アップル新製品、新チップで性能アップも少し値上がり
佐野正弘のモバイル最前線
米Apple(アップル)は米国時間の2022年3月8日に新製品発表イベントを開催し、スマートフォンやパソコンなどさまざまな新製品を発表した。一連の新製品を紹介しながら、そこから見えるアップルの狙いを確認しよう。
第3世代のiPhone SEはついに5G対応に
アップルが今回のイベントで発表した新製品は大きく3つある。1つはiPhone関連で新たに第3世代のiPhone SEを発表した(このほか既存のiPhone 13シリーズに緑系の新色2つを追加した)。
iPhone SEはiPhoneの中でコンパクトかつ低価格なモデルとして知られている。20年に発売された第2世代のiPhone SEは5万円を切る価格ながら高いパフォーマンスを発揮し現在も人気を博している。
新しい第3世代iPhone SEの外観は第2世代とほとんど変わらない。ディスプレーは第2世代と同じく4.7インチで、前面に指紋認証の「Touch ID」と一体となったホームボタンを備える点も共通している。背面カメラは1200万画素が1つというのも第2世代と同じだ。

だが性能面は大幅に強化された。第3世代iPhone SEは、iPhone 13シリーズと同じ最新チップセット「A15 Bionic」を採用しており、低価格ながらハイエンドモデルに匹敵する性能を備えている。その高い処理性能を生かせば第2世代と同じ性能のカメラでも人工知能(AI)技術などを駆使してよりきれいな写真が撮影できる。
もう1つ強化されたのは通信機能。第3世代のiPhone SEはついに高速通信規格「5G」に対応した。安価なiPhone SEの5G対応はiPhone人気の高い日本では、5G普及の強力な追い風となるだろう。

ただ価格はそれなりに上がった。公式オンラインストアでの販売価格(以下、同)は最も安い64ギガバイト(GB、ギガは10億)モデルで5万7800円。第2世代が発売当初4万9280円だったのに比べて上昇した。アップルとしては処理性能の強化と5G対応で値上がり分は納得してもらえると考えたのだろうが、iPhone SEの特徴である価格面でのインパクトが弱まった感は否めない。これが販売面にどう影響するかやや気がかりだ。
Macと同等の性能を備えた第5世代iPad Air
今回のイベントの2つ目の発表はタブレット端末のiPad。ミッドレンジに位置付けられる「iPad Air」の新製品となる、第5世代のiPad Airを発表した。こちらも第3世代iPhone SEと同様、性能の強化が最大の売りだ。
デザインやディスプレーサイズ、インターフェースなどは前機種の第4世代とほとんど変わっていない。あえて違いを言うなら、「スペースグレイ」以外の4色の本体カラーの色味がやや変化したぐらいだ。

だが、中身はかなり大きく変わった。その理由は搭載するチップセットにある。これまでのiPad AirはiPhoneと同じ「A」シリーズのチップセットを搭載していた。第4世代だとiPhone 12に搭載されていたA14 Bionicだ。
これに対して、第5世代iPad AirはAシリーズに替わって「iMac」や「MacBook Air」などのパソコンに搭載されている「M1」を採用してきた。
これはiPad AirがMacと同じ処理性能を手に入れたことを意味する。第5世代iPad Airは第4世代と比べてCPU(中央演算処理装置)の処理性能が60%速く、GPU(画像処理半導体)の処理性能に至っては2倍に高速化したという。動画編集や3次元(3D)ゲームなど、重いアプリも快適に動くだろう。

加えて第3世代iPhone SE同様、「Wi-Fi+Cellularモデル」は5Gに対応し、外出先でも高速通信できるようになった。処理性能の強化と合わせてiPadシリーズの利用シーンをより広げようというアップルの狙いが読み取れる。
ただ、その分こちらも価格がアップしている。最も安価な64GBのWi-Fiモデルは7万4800円。第4世代は発売当初6万9080円だったので、iPhone SEほどではないがこちらもいささか買いづらくなった。
高性能なクリエーター向けデスクトップも登場
3つ目の発表は、パソコンのMacに関するものだ。アップルはMacのCPUをインテル製から自社開発した「M」シリーズへ移行しつつある。これまでノートパソコン「MacBook」やディスプレー一体型の「iMac」といった普及モデルは移行したが、映像・音楽制作などのプロ・セミプロが利用する高性能モデルは移行が遅れていた。
そこでアップルは今回、プロユース向けMacのMシリーズへの移行を進めるため、新CPU「M1 Ultra」を投入した。これは高性能ノート「MacBook Pro」などに搭載していた従来の最上位CPU「M1 Max」を2つ組み合わせることで処理性能を高めたCPUだ。

アップルの発表によると、M1 Ultraは現在最も高性能なWindowsデスクトップパソコンと比べた場合、90%増しのCPU性能を100ワット少ない消費電力で、GPU性能に関しては同等の性能を200ワット少ない消費電力で実現できるという。非常に高い処理性能と省電力性を両立していることは間違いないだろう。
そのM1 Ultraを搭載したのがまったく新しいデスクトップパソコン「Mac Studio」である。幅と奥行きがいずれも19.7センチ、高さ9.5センチと本体はハイエンドデスクトップとしてはかなりコンパクトだが、M1 Ultraの省電力性と独自の排熱設計で高いパフォーマンスを発揮できるという。
加えて背面には4つのThunderbolt 4端子をはじめ豊富なインターフェースを用意。前面にSDカードスロットを設けるなど、その充実ぶりは目を見張る。併せて発表された5K解像度(5120×2880ピクセル)の27インチ高性能なディスプレー「Studio Display」との組み合わせで、映像や音楽などのクリエーターに魅力的な環境を提供するのがアップルの狙いだろう。
その分、価格は安くない。M1 Ultraを搭載したMac Studioは49万9800円から、Studio Displayは19万9800円からだ。

今回のイベントで登場した製品はいずれも3月18日から国内出荷が始まる。なお今回は最上位デスクトップパソコン「Mac Pro」は新製品の発表がなかったが、イベント内ではわざわざ「次の機会」とのコメントがあった。
Mシリーズ、そしてMacの進化は今後も続きそうだ。
福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。
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