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ファストリー通信障害で注目 高速化技術「CDN」に死角

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fastlyのホームページ=AP

新興IT(情報技術)企業の米fastly(ファストリー)に端を発する8日の大規模通信障害はクラウドサービスを利用したインターネットのリスクを顕在化させた。データ通信量の急拡大を受け、通信速度の低下防止などクラウドを使う新たなサービスが普及するなか、今回はここで障害が起きた。クラウドの死角とともに、ネットの「黒子」の存在感の大きさが浮き彫りになった。

「障害は広範囲かつ深刻なもので、顧客とサービスを利用する皆様に影響を与えたことを心よりおわびする」。ファストリーのシニア・バイスプレジデント、ニック・ロックウェル氏は公式ホームページへの投稿でこう謝罪した。

同氏は5月12日に導入したソフトウエアに含まれていたバグに起因したものだと明らかにした。顧客がバグを含む設定変更をすると85%でエラーを起こしたという。

障害は日本経済新聞社や米ニューヨーク・タイムズ(NYT)、フリマアプリ「メルカリ」など数千のサイトで表示の不具合や取引の一時停止などの影響が出た。電子商取引(EC)のサイトも含まれ、英パーセル・ヒーローの消費者調査部門の責任者、デビッド・ジンクス氏は、米欧など世界の小売業に与えた損害額は10億ポンド(約1550億円)に上るとみる。

ファストリーは2011年創業のスタートアップ企業。「コンテンツデリバリーネットワーク」(CDN、コンテンツ配信網)と呼ばれるネットの高速化に欠かせないサービスを手掛ける。世界各地に高速サーバーを配置して欧米を中心にネットワークを構成する。

同社のサイトによると、NYTが選挙時に200万人の読者からのアクセスを同時に処理できるようにしたり、ネットメディアのページの読み込み時間を50%高速化したりした事例があると紹介している。

障害の原因となったにもかかわらず、8日の米ニューヨーク市場でファストリーの株価は10%超上昇した。これまでCDNの認知度は低かったが、障害によってネットの黒子の存在感の大きさに注目が集まり、逆に株価が上がったとの見方が多い。

CDNは原本となるサイトの内容を複数のサーバーにコピーして配信し、アクセスを分散させる役割がある。

企業のネットサービスがグローバル化する中、大陸をまたいで大量のデータをやり取りすると、通信速度の低下や通信料の増大につながる。データの読み込みを高速化するCDNという仕組みにより、速度低下を減らしたり、アクセスが一時的に急増してもサーバーへの負荷を減らしたりできる。

米調査会社のリポート・オーシャンは、CDN市場が2020年に134億ドル(1兆4600億円)で21年から年15%程度で成長し、27年には365億ドルに達すると予測している。急成長の背景にはクラウドサービスの利用拡大と高度化がある。

米IDCによると、広く利用が可能な「パブリッククラウドサービス」の20年の市場は前年比24%増の3120億ドルに広がった。新型コロナウイルス禍によるデジタル化の加速が市場の拡大に拍車をかけている。米アマゾン・ドット・コムなどクラウド事業者の中央サーバーの負担を軽減させるのがCDNの役割だ。

CDN事業を手がけるライムライト・ネットワークス・ジャパンの伊与木基正ビジネス・ディベロップメント・エグゼクティブは「(サービスの)二重化など対策に取り組んでいるが、絶対に止まらないシステムはない。継続的に改善に取り組むしかない」と話す。

例えば、今回の障害で楽天グループはCDNを他社のサービスに順次切り替え、障害の影響を短時間に抑えた。CDN事業者の草分けの一社であるアクセリア(東京・千代田)は、障害発生時に別のCDNに自動で切り替えられるサービスを提供している。

一方、クラウドを巡っては、大量のデータを高速に扱えるようにするスノーフレイクや業務効率化サービスのサービスナウなど米国のIT企業が手がける新たな関連サービスが広がっている。データの保存など従来の単純な機能からクラウドが高度化・複雑化している。

クラウドは自社ですべてを運用する必要がないため、IT関連人材の育成や投資負担を軽減できる。一方、高度化した外部サービスの活用により、今回のような大規模障害につながるリスクが見えにくくなっている。サービスを利用するメリットとデメリットを把握したうえで、有事の際の影響を最小限に抑える備えが必要だ。

(渡辺直樹、島津忠承、ニューヨーク=白岩ひおな)

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

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