/

東京五輪支持の中国、コロナ拡大より気にしていること

中国は徹底した検査などで新型コロナウイルスの感染拡大を封じ込めてきたと自負する=ロイター
日経ビジネス電子版

23日の東京五輪開幕が近づくにつれ、中国でも徐々に期待が盛り上がってきている。ここにきてメダル候補の女子バレーボールや水泳の代表選手が相次いで発表され「うまくいけば40個の金メダルが取れるのではないか」といった予測記事も目に付くようになってきた。

問題は東京五輪・パラリンピックがスムーズに開催できるかだ。新型コロナウイルスが変異した感染力の高いインド型(デルタ型)が世界的に流行して日本にも入り込んでおり、より厳格な水際対策を講じながら大勢の五輪関係者を受け入れねばならない。中国の人々やメディアが、新型コロナウイルスの感染者数が増加傾向にある東京における五輪開催を不安視していることは否定できない。

中国共産党機関紙である人民日報系の環球時報は7月5日、来日したウガンダの選手団に感染者が出たことなどを伝え、無観客開催の可能性が残っていると報じた。日本国内で五輪開催反対運動が起きていることや、安倍晋三前首相が五輪開催に反対する人を「反日的」と呼んだことなど、コロナ対策を巡る日本国内の混乱も伝えている。

ただし現時点では、中国国営の新華社、中国共産党機関紙の人民日報や環球時報などの東京五輪についての報道は、基本的に日本など国外メディアの引用にとどめている。入国時の水際対策や選手村、プレスセンターの防疫体制についても比較的フラットに伝えている。

これまで中国メディアの報道には、自国が「ゼロコロナ」を目指して感染拡大を徹底的に封じ込めてきたことと対比しながら、他国のコロナ対策の甘さを批判する姿勢が目立っていた。中国の選手団が参加する大規模スポーツイベントの感染対策が不安視されている状況を考えれば、抑制された報道姿勢といえそうだ。

最大の理由は中国で2022年2月から開催予定の北京冬季五輪・パラリンピックの存在だろう。米国などでは新疆ウイグル自治区や香港などの人権問題を理由にボイコットすべきだとの声が上がっている。

東京五輪が混乱すれば北京冬季五輪にも影響が及ぶ可能性があり、中国政府にとって都合が悪い。習近平国家主席(中国共産党総書記)は5月、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長との電話協議で「東京五輪の開催を支持する」と表明した。

中国メディアで批判的なトーンをもって報じられるのは新型コロナよりも、むしろ福島の原子力発電所の事故処理と絡んだニュースが出てくるときだ。

原発事故をやゆする浮世絵を掲げた報道官

東京五輪の選手村のレストランでは、安全性が確認された福島県産食材の提供が予定されている。これに対して環球時報は、韓国のメディアやネットにおいて食の安全性への懸念が高まっていると伝えた。中国の考え方については言及していないが、中国や香港、マカオ、台湾、韓国、米国など15の国・地域はいまだに福島周辺地域からの農産物を受け入れていないなどとも付言した。

中国のブログ記事などを見ても、健康面での不安をあおり立てるようなものが多い。知り合いの上海市民に福島の食材の安全性が確認されていることを説明したが、「それでも正直不安だ。批判する人の気持ちは分かる」と日本人の筆者に気を使いつつ否定的な意見を口にしていた。

中国における感情的な反応の背景には、日本政府が21年4月、福島の原発処理水の海洋放出を決定したことがある。日本側の説明に納得しない中国政府は猛反発し、外交部の趙立堅報道官はツイッターのトップに葛飾北斎の浮世絵をモチーフにした原発事故を揶揄(やゆ)するイラストを掲載し続けた。

中国メディアは中国政府の意向に反した報道をすることは許されていないため、一般的な市民は原発事故処理について否定的な情報しか目にしない状態になっている。

東京五輪が開幕する7月23日は、偶然にも中国を一党支配する中国共産党の創立日に当たる。創立100年を祝う盛大な記念式典が7月1日に行われ、習氏が「台湾の統一は歴史的任務」などと演説したことは、多くの読者にとって記憶に新しいだろう。中国ではまだ歴史検証が曖昧な時期に、便宜的に7月1日を中国共産党の創立記念日と定めた。本当の創立日が判明した後も、そのまま7月1日を記念日としている。

22年に開催予定の5年に1度の党大会では、習総書記の異例の3期目続投が決まる公算が大きい。自国の五輪選手の活躍による国威発揚を、政権支持につなげたい思いは日本も中国も同じ。中国は新型コロナを抑え込んだ強みと日本の隣という地の利を生かし、ギリギリまで中国国内で練習を積んだ選手達を送り込む。東京五輪で成果を上げ、党大会前に開催される北京冬季五輪に向けて弾みをつけたい考えだ。

(日経BP上海支局 広岡延隆)

[日経ビジネス 2021年7月7日の記事を再構成]

日経ビジネス電子版セット

週刊経済誌「日経ビジネス」の記事がスマートフォン、タブレット、パソコンで利用できます。「日経ビジネス電子版」のオリジナルコンテンツもお読みいただけます。日経電子版とセットで月額650円OFFです。

お申し込みはこちらhttps://www.nikkei.com/promotion/collaboration/nbd1405/

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

日経ビジネス

企業経営・経済・社会の「今」を深掘りし、時代の一歩先を見通す「日経ビジネス電子版」より、厳選記事をピックアップしてお届けする。月曜日から金曜日まで平日の毎日配信。

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン