ドローン、おもちゃじゃない 法改正で輸送用へ前進

政府が3月、ドローン(小型無人機)を飛ばす空域の拡大や規制緩和などを盛り込んだ航空法の改正案を閣議決定した。2022年度に人口が多い都市部でも目視者なしで飛ばせるようにする「レベル4」に向け大きく前進した。
業界からは「ドローンは無線操縦のおもちゃではなく、輸送手段の一つになる」と歓迎する声が上がる。もっとも、航続距離などドローンの機体性能はまだ物流を担えるほど十分ではない。岩盤規制をぶち破っても、ハードのイノベーションがなければ空の新たなインフラへと離陸できない。
「実験から社会に実装される段階に入った」。ドローン関連サービスを手掛けるトルビズオン(福岡市)の増本衛社長は声を弾ませる。その理由はドローン業界が空をインフラとして活用するステージに足を踏み入れたからだ。その柱となるのが3月に閣議決定された航空法の改正案。ポイントは大きく2つある。
自動化が進めば収益化にめど
1つは、国の認可を受ければ、人口が密集する都市部でも目視者なしで飛行できるようになる「レベル4」の実現だ。
プライバシーや墜落のリスクからこれまで山間部などでしか飛ばせなかったが、この規制を撤廃。安全にルート通り飛んでいるか地上から目視する補助者は不要になる。ドローンを開発するエアロネクスト(東京・渋谷)の田路圭輔最高経営責任者(CEO)は、「サービス全体のコストに占める人件費の割合は9割以上。目視者なしで無人化、自動化が進めば収益化のめどがつく」と語る。
もう1つがレベル4のための資格、認定制度だ。国土交通省から安全性などお墨付きを得た機体だけが、物流やインフラ点検などに使える。機体だけではない。ドローン運用者も安全に操縦・運航できる技能があるか審査を受け、国家資格を取った事業者だけが飛ばすことができる。
増本社長は「将来ドローンが飛び交うことを不安に感じる住民もいるが、認定制度が整えば社会に受け入れてもらえる余地は大きくなるはず」と期待を込める。ほかにも国に届け出る飛行手続きが省かれたり、簡素化されたりする内容も盛り込まれた。

いずれも22年度から運用が始まるが、今回の改正案は「ドローンがトラックや航空機のように公共性を持った輸送手段になることを意味する」(田路CEO)。これまでは規制によりがんじがらめで、荷物の配送ができても収益性は乏しかったが、ようやく離陸準備が整ったといったところだ。
ハードに残る課題
もっとも、岩盤規制に風穴が開いたからといって視界が晴れ渡るわけではない。ハードである機体の性能が、ビジネスに耐えられるほどまだ高くないのだ。ボトルネックはバッテリーのリチウムイオン電池。バッテリーは機体重量の約4割を占めるといい「運航ではバッテリーを運んでいるようなもの」(田路CEO)。航続距離も数~10キロメートルが限界で荷物の重量によっては全く使い物にならない場合も多い。
バッテリーは各メーカーとも電気自動車(EV)向けは熱心だが、ドローン向けは市場が読めないとあって関心が薄い。「小型軽量でも大容量・高出力」という技術革新の恩恵を受けるのはEVより後になる可能性がある。
ドローン活用をめぐってはセイノーホールディングスや佐川急便など陸運大手も実証実験を進めており、スタートアップとの提携が相次ぐ。地域の集荷所から最終配達地までのエリアを意味する「ラストワンマイル」の切り札としてドローンを位置付け、最適ルートで運ぶLaaS(ロジスティクス・アズ・ア・サービス)のネットワークに組み込もうとする。
インプレス総合研究所によると、ドローンの国内市場規模は25年度には20年度比3.5倍の6468億円に達する見込みだ。成長の果実を得るには機体開発にイノベーションを起こさなければ「ドロン」と立ち消えになる。
(日経ビジネス 上阪欣史)
[日経ビジネス電子版 2021年4月9日の記事を再構成]
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