動画配信、ゲーム市場に熱視線
先読みウェブワールド(藤村厚夫氏)
2023年の幕が開けた。この3年間は新型コロナの影響を受け、映像(特に動画配信)、ゲームの両分野とも急成長のあとに揺り戻しが起きたりと振り回され続けた。しかし、ようやく正常な成長軌道に戻す見込みが見えてきた。いずれも期待の新作、大作の発売が目白押しで予定されており、活況が見込まれる。

ゲームでは、「ファイナルファンタジー」や「ゼルダの伝説」といった大作に期待が集まる。「STAR WARSジェダイ:サバイバー」「バイオハザード」や「スパイダーマン」も発売を控えている。新作の話題だけではない。
「フォートナイト」のエピックゲームズがアプリ内課金問題でアップルを訴えたり、マイクロソフトが約8兆円も費やしてゲーム大手のアクティビジョン・ブリザードの買収に乗り出したり、その行方にも興味が集まる。ゲームはエンターテインメント市場をけん引する存在に成長し、IT(情報技術)大手にとって目が離せない存在でもある。
動画配信最大手、ネットフリックス最高経営責任者(CEO)のリード・ヘイスティングス氏は、かつて同社の最大のライバルはアマゾンでもHBO(米国の大手動画配信ブランド)でもなく、「睡眠時間」だと述べたことがある。17年のことだ。ユーザーの貴重な時間、睡眠時間を奪い合うライバルにもはや業界の区別はないという認識だ。
その2年後、同氏は株主宛ての手紙で「我々は(動画の)HBOよりも(ゲームの)フォートナイトと競争し、負けている」とし、睡眠時間を争う最大のライバルが「ゲーム」だと具体的に述べている。
単に言葉だけの危機表明ではない。同社はゲームが、特に若いユーザーの時間を奪っていることに着目し、ゲームに通暁する外部人材の採用、ゲーム制作会社の買収などに乗り出した。
ゲームを動画配信の本業に取り込んでしまう戦略を行動に移したのだ。21年にはスマホ版ネットフリックスアプリにモバイルゲームの配信を開始した。いずれも小ぶりなものではあるが、現在では50タイトル近くまでになっている。
動画配信側は、ゲームは脅威とする視点から取り入れるべき存在と見直しているわけだが、ここにきてさらにゲーム市場に新たなアプローチを見せている。それは、著名なゲームタイトルそれ自体を動画作品化してしまおうという動きだ。

人気ゲームタイトルの影響力にあやかろうとのアイデアで、ゲームファンとして育った膨大な視聴者をゲームから積極的に取り込もうとする戦略といえる。実際、過去には実写映画の「ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん」が劇場公開された実績もある。
まず、4月に劇場公開予定のアニメ版「スーパーマリオブラザーズ・ムービー」が話題になっている。プレイステーション(PS)版のヒットタイトル「ラスト・オブ・アス」の実写版をHBOが1月にも放映する(日本でも公開予定)。やはりPS版の人気シリーズ「ゴッド・オブ・ウォー」の実写版がアマゾンプライムで放映される予定だ。
今年はどうやら、動画配信にとってこのようなゲーム由来の動画タイトルの当たり年になりそう気配だ。
[日経MJ2023年1月16日付]