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ウクライナ侵攻が半導体生産に影 原材料不足の懸念

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日経ビジネス電子版

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が、世界の半導体生産のサプライチェーン(調達・供給網)を揺さぶっている。半導体生産に必要なレアガス(希ガス)やレアメタル(希少金属)など原材料の一部にロシアやウクライナへの依存度が高いものがあるためだ。長期化している世界的な半導体不足に拍車をかける新たな要因となりかねない。

半導体の製造にはネオン、クリプトン、キセノンなどの希ガスが欠かせない。希ガスは地上の大気中にPPM(100万分の1)レベルでしか存在せず、空気から希ガスのみを取り出すのは極めて難しく、生産効率が悪くなってしまう。そのため、希ガスは酸素や窒素を製造するための空気分離プラントの副産物として製造されている。

日本には大規模なプラントが少ない。海外の生産効率が高い大型プラントに依存しているのが実情で、ある産業ガス国内大手の関係者も「国内で使われる希ガスの多くを、海外からの輸入品に頼っている」と認める。

台湾の調査会社トレンドフォースによると、ウクライナは半導体の製造工程で使うガスの主要生産国で、特に半導体に回路を描く「露光工程」で使うレーザー光発振に用いるネオンに関しては、ウクライナが世界の供給量のうち約70%を占めているという。ロシアでの鉄鋼製造の副産物として出るガスをウクライナで精製している。

ロシアがウクライナに侵攻したことを受け、ロシアとウクライナ両国にまたがるネオンのサプライチェーンは事実上寸断されている。世界各国によるロシアからの禁輸などの経済制裁が長引けば、供給が途絶えるなど産業界への影響もより深刻になる。

東京ガスの孫会社にあたる東京ガスケミカル(東京・港)は、ネオンやクリプトンなどの希ガスを半導体メーカーなどに供給している。不足が懸念されているネオンガスに関しては、これまで「ウクライナから調達してきた」(東京ガス)という。

在庫もあり現時点ではまだ事業に大きな影響は出てきていないが、紛争の行方がどうなるか不透明なため、「情報収集を強化している」(同)。

キオクシア、ルネサス…半導体企業の対応は

「情勢を注視しているが、今のところ半導体工場の生産が止まるなどの影響は出ないとみている」。東芝が出資する半導体メモリー大手のキオクシアホールディングスは、複数の調達チャネルを持つといった対策を取っていたことが奏功し、当面は材料調達や生産に大きな支障はなさそうとの見方だ。

制御用半導体大手のルネサスエレクトロニクスは、原材料調達について見直しを進めている。ネオンについては、「ウクライナ産以外を使用しているため、調達に支障は出ていない」としている。ルネサスは一方で、レアメタルのパラジウムについて、これまでロシア原産の材料を一部で使ってきた。

資源国ロシアは石油や液化天然ガス(LNG)のみならず、レアメタルの生産量が多い。パラジウム生産の世界シェアは4割を超える。パラジウムは歯の治療で用いる銀歯や自動車の排ガス除去装置の触媒に使われる。世界的に自動車生産への影響が懸念されているが、半導体の配線や電極のめっき加工などエレクトロニクス分野でも多く使われている。

ルネサスではめっきに使うパラジウムの供給不足リスクに備えて、調達先の部材メーカーと協議を始め、ロシアではない他国産地からの調達に切り替えるなど、代替手段を検討することを要請した。

「紛争が長引けばウクライナからネオン、ロシアからパラジウムの輸出に悪影響が及び、米国半導体メーカーは材料供給の寸断に苦しむ可能性がある」。まだロシアがウクライナに侵攻する前の2月初旬、米国の原材料調査会社テックセットは、ロシアやウクライナへの材料依存は米国の半導体生産に打撃を与える可能性があると予想するリポートを公表していた。そんな懸念が現実になってしまった。

波紋は米国だけでなく、台湾や韓国、日本など世界中の半導体メーカーに及んでいる。パラジウムの供給途絶への不安感が高まり、侵攻後の3月7日にはパラジウムの現物スポット価格が約10カ月ぶりに最高値を更新するなど影響は広がりつつある。

侵攻は世界の半導体サプライチェーンの一翼を担ってきたウクライナの企業や働き手の日常を奪い、命を脅かしている。ウクライナから原材料を調達するだけにとどまらず、現地に研究開発(R&D)拠点を構えて従業員を雇っている企業も少なくない。

ルネサスもその1社だ。「ウクライナに200人を超える社員、協業先がいる。一日でも一刻でも早くウクライナに平和が戻ることを願ってやまない」。3日のアナリスト向け説明会の冒頭、ルネサスの柴田英利社長兼CEO(最高経営責任者)はこう語り、事態の沈静化を訴えた。

(日経ビジネス 岡田達也)

[日経ビジネス電子版 2022年3月8日の記事を再構成]

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