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Amazon、EC拡大持続へ5つの戦略 NFTや商店支援も

CBINSIGHTS
米アマゾン・ドット・コムが電子商取引(EC)のさらなる拡大に力を入れている。非代替性トークン(NFT)の取引や小規模店のEC開設支援など様々な分野の企業へ積極的に出資している。米プライム会員数の減少など飽和の兆しも見えるEC市場で成長を続けるためにアマゾンはどのような手を打とうとしているのか。同社が出資・提携する企業から探った。
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

アマゾン・ドット・コムはECの世界的なリーダーだ。米国では、2022年の同社経由の売上高はEC全体の40%近くを占めた。

ただ、収益力が課題になりつつある。22年の米国でのプライム会員数は1億6800万人と、前年の1億7000万人から減少した。この有料会員プログラムの発足以来、初の減少となった。

一方、実店舗への参入は壁にぶつかっている。22年7〜9月期の売上高のうち、実店舗の割合はわずか3.7%で、前四半期比ほぼ横ばいだった。

こうした状況を受け、アマゾンはデジタル小売りとサプライチェーン(供給網)での強みを強化している。例えば、アマゾンウェブサービス(AWS)の提供に加え、巨大なリテール広告事業や店舗向けの無人精算テックなど小売りテックやツールの外販を増やしている。21年にはサプライチェーンや物流に特化したファンド「アマゾン・インダストリアル・イノベーション・ファンド(Amazon Industrial Innovation Fund)」も組成した。

今回のリポートではCBインサイツのデータを活用し、アマゾンの最近の買収、出資、提携から同社の小売事業での5つの重要戦略についてまとめた。この5つの分野におけるアマゾンとのビジネス関係に基づき、各社を分類した。

・メタバース(仮想空間)とWeb3(ウェブスリー)での買い物

・オムニチャネル(ECと店舗の統合)支援

・生鮮食品のオンライン販売

・サプライチェーン、フルフィルメント(受注・配送管理)、物流

・ゼロエミッション(排出ゼロ)配達

メタバースとWeb3での買い物

アマゾンは小売事業ではここ数カ月、売上高と利益を短期間で明確にけん引できる分野に焦点を絞っている。一方、仮想ショッピングテックへの投資やWeb3での提携により、メタバースにも足を踏み入れている。Web3で存在感を構築すれば、長期的には新たな収益源やマーケティング機会、顧客のロイヤルティー(忠誠心)を生む可能性がある。

同社は分散型コマースのほか、バーチャルグッズやNFTの取引を可能にする手段に特に関心を示している。例えば、21年12月には仮想収集品の取引プラットフォームを運営する米ディブス(Dibbs)に出資した。ディブスのプラットフォームでは、トレーディングカードから漫画本までNFTとしてデジタル化されたスポーツやポップカルチャーの収集品を購入できる。

22年3月にはバーチャルスニーカーの購入をゲーム化している英アグレット(Aglet)に出資した。ユーザーはゲーム内でNFTスニーカーを購入して歩くことにより、ゲーム内通貨を稼ぐ。このプラットフォームは、レアスニーカーの事前告知なしのサプライズ発売や購入したスニーカーを箱から取り出す様子など、リアルな体験を模倣している。アグレットは22年5月、NFT版付きのリアルなスニーカーを発売すると発表した。

アマゾンが22年11月に発表したカーティアム(Qartium)との提携も、分散型コマースプラットフォームに正当性と多くの買い物客をもたらす可能性がある。カーティアムのトークン(電子証票)は比較的新しいブロックチェーン(分散型台帳)プロジェクトで、デジタルとリアル両方の商品を含む様々なアイテムを販売できるとされる。両社はこの提携を生かし、アマゾンのエコシステム(生態系)でカーティアムのブロックチェーン技術を試す。

オムニチャネル支援

アマゾンは零細小売りや販売業者のデジタル化支援を強化するために複数の企業を買収している。インド以外の地域では成長が鈍化しているため、インドでのオムニチャネルテック企業の買収は、急速に変化しつつあるインド市場でアマゾンが存在感を高める手段の一つにすぎない。

例えば、21年3月にはインドの零細商店のデジタル化を手掛けるパーピュール(Perpule)を買収した。21年12月には、零細商店のEC開設を支援するプリワン・ビジネス・サービシズ(Prione Business Services)も傘下に収めた。

さらに22年5月には、店舗のオンライン化を支援する自社プログラム「スマート・コマース(Smart Commerce)」をスタートした。なお、20年には加盟店の実店舗のデジタル化を支援する「スマート・ストアーズ(Smart Stores)」も始めている。

22年4月には、インドのソーシャルコマース(商品の購入機能を備えたSNS=交流サイト)、グローロード(GlowRoad)を買収した。主に女性の零細事業者がグローロードのプラットフォームで商品を仕入れ、これをフェイスブックやワッツアップなどのSNSで転売する。

生鮮食品のオンライン販売

アマゾンの生鮮食品戦略はなお定まっていない。傘下の米食品スーパー、ホールフーズ・マーケットやアマゾンフレッシュの実店舗を含むアマゾンの食品スーパー事業の先行きは不透明だ。

とはいえ、生鮮食品のオンライン販売と配達は依然としてアマゾンの中核事業であり、同社はこの分野で提携先を徐々に増やしている。これはアマゾンのEC事業でのコスト削減や分担の取り組みと合致している。

おそらく最も重要なのは、20年10月の米食品卸・小売りスパルタンナッシュとの資本提携だろう。スパルタンナッシュは16年からアマゾンの生鮮食品ECに商品を卸しており、20年の資本提携ではアマゾンが7年間にわたりスパルタンナッシュから食品80億ドル相当を購入することが定められた。

アマゾンは食品スーパー各社の配達を担う事業も進めている。22年7月には、英スーパーのモリソンズと提携してプライム会員向けに取り組んでいる生鮮食品や冷凍食品を配達するサービスの対象地域を広げた。

9月と10月には、米カリフォルニア州を地盤とする食品スーパー2社、カルデナス・マーケッツとセーブマートとも連携した。11月には、アラブ首長国連邦(UAE)の食品スーパー、ルルグループ(LuLu Group)との提携も発表した。これにより、UAEのアマゾンのサイトで、ルルの店舗で取り扱っている生鮮食品を購入できるようになった。

こうした提携の目玉はアマゾンが受注配送や配達のインフラをサービスとして貸し出すことにあるが、アマゾンは実店舗を展開する小売りとの関係構築により、買い物客の近くに物理的な足掛かりも得られる。将来的には、こうした提携はアマゾン自身の生鮮食品ECの配送拠点に利益をもたらし、フルフィルメントや配達のコストを削減できる可能性がある。

サプライチェーン、フルフィルメント、物流

アマゾンは依然としてサプライチェーン、フルフィルメント、配達のイノベーション(技術革新)のリーダーだ。オートメーションに加えて自社の配達能力を強化するため、提携や出資に力を入れている。

ここ数年は製品の投入や投資、提携を通じて社内の取り組みを進めているほか、21年4月にはサプライチェーンと物流に特化した新たなファンド、アマゾン・インダストリアル・イノベーション・ファンドも組成した。このファンドの運用資産は10億ドルで、サプライチェーンの労働者体験を向上し、買い物客が求めるようになっている迅速な配達を提供する。

ファンドはまず、倉庫テック企業5社に出資した。5社はいずれも倉庫の一部自動化を手掛けている。米アジリティ・ロボティクス(Agility Robotics)、イスラエルのバイオニックハイブ(BionicHIVE)、米マンティス・ロボティクス(Mantis Robotics)、米モジュール(Modjoul)の4社はロボットメーカーで、米ビマーン・ロボティクス(Vimaan Robotics)は映像解析技術(コンピュータービジョン)と人工知能(AI)を使って在庫管理を自動化し、精度を高める。

アマゾンが22年9月、ベルギーの倉庫ロボットメーカー、クルースターマンズ(Cloostermans)を買収したのもオートメーションが目的だった。アマゾンは19年から顧客となってきたクルースターマンズの買収により、自社のロボット研究と展開を強化できるとしている。

一方、顧客のロイヤルティーの原動力であるプライムのメリットを維持するため、配達能力の強化と配達サービスの多様化に引き続き多額の資金を投じている。21年3月には米エアートランスポート・サービス・グループ(ATSG)と航空貨物プログラムの構築で提携し、同社の少数株も取得した。

同様に、22年秋にはブラジルの配達網拡大に向け、ブラジルのアズール・カーゴ・エクスプレス(Azul Cargo Express)との提携を発表した。貨物機の運航を委託するために米ハワイ航空にも出資した。

20年以降に英料理宅配サービス大手のデリバルーに2度にわたって出資し、22年には米料理宅配のグラブハム・シームレスにも資金を拠出した。アマゾンはプライムの特典に両社の優待利用を追加している。英国とアイルランドではデリバルーの会費が無料になり、米国ではグラブハブの手数料無料での配達を1年間試せる。

ゼロエミッション配達

アマゾンは40年までに二酸化炭素(CO2)の排出量実質ゼロを目指す有志の企業連合「クライメート・プレッジ」を共同設立した。この目標を推進するため、出資や提携を続けている。

同社は30年までに配送業務の50%をカーボンゼロ(排出量実質ゼロ)にする目標を掲げ、小売事業のサステナビリティー(持続可能性)投資では配送車の電動化を重視している。有名なのは米カリフォルニア州に拠点を置く電気自動車(EV)メーカー、リヴィアン・オートモーティブへの出資だ。アマゾンはリヴィアンにEV配送車10万台を発注しており、22年末に1000台が納入された。

アマゾンは特にインドでのEV導入に力を入れている。25年までにインドの配送車のうち1万台をEVにすると明言し、インド国内のEVメーカーに目を向けている。21年2月にはマヒンドラ・エレクトリック・モビリティーと提携し、インドの7都市で電動三輪車「マヒンドラ・トレオゾール」100台近くを展開すると発表した。22年7月にはマジェンタ・モビリティー、11月には二輪車大手のTVSモーターと両社のEV(二輪車、三輪車、四輪車)をインド国内での宅配に活用することで合意したと発表した。

アマゾンは22年7月、インドの大手自動車メーカー、タタ自動車(や他のEC大手)と共同で、タタの小型電動トラック「エースEV」を開発すると発表した。アマゾンはこの車を配送車両に加える計画だ。

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