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日本電産・小部社長「イーアクスル、最後はコスト勝負」

日経ビジネス電子版
2022年9月、日産自動車出身の関潤氏の辞任を受けて日本電産社長に就任した小部博志氏。永守重信会長最高経営責任者(CEO)とは1973年の創業時から苦楽を共にした仲だ。関氏を含めて外部から招へいした後継者候補にうまく引き継げず、「リリーフ」として登板したが、1月に23年3月期の業績予想を大幅に下方修正するなど環境は厳しい。成長の柱と見込む電気自動車(EV)向け駆動装置「イーアクスル」の立て直しにどう挑むのかなどについて聞いた。

――前社長の関氏が、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業を中核企業とする鴻海科技集団のEV事業の最高戦略責任者(CSO)に就任するそうです。率直にどうお感じですか。

「他社の人事に特に言うことはないですね。活躍されることと思います」

――日本電産は、モーターやそれを制御するインバーターなどで構成するEV用の動力装置「イーアクスル」を車載事業の成長のけん引役と位置づけています。鴻海科技とはEV用モーター生産などの合弁会社設立を検討と発表したこともありました。同社との関係は「濃密」ですが、関氏のCSO就任で今後の関係に影響が出ますか。

「鴻海科技と取引はありますが、詳細は話せません。合弁会社はまだ設立には至っていませんが、引き続き検討を進めています。(関氏のCSO就任の)影響はないと思いますね。当社としては、より機能の高いものを安くつくる。顧客の期待を上回るようなモノづくりをする。それだけです」

構造改革で24年3月期業績は急回復へ

――23年3月期の通期連結業績予想を1月下旬に下方修正しました。従来は前期比22%増の1650億円で過去最高を更新するとしていた純利益は、一転して同56%減の600億円としました。原料価格高騰で採算が悪化した原材料在庫の引き当てや、欧州向けなどの車載関連製品の品質問題への対応などで構造改革費を計約700億円計上したためとのことです。加えて事業環境も悪化しているとしています。実態をもう少しお聞かせ下さい。

「最近は全体的に良くないと思うね。我々は部品メーカーだから、車載事業にしても(完成車メーカーで)自動車ができて出荷されないと事業が動かない。当社から部品そのものをつくって出荷しても、検収されないと売り上げが立たないんです。それがまた当社の在庫になる」

「でも車載事業は、24年3月期の第2四半期(23年7〜9月期)ぐらいになると変わってくると思いますよ。イーアクスルは第2世代の収益性の高いものを22年10月から出荷し始めており、これが23年7〜9月期にはかなりいくだろう。24年3月期でみると約120万台の販売を見込んでいて、その7割くらいが第2世代になるのではないかとみています」

――足元では精密小型モーターなども厳しいですね。

「(精密小型モーターを使う)世界のハードディスク市場は21年に約2億5900万台だったけど、22年は約1億7200万台に急減しました。データセンター用のモーターも急速に在庫調整が入っています。米IT(情報技術)大手などの投資が減速しているようです」

――約700億円の構造改革費のうち、23年3月期の第4四半期(23年1〜3月期)だけで約500億円を計上しました。在庫評価減のほか、欧州の顧客との間に製品の品質を巡るトラブルがあり、リコールも想定して引き当てたとのことですが、早めに多額の費用計上をして一気に「膿(うみ)」を出すのは、永守流経営の特徴です。なぜ、それほど早めの計上にこだわるのですか。

「まあ必要とみてのことですよ。その分、(償却費などが減るので)24年3月期の第1四半期(23年4〜6月期)の業績からはプラスに働くことになります」

「待ち受け戦略」は変わらない

――今後の成長戦略の柱になる車載事業について改めて伺います。もともと、26年3月期にこれまでの累積損失を一掃する計画でした。これも後ろ倒しとなりますか。

「計画は変わりません。ただ、何度も言いますが、自動車メーカーで(EVなどの)車が売れなければ、それは変わる可能性もあるということです」

「当社はイーアクスルで、中国、フランスの既存工場(部品や合弁を含めて中国で5カ所、フランスで1カ所)に加えて、ポーランド、メキシコなどに新工場を建設する計画があります。(既に建設した)セルビア工場も近い将来に量産に入ります。これらは変えていません。26年3月期にはイーアクスルを全世界で400万台販売する計画ですが、生産能力の合計はその倍の800万台にしていきます。急拡大する需要を残さず取り込む『待ち受け戦略』にも変化はありません」

「イーアクスルの第1世代は19年春に発売しましたが、これはまだコストが高く、採算は取りにくかった。だけど、シェアを取っていくために一気に動いたわけです。これは、かつてハードディスク用の精密モーターで当社が勝ったときと同じ。まず高いシェアを取り、価格を含めた強い競争力をつくる考え方ですよ。シェアを取るのは、結局は量産してコストを下げるためでもある」

――イーアクスルは、トヨタ自動車など世界の大手自動車メーカーや、そこに直接つながるティア1と呼ばれる大手部品メーカーが共同で開発するケースもあります。「系列」の中での開発ですね。彼らにとっては駆動部分は自動車の価値の中核ですから。一方、日本電産は独立系部品メーカーとして多く自動車メーカー向けにイーアクスルをつくり、シェアを取ろうとしています。自動車メーカー陣営の中には、安全に関する重要機構だから我々に一日の長があると言う人も少なくありません。

「(どこが勝つか、その行方は)まだ分からないね。でも、現時点でイーアクスルを内製している自動車メーカーが、将来ずっとそれを続けられるかは分からない。行き着くところは結局、コストの問題じゃないですか」

「資源価格の上昇で原材料が値上がりしたけど、イーアクスルの第1世代は、シェアを取るために値上げは遅らせました。でも、徐々には上げさせてもらって半分くらいはなんとか(原材料値上がり分を価格転嫁)した。とはいえ100%はできません。残りは技術革新で取り戻すつもりです。かつて我々は、リーマン・ショック(08年秋)の後の需要急減に対応して、売上高が半分になっても利益を出せる体質をつくるWPR(ダブル・プロフィット・レシオ)という活動を実行しました。徹底してコスト削減策を実行し、景気が回復した後、むしろ利益率を大きく高めようというもので、実際に成果を上げました」

「今回はそれを技術でやり抜きます。技術革新でコストを下げ、利益率を上げていくつもりです。今度の活動は『WPR-X』と名付けて取り組んでいます」

――永守会長は自身の後継者問題で今春、5人の副社長を選び、その中から次の社長を選ぶとしています。前社長の関潤氏は、日本電産の企業理念を十分理解していなかったというところが問題だったと永守会長は話していましたが、社内から選ぶ副社長5人にその問題はありませんか。創業から約50年がたち、社内の人でも企業理念を十分理解するのは容易でないように思えます。

「日本電産には、社員の3大精神としている『すぐやる、必ずやる、できるまでやる』『情熱、熱意、執念』『知的ハードワーキング』を始め、様々な企業理念があります。『井戸掘り経営』『家計簿経営』『千切り経営』という3大経営と名付けた経営手法もあります。どれも、中小企業時代から、度重なる困難を突破するために心のよりどころになった理念であり、経営のノウハウなんです」

「でもね、今の人たちは創業時代の苦労を知らない。大企業になった日本電産しか知らないんですよ。前社長にもそれは理解してもらいたかったんですがね」

「とにかく、この日本電産らしさや考え方は我々が伝えていくしかないと思っています。これが強さの源ですから。永守会長は社内向けに経営塾を開いて、自身の考え方を話しています。私も色々な事業所に行くと必ず7〜8人ぐらいの社員と昼食会を開いたりして、話します。古典的なやり方かもしれないけど、このところはそれすら忘れられていたんです」

(日経ビジネス 田村賢司)

[日経ビジネス電子版 2023年2月7日の記事を再構成]

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