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ESG評価、AIでより客観的に 衛星画像など解析

CBINSIGHTS
企業のESG(環境・社会・企業統治)の取り組み状況を示す「ESGスコア」の算出方法を巡り、精度を高める取り組みが活発になっている。これまで算出に主に使われてきた開示情報だけでなく、衛星画像やSNS(交流サイト)などの「オルタナティブ(代替)データ」を人工知能(AI)を使って解析する。企業の自己申告データに依存しているスコアの客観性・透明性の向上が期待できるほか、調査にかかる時間や資源も節約できる。
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

社会や環境に対する消費者の意識が高まるなか、企業や投資家はこうした状況下で競争力を維持するために対応を迫られている。資産運用担当者や格付け会社、リスク評価チームは企業が地球規模の問題をどうかじ取りしているかをモニタリングするため、ESGスコアに目を向けている。

ESGスコアでは「環境(E)」「社会(S)」「ガバナンス(企業統治、G)」の問題に関する企業の評判やインパクト(影響度)に基づいて、その企業をランク付けする。投資家はこうした基準を活用することで、気候リスクに備える体制が整っている企業を選び、不祥事や社会の反発に伴う株価の暴落を避け、市場平均を上回る運用成績を上げられるかもしれない。

決算会見で「ESG」への言及数が急増している (2016年4月~21年6月の四半期ごとの数)

もっとも、ESGスコアは正確とは限らない。企業の環境や社会への影響は財務諸表や米証券取引委員会(SEC)への提出資料など従来のデータでは測れず、ESGスコアは各社が自己申告するデータに大きく依存しているからだ。

そこで、評価会社はAIを使って代替データセットを入手して分析し、スコアの質を上げるとともに時間と資源を節約している。例えば、一部の企業は映像解析技術を活用し、広範なサプライチェーン(供給網)による森林破壊の事例を監視している。一方、資産運用会社は自然言語処理(NLP)を使ってSNSへの書き込みを構文解析し、企業のダイバーシティー(多様性)指針へのセンチメント(好感度)を評価できる。

代替データとAIによって企業がESGスコア算出に定量化できる証拠を導入し、ブランド戦略を改善できているかに加え、気候変動対策に熱心なふりをする「グリーンウオッシング」に投資家が惑わされず、より客観的にリスクを評価できるようになっているかについて分析する。

ESGスコアとは

ESGスコアでは3つのカテゴリーについて考慮している。

・環境スコア:企業のエネルギー利用や廃棄物の処理方法、汚染レベルなど、環境へのインパクトを分析する。

・社会スコア:企業が顧客や従業員、事業を営む地域のコミュニティーなどにどれほど関与しているかを示す。地元のイベントへの貢献から健康や安全に関する法規制の順守、顧客のプライバシー管理などがある。

・ガバナンススコア:企業がどのように運営・管理されているかを調べる。株主の権限や企業のリーダーシップ、内部監査や法令順守など。

ESGスコアは主に資産運用担当者や格付け会社、調査機関など株式や証券などを購入する機関投資家のチームや組織が、ポートフォリオの管理や顧客への助言のために算出する。

決まった算出方法はなく、業界によって異なる。例えば、ある資源会社の有害廃棄物の管理基準は銀行と同じではない。

スコアは算出組織によっても変わる。米指数算出会社MSCIは「CCC」から「AAA」までの等級でランク付けしているのに対し、英調査会社リフィニティブは0~100点の点数を付ける。

(出所:米ニューヨークライフ・インベストメンツとカナダのビジュアルキャピタリスト)

各社は自社の算出システムをできるだけ包括的にしようとAIに着目しつつある。例えば、米JPモルガン・アセット・マネジメントと仏アクサ・インベストメント・マネージャーズはともに自社のESGスコア算出にNLPを試験導入している。

データ提供各社も独自のESG機能を構築している。例えば、米金融情報大手ファクトセットは2020年、AIを使ってESG分析を手掛けるスタートアップ、米トゥルーバリュー・ラボ(Truvalue Labs)を買収した。ファクトセットのフィル・スノー最高経営責任者(CEO)は「貴重な最先端のESGシグナルに対する顧客の需要」が旺盛な点を買収の理由に挙げた。

数字の裏付けがない情報をどうやって定量的データに置き換えるか

AIを使ってESG目標に関連した情報を開示することで、企業は厳しさを増すメディアや投資家の視線に対処し、消費者の信頼を高め、経済や環境に関連したサプライチェーンの寸断に備えることができる。

米ハワイアン・エレクトリック・インダストリーズの気候リスクと災害対策

ESGスコア算出でのAIの活用方法の一つは、企業の気候リスクを測定するために異なる種類のデータをまとめて分析することだ。この気候リスクのデータは企業が様々な気象現象でどんな影響を受けるかを予測するために使われる。これにより企業は将来に備え、投資家と消費者の信頼を高めることができる。

気候リスクは企業のサステナビリティー(持続可能性)報告書に盛り込まれるようになっている。

米ハワイアン・エレクトリック・インダストリーズ(HE)は19年10~12月期の決算発表で、SASB(米サステナビリティ会計基準審議会)に準拠したサステナビリティー報告書を初めて発表する目標を掲げた。

そのためには、気候リスクを定量化する必要がある。事業の地理的分布や天候、自然災害、海水面などの非伝統的なデータセットにリアルタイムでアクセスしなくてはならない。

そこで、HEは米ジュピター・インテリジェンス(Jupiter Intelligence)と提携した。ジュピターは機械学習を使って環境データを分析し、将来の気候変動や異常気象が企業の資産にどんな影響を及ぼすかを予測する。ジュピターは近くのビルの高さや密集度、企業の海までの距離など膨大なデータセットを活用している。

(出所:ジュピター・インテリジェンス)

ジュピターはHEとの提携で、世界の環境データを活用して地球の気候をシミュレーションし、50年に洪水が発生した場合にホノルルにあるHEの資産にどんな影響が及ぶかを1メートル四方の精度で予測した。

英ユニリーバ、環境基準を満たすためサプライチェーンを監視

ESGスコアの算出では企業のサプライヤーやベンダーなどパートナー企業についても考慮する。AIを使えば企業の広範なサプライチェーンを地図に示し、サプライヤーやパートナーに環境基準を確実に守らせることができる。

定性的な情報や自主申告の調査データに頼るのではなく地理空間分析を活用することで、企業はこの取り組みを定量化できる。

一例は食品・日用品大手の英ユニリーバによるパーム油の広範なサプライチェーンの監視だ。同社にはサプライチェーンを追跡し、提携農園に環境基準を守らせ、森林破壊に関与させないようにする有効な手段がなかった。

そこでこの問題を解決するため、地理空間分析スタートアップの米オービタル・インサイト(Orbital Insight)と提携し、自社のパーム油サプライチェーンを地図に示した。まずは直接取引する1次サプライヤーから始め、2次サプライヤーに拡大した。この手法は多層(n層)サプライチェーンの可視化と呼ばれる。

(出所:ユニリーバ)

オービタル・インサイトはまず、ユニリーバの外部搾油工場で働く労働者の携帯電話の匿名化されたデータを追跡し、供給農園からのモノの動きを地図に表す。農園をいったん特定すれば、衛星画像分析とレーダー探知を使ってその農園で森林破壊や森林火災などが起きていないかをモニタリングする。

オービタル・インサイトはこのプロセスを繰り返してユニリーバの広範なサプライチェーンを把握し、ある農園から他の農園や搾油工場、港などへの移動データを地図に示し、サプライヤーが環境基準を守っていない場合にはユニリーバに通知する。

地理空間AIを活用すれば地球上の特定の産業プラントの二酸化窒素の水準を正確に示したり、ESGサステナビリティー目標の進展を把握するために風力発電や太陽光発電の設置状況を追跡したりすることも可能になる。

リスク評価のリーダーはどうやって企業を評価しているのか

格付け会社などのリスク評価機関や資産運用担当者、投資家は意思決定プロセスにさらに透明性と正確さをもたらすため、AIを使って膨大な代替データを効率的に分析している。

ESGスコアの算出は企業の評判や影響力に関心がある投資家や消費者にとって重要になりつつある。企業は評価プロセスを理解することで、綿密なESG戦略を立てやすくなる。

米データブリックス、自然言語処理で企業や政府の発表、ニュースを検索

ESGスコア算出でのAIの現時点での活用法の一つは自然言語処理(NLP)だ。NLPを使えばニュースやテレビ放送、SNS、政府の報告書などの非構造化データから企業の情報を抽出できる。

リスク評価機関は企業が労働法違反で政府から制裁金を科されたことを発見したり、ツイッターでデータプライバシー慣行への批判を見つけたりするなど、その企業のより完全なESGプロファイルを得るためにNLPを活用している。

米S&Pグローバルは21年3月、SNSなどの非構造化データから重要な意見を抽出してESGスコアの精度を高めるため、データ分析スタートアップの米データブリックス(Databricks)と提携した。データブリックスは提携の1年近く前に、NLPを活用したESGスコア評価プラットフォーム「統合データ分析プラットフォーム」を発表している。

S&Pグローバルのアーキテクチャー部門バイスプレジデント、マーク・アバロン氏は「データブリックスとの提携によりAIを使って非構造化データの構文を解析し、無数の要素や企業がESGに反する活動をしていないかを評価できるようになる。長い時間をかけて収集したデータに基づいているため、信頼性が高く、標準化されたスコアを算出できる」と説明している。

データブリックスのプラットフォームでは、NLPを活用して企業の「開示」ESGスコアと「認識」ESGスコアを比較する。開示スコアでは、企業が作成した年次報告書からESG目標とその進展に関する文章を細かく調べて取り出す。認識スコアでは、米グーグルが支援する100カ国語以上のテレビや新聞、ウェブサイトのニュースのデータ収集プロジェクト「GDELT」での企業に関する金融ニュース関連記事のセンチメントを分析する。

例えば、石油流出に関する記事は企業の認識ESGスコアにマイナスの影響を及ぼす。一方、発展途上国での女性経営者の資金調達のニーズについての記事は認識ESGスコアを上昇させる。

(出所:データブリックス)

企業のESGスコアは取引企業のスコアにも影響される。そのため、データブリックスはニュース記事でどれほど一緒に言及されているかに基づき、スコア算出の対象企業とつながりがある企業を見つけ出す。

メディアのモニタリングはサプライチェーンのリスク分析における人気のAI活用法になりつつある。このテクノロジーに投資することで、企業は投資家や市場の変動、広範なサプライチェーンの運営で優位な立場を維持できる。

米ムーディーズ、気候リスク評価機能を強化

米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは21年3月、気候関連プロダクト「クライメート・ソリューションズ」に傘下の米フォー・トゥエンティー・セブン(Four Twenty Seven、427)と仏ビジオアイリス(Vigeo Eiris、VE)を統合した。

パリに拠点を置くVEは19年4月、ムーディーズに買収された。VEは非公開のデータベースに基づいた独自のESG調査・スコア算定指針を開発し、250万の企業施設の気候リスク評価を提供しているほか、上場・非上場企業に要望に応じて気候リスクを算出している。同社はESGスコア算出に使われるデータや算出方法を公表していないが、米ニューヨーク大学スターン・スクールの研究ではコンピューターアルゴリズムとアナリスト評価を組み合わせていることが明らかにされている。

ムーディーズはVE買収のわずか3カ月後に、427の過半数の株式を取得した。427はAIと代替データを活用し、企業のサステナビリティー報告書の抜粋や気候変動の影響を最も受けそうな地形の予測などの気候リスクを分析している。

(出所:427)

例えば、427は20年末、各国の気候リスクに関するリポートを発表した。人口の水準や経済活動(国内総生産=GDP)など従来のデータと、過去の自然災害や気温、海水面の上昇などの気候情報を組み合わせ、様々な場所の気候リスクを測定するデータセットを作成した。

米運用大手ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントは21年3月、427と提携した。427のデータセットを活用し、投資リスクの評価の質を高める。

金融サービス各社、中国の妙盈科技の地理空間AIでスコア算出

中国の妙盈科技(ミオテック)は衛星画像とニュースでの言及やSNSなどの代替データソースを組み合わせ、投資家や資産運用担当者向けに企業プロファイルを作成している。

同社は19年、ESGサービスの開始から4カ月弱でAIプラットフォームの売上高の3分の1近くをESG関連事業が占めていることを明らかにした。同社はそれ以降、事業の軸足をほぼ完全にESGに移している。衛星画像やSNS、規制当局への提出書類など50以上の代替データソースから重要なシグナルを抜き出し、顧客が正確なスコアを算出できるようにしているという。

(出所:ミオテック)

AIを使ったESGスコア算出方法を導入したいと考えている金融サービス各社は、ミオテックに関心を示している。

ムーディーズは20年11月、ミオテックのシリーズBの資金調達ラウンドに参加した。その2カ月後には英金融大手HSBCがミオテックのシリーズCを主導し、関係強化に関心を示した。HSBCは50年までに温暖化ガス排出量を実質ゼロにする目標を掲げ、グリーン資金調達に最大1兆ドルを投融資する方針を示している。この投資はこうした目標に戦略的に合致している。

今後の見通し

現時点では、情報の偏りとデータ不足のせいでESGスコアは正確とは限らない。

AIと代替データセットはESGスコアの一定の構成要素に透明性をもたらしつつあるが、産業界全体の企業に対応した包括的で標準化されたESGスコア算出システムが開発されるのはかなり先になりそうだ。

それでも、代替データとAI技術の利用が増えているため、企業は社会や環境のリスクを監視し、綿密なサステナビリティー戦略を立てられるようになるだろう。

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