日産、EV生産費用をガソリン車並みに 駆動装置費3割減

日産自動車は9日、電気自動車(EV)の駆動装置について2026年までに生産コストを従来比で3割削減すると発表した。ハイブリッド車(HV)と部品を共通化し、レアアース(希土類)を大幅に減らす技術を開発した。25年から順次新型車へ搭載する。今後、全固体電池など他の中核部品も開発し30年までにガソリン車とEVで生産コストを同等にする。EV普及の最大の壁であるコストに手を付け拡大の足場を固める。
EV生産コスト削減のカギを握るのが駆動装置「イーアクスル」だ。主要な構成部品であるモーターのレアアース使用量を従来比で25分の1まで減らしてコスト低減につなげる。
モーターに使用されるネオジム磁石は高温になると磁力が失われ、耐熱性を加えるために「テルビウム」などのレアアースを含めるのが一般的だ。日産はレアアースを一定の範囲に偏りなく配置するほか、モーターそのものの発熱量を減らす新技術を開発し使用量を削減するとしている。
新型のイーアクスルは25年にもEVなどへの搭載を始める見通しだ。日産子会社で駆動系部品の生産を担うジヤトコ(静岡県富士市)が開発に協力し、今後量産を担う。生産量も拡大させ、同イーアクスルのコストを26年に19年比で3割引き下げる。
EVとHVの主要部品の共通化も進める。モーターやインバーター、減速機などで共通化する部品の種類や量を増やす。

日産はイーアクスル以外に、車載電池などを含めてEV全体の生産コスト削減を進める方針だ。28年度から次世代の全固体電池を搭載した新型車を投入する計画。価格を押し上げる貴金属の使用量を減らし製造しやすい材料を使うことで大幅にコスト低減を狙う。
26年にも次世代材料とされる炭化ケイ素(SiC)を使用した半導体をインバーターに採用する計画も明らかにした。省エネルギー性能が高いため、電池が小型化できコスト低減につながる可能性があるとしている。平井俊弘専務執行役員は「30年にはEVの生産コストが現在のガソリン車と同等になるようにする」としている。26年までにまずHVの車両コストをガソリン車並みにする計画だ。

イーアクスルはモーター、インバーター、減速機で構成されるEVの中核部品だ。車両コストの1割程度を占め、車載リチウムイオン電池の2〜3割に次ぐ。調査会社のマークラインズの吉川正敏執行役員は「(イーアクスルは)エンジンに代わり、自動車の走行性能を左右する。コスト競争が激しくなっている」と指摘する。
イーアクスル市場は急拡大が見込まれる。調査会社の富士経済(東京・中央)によると、35年の世界市場は5670万台と21年比で38倍まで急増する。調査会社のフォーチュン・ビジネス・インサイツによると、28年の世界市場(金額ベース)は657億ドル(約9兆円)と21年比で約7倍になる。年率では3割以上の成長率となる。
車部品世界最大手の独ボッシュやZFなどのほか、日系勢では日本電産のほか、アイシンとデンソーなどが共同出資するブルーイーネクサス(愛知県安城市)が大手だ。特に、日本電産は19年にイーアクスルの量産をいち早く始め、中国や欧州で新工場を稼働する。日産と同様にレアアースの少ないモデルの開発を進める。
独スタティスタによると、世界の22年のEV平均価格は4万9730ドル。ガソリン車などを含む乗用車全体の平均価格(2万8260ドル)から8割弱高い。米ボストン・コンサルティング・グループによれば、EVの駆動系部品から生じる利益は35年に220億ドルと21年比で7倍超に増加。一方、内燃機関車の駆動系部品は63%減の70億ドルとなり逆転する。
電池と駆動系部品のコスト削減はEVの競争力と今後の普及度合いを左右する。現状では米テスラなど一部を除いてEVで利益を出しているメーカーは少ない。車メーカーのEV収益化を目指し各社とも技術開発にしのぎを削っている。
(赤間建哉)
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