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セクハラ・天下り… 物言う株主、今年の総会の照準は

日経ビジネス電子版

これからシーズンが始まる今年の株主総会は荒れそうだ。大和総研の集計によると、6月開催の株主総会における株主提案数は68社(6月1日時点)と昨年の48社を大きく上回り、過去最高となる見通しだ。

そのうち、物言う株主(アクティビスト)の提案は17社から34社に増えた。昨年までは、新型コロナウイルス禍という未曽有の事態にアクティビストも動きを抑制させていたが、満を持して動き出した。自社株買いや社外取締役の増員といった従来型の要求にとどまらず、出資先への独自調査を伴ったソーシャル(Social)な提案が目立っている。

代表例が、ある業界最大手企業の上場子会社を対象とした要求だ。

元従業員にハラスメントの実態聞き取り

日鉄ソリューションズ日本製鉄は親子上場の関係にあり、一般株主に対する最大限の配慮が実現されていない」

英投資ファンドのアセット・バリュー・インベスターズ(AVI)はシステム開発の日鉄ソリューションズに厳しい言葉を投げかけている。同社は、親会社の日本製鉄と共に上場しており、いわゆる「親子上場」の状態にある。

親子上場は、株式の過半数を握る親会社の支配力が強く、少数株主の権利が軽視されがちだとして、海外投資家の評判が悪い。AVIは親会社の影響力を薄めるために、日鉄ソリューションズに対し日本製鉄から自社株を買い取るように求めている。

ここまでならそれほど珍しくない提案だが、異例なのはAVIがセクシュアルハラスメント、パワーハラスメントなどについての特別調査委員会の設置も求めている点だ。

AVIは企業の働き方や待遇などに関する口コミサイト「オープンワーク」などのインターネット情報を2007~21年の15年分にわたって調べ、日鉄ソリューションズにおけるセクハラ・パワハラに関する情報を抽出。17年にセクハラで休職した契約社員が起こした訴訟記録も閲覧し、さらには、元従業員9人へのオンラインインタビューを計16回、760分にわたって実施した。

プライバシーなどへの配慮からすべてを公開していないが、セクハラやパワハラの被害を受けたり、目撃したりしたという証言が得られたと主張。「報復が怖かった」「業務過多で判断力が鈍っていた」という元従業員の証言の一部を記載した。日鉄ソリューションズの女性の離職率が16年の1.7%から20年には3.5%に上昇しているとし、「従業員のウェルビーイング(主観的幸福)や人事課題についての対処が遅れていると判断せざるを得ない」と指弾した。

これに対し日鉄ソリューションズは、「ハラスメント防止は経営上の重要課題と認識している」としたうえで、

・社内外に通報を受ける相談窓口を設置し、運用している

・社員教育を行い、ポスター掲示やイントラネットで周知徹底している

・厚生労働省から、女性活躍推進法に定める取り組みの実施状況が優良な企業として認定を受けている

などと株主提案に反対している。

内部告発がアクティビストへ

業績に関わる財務情報や、統合リポートなど公表資料の分析にとどまらず、株主提案のために「取材」に乗り出す動きは日本では珍しい。同じように現地取材の「成果」を強調しているのが、香港の投資ファンド、オアシス・マネジメントによる、エレベーター事業などのフジテックへの提案だ。

オアシスは5月に公表した「フジテックを守るために」と題した資料で、フジテックが取得した高級マンションを創業家出身の社長の家族が私的に利用しているなどとして、社長の再任案に反対を呼び掛けた。また、資料ではフジテックの制服を着た人物が社長の自宅を掃除している写真を掲載し、社員を私的に利用したと訴えた。関係者によると、オアシスに内部告発が届き、独自調査に乗り出したという。

対してフジテックは外部の弁護士による調査を経たうえで、「法的にも、企業統治上も問題ない」として以下のように反論した。

・庭の手入れは、フジテックのアルバイトが勤務時間外に行った

・高級マンションは、トップセールスのために、フジテックの要請を受けて社長とその家族が家賃を支払って居住した

・マンション取得の取締役会決議は、利益相反の可能性がある社長は参加しなかった

これらはあくまでアクティビスト側の主張にすぎない。セクハラ問題は一方当事者への聞き取りしか行っておらず、AVIは「必ずしも真実かつ正確であるとは認識していない」と留保をつけた。オアシスも「情報の正確性、完全性、信頼性について、明示的にも黙示的にも、一切表明または保証するものではない」としている。米議決権行使助言会社のグラスルイスは、日鉄ソリューションズの特別調査委設置には反対を推奨する一方、フジテックの社長の再任にはオアシス同様に反対を推奨している。

日本は諸外国と比較して、最も株主提案がしやすい国の一つだ。議決権総数の1%を6カ月継続保有していることなどが条件となる。大和総研によると、英国やドイツ、フランスは5%以上の保有、米国は2万5000ドル相当の保有が1年以上、1万5000ドル相当の保有は2年以上などと要件が定められている。

こうした企業にとって「不利」な状況だとしても、現実に機関投資家がアクティビストの提案に賛成するケースが増えている。さらに、公表情報の分析にとどまらない「汗をかいたネタ」が添えられれば、ほかの株主への影響力は無視できない。提案を受けた企業の経営陣は、有効かつ丁寧に反論しなければ、株主総会で十分な信任を得られない恐れがある。

Sの株主提案は「出資者の受けがいい」

AVIのセクハラに関する問題提起は、ESG(環境・社会・企業統治)のうち、ソーシャルの側面が強いといえる。これまでアクティビストは社外取締役の比率や内部統制など「Governance(企業統治)」の不備を追及し、環境関連の非政府組織(NGO)などが気候変動など「Environment(環境)」対応を求めることが多かった。

国内の投資ファンドであるストラテジックキャピタル(東京・渋谷)は、日本証券金融に対し、日本銀行出身者を取締役として受け入れる、いわゆる「天下り」先となっていることが、株価低迷の大きな原因の一つになっている可能性が高いとして、役員報酬の個別開示に関する定款変更などを株主提案した。

ストラテジックキャピタルの主張によると、日証金は1950年に上場して以来、社長は日銀の理事経験者が続き、日銀時代をはるかに上回る報酬や特別待遇が、日証金の株式価値を高めるインセンティブを失わせていると主張した。日証金は「日本銀行出身者の役員登用は、当社に必要な資質を備えていることを踏まえて人物本位で行っている。実際にROE(自己資本利益率)は着実に上昇している」などとして株主提案に反対している。

オアシスとストラテジックキャピタルの株主提案は、根幹は企業統治に関わる問題だが、社会的に問題視される上場会社の私的利用や、天下りといった論点をぶつけることで、G(統治)とS(社会)が入り交じった争点にしているといえる。

S重視の傾向は、米国で著しい。2021年11月、米マイクロソフトの年次株主総会で、アクティビストがセクハラ対策に関する年次報告書の発行を求める株主提案を行い、7割超の賛成を集めて可決された。セクハラの事例数の公表や対策の有効性をまとめて報告するように要求している。米国では黒人差別に抗議する「ブラック・ライブズ・マター」運動で社会不安が増大し、投資家のSへの関心が高まっている。

日本は人種差別などの文化的な背景が異なるため、どこまで波及するかはまだ不透明な部分はある。「人権などSに関わる株主提案は、アクティビストの裏にいるスポンサーの受けがいい。運用成績が振るわないファンドは、Sがらみの提案で仕事ぶりをアピールしている」(株主総会の運営に詳しい関係者)という皮肉な見方もある。

ただ、人的資本が企業の成長力につながるという考え方は急速に日本でも広まっており、おろそかにしては投資家離れを招きかねない。内向きの社風が少なくない日本企業において、「S」は鬼門になりかねないテーマだ。

(日経ビジネス 鷲尾龍一)

[日経ビジネス電子版 2022年6月9日の記事を再構成]

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