み出した。業界では、白さを追求する漂白が当たり前。そんな中、あえて白さを求めない道を選んだ。

武田清孝社長が家業に携わるようになったのは1989年のこと。3代目だった父親が体調を崩したため、急きょ実家に戻ることになったのだ。

もともと、シャープで電子回路設計のエンジニアをしていた武田社長。次男の自分が後を継ぐことはないと思っていたため、さらしの知識はゼロだった。工場には職人気質のベテランも多く、当時35歳の武田社長が一番の若手。毎日現場に顔を出し、作業を一から学んでいった。

発想の転換で「白くないさらし」を

まず驚いたのが、すべてが手作業のアナログな現場だ。手元の時計で時間を見ながら、目分量で水や薬剤を入れていた。それぞれの職人の勘やコツに頼っていたため、さらしの仕上がりにもムラができていた。品質に対する意識も薄く、要求しても「これしかできひん」と突き返されることもあった。

そこで前職の知識を生かし、工程をプログラム化し、コンピューターを組み込んだ機械を導入しようと決めた。日本独自の「和晒」という手法では、大きな釜に布を詰め、2日ほど薬剤に浸す。なぜこの薬剤を入れるのか。どういう仕組みで漂白されるのか。300年以上続く伝統的な手法で参考になる書籍が少ないため、江戸時代の文献を求め、週末には図書館へ通い詰めた。そして92年に全自動釜が完成。品質を安定させることに成功した。

次に頭を悩ませたのが排水の問題だった。硫酸や次亜塩素酸ソーダなど、強い薬剤を使うため、水処理をして排水する必要がある。使用する水の量も多いため、もっと負荷の低いさらしの方法はないかと考え始めた。ただし、単純に薬剤を減らすだけでは、ムラや汚れ残りが出てしまう。薬剤や水を削減できるギリギリの割合を追求して、配合を微調整する日々が続いた。

2年間の試行錯誤の末、完成したのが「Eco晒」だ。薬剤の量は60%削減。使用水量も通常の工程に比べて約半分に抑えた。白が正義という業界の価値観から離れ、完璧に白くない代わりに、環境へのやさしさを突き詰めた。

蛍光塗料で染められた真っ白な生地と見比べるとややベージュがかった色合いだ。だが、染色に適した「無蛍光」と呼ばれる生地と並べても、差はほとんど分からない。そのため、日本手ぬぐいなどの用途でよく使用されるという。取引先からも「環境に優しいさらしはないか」と声がかかり、現在では、売上高の2割を占めるまでになった。

生き残りをかけメーカーへ転身

全自動釜に、白くないEco晒。新たなアイデアを次々と実現してきた武田社長だが、業界そのものの縮小にはあらがえない。布おしめや綿の寝間着が当たり前だった昭和の最盛期には、堺にも40軒ほどの晒工場があった。ところが、需要の減少や安価な中国製の登場により市場は急激に縮小。現在残っているのは、わずか7軒だ。

さらしはあくまでも生産加工の一工程で、得意先からの受注がなければ生き残れない。「新しい需要を自ら開拓しなければ」との思いで、取り組み始めたのが自社製品開発だ。

薬剤を減らし、さらし過ぎないEco晒は、肌触りも柔らかいという特徴がある。そこで2014年、初めての市販製品となる乳児の肌着「天使のころも」を発売した。製品の売れ行きは思うようにはいかなかったが、自社ブランドをつくる自信がついた。

さらに、長年加工の依頼を受けていた発注元が事業をやめるという話を聞き、生地を製造する事業を買収。下請けからメーカーへと転身した。

20年2月に発売したのが、ミシン目の入った「和晒ロール」だ。キッチンペーパーのように布を切り取り、こし布や布巾として日常で使うことができる。

これが、コロナ禍のステイホームで、家事や料理の機会が増えた時世にピタリとはまった。良品計画傘下のIDEE(イデー)など、インテリアショップを中心に1万本近く売り上げるヒット商品となった。社長に就任した1996年に1億5000万円ほどだった売上高も、2020年には5億3000万円を超えるまでに成長した。

21年に68歳となる武田社長は、数年後には5代目への事業継承も見据える。「伝統への思いを持ちながら、どんどんチャレンジする会社でありたい」(武田社長)。創業110年を迎えた老舗企業は、常識を変える挑戦を今後も続けていく。

(日経ビジネス 橋本真実)

[日経ビジネス 2021年5月10日号の記事を再構成]

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