人材は引き抜くもの
SmartTimes レランサ社⻑ スティーブン・ブライスタイン氏
人材の募集などやめて、代わりによそから引き抜きましょう。逼迫した労働市場においてためらっている余裕などありません。人材を探すことなど難しくはありませんし、そのほとんどはリンクトインを使って誰かを見つけるのと大して変わりません。

人材あっせん企業は人材を探す企業であることはやめて、人材引き抜き企業となるべきだと思います。優秀な人材を確保するのに人材あっせん企業に頼ってしまうのもよくありません。
日本の著名なIT企業の社長に聞いた話ですが、彼の会社の経営に携わる優秀な人材を見つけるのは本当に大変だったそうです。
彼は東京にあるいくつものエグゼクティブ専門人材サーチ会社に依頼をしたのですが、結果そのうちのひとつがようやく条件に合った人材を見つけ、必要なステップを踏んでから雇用に至ったということです。
彼はこの人材サーチの会社にかなりの費用を払ったのですが、蓋を開けてみると、実は最初から人材紹介会社の手助けなど必要なくてもよかったということがわかりました。
この社員の勤務初日に、社長は他のマネジャーたちが異常なほどなれなれしく彼に挨拶し、歓迎や入社のお祝いの言葉をかけているのに気づきました。実は社長のチームの幹部たちは彼が同じ業界にある前の会社で働いている時から知り合いだったというのです。
驚いた社長はすぐさま自分の下のシニアスタッフに、自分の会社で働くのにふさわしいと思われる知り合いを少なくとも3人は挙げるよう、指示しました。
この社長がやった以上に効果的なやり方が、エグゼクティブ人材サーチ会社にできると思われますか。
紳士協定にのっとって引き抜きなどしない、などというのはナンセンスです。引き抜きをしない、というのは談合的、反競争的なやり方に過ぎません。
米国ではアップル、グーグル、アドビとインテルがお互いの社員の引き抜きはしないという協定をしていたとして、多額の集団訴訟に負けてしまったという例さえあるくらいです。
引き抜きをしないという談合をすることは、道義に反することです。しかし、引き抜きそのものは、道義にも道徳にも反していませんし、恥ずべきことでもないのです。
飽和市場においては競合相手から顧客を横取りすることをためらう人はいません。人材不足の市場で他者からできる人材を横取りすることにも何の問題もないはずです。
誰かを雇うことで、その人があなたのビジネスの改善に貢献すると同時に、あなたもその人の人生を格段によくしてあげることができるのであれば、それを教えてあげるのはあなたの道徳的責任であるといえます。
ですから自分で最高の人材を探して、引き抜いていきましょう。
[日経産業新聞2022年5月20日付]
