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トヨタ初の量産EV、「日本はサブスク限定」の狙い

ビジネススキルを学ぶ グロービス経営大学院教授が解説

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トヨタ自動車が2022年半ばに発売する初の量産電気自動車(EV)「bZ4X(ビーズィーフォーエックス)」について、国内向けには当面販売はせず、サブスクリプション(定額課金)サービスに限定して提供するという報道がありました。若者を中心に「モノ離れ」が進行するなか「所有(売り切りモデル)」から「利用(サブスクモデル)」に軸足を移して顧客を開拓する流れに乗ったものといえます。この動きについて、グロービス経営大学院の斎藤忠久教授が「サブスクリプション」「金銭の時間的価値」の観点で解説します。

【解説のポイント】
・EVは高額の割に中古の買い取り価格が安く、日本では充電設備も普及途上
・サブスクだと転売価格を気にせず途中解約もでき、EVデビューの不安を軽減

価値の提供、顧客視点で

サブスクリプション(サブスク)とは、継続利用を前提とした有料会員向けの定額制サービスのことです。古くは新聞などの定期購読、会費制のスポーツジム、2000年代初頭に流行した「着メロ」などの携帯電話向けコンテンツ配信、そして最近ではネットフリックスといった動画配信もサブスクに該当します。

最近はモノを買わない若者が増えてきています。「所有(買い切り・売り切り)」ではなく「利用」に焦点を当て、顧客視点で価値の提供手法を捉え直そうという動きから生まれたのがサブスクです。メリットとしては①安い費用で始められる②モノを所有せずに利用できる③いつでも解約できる――といった点があげられます。

ただし、トヨタの新車サブスクサービス「KINTO(キント)」の場合、3年間、もしくはそれ以上の継続使用が前提です。途中で解約する場合に一定の料金が必要となることから、サブスクというよりは長期のレンタカー契約といったほうが分かりやすいかもしれません。

キントでは毎月の支払額に車両の使用料、自動車保険(自賠責保険および任意保険)や登録費用(自動車税や重量税)、法定・定期点検、故障修理を含むメンテナンス諸費用など、自動車の利用にかかわる一切の費用が含まれています。毎月定額料金を支払えば、あとはすべてトヨタが一括処理してくれるという便利なサービスです。

EVの低い「残価率」

それでは、なぜトヨタは初の量産EVを販売ではなくサブスクで提供するのでしょうか。その背景には車両価格の高さや充電施設の少なさも挙げられていますが、一番の理由は3年もしくは5年後の売却価格(残価)の安さにあるようです。

人気の高い車種、例えばトヨタの「ランドクルーザー」の3年後の残価は新車購入価格の70%、5年後でも56%に及んでいます。それ以外の一般的な車の場合、5年後で35%程度の残価率が相場のようです。

ところがEVの残価率は低く、日産の量産EV「リーフ」だと5年後、23%程度しかありません。EVは車両価格に占めるバッテリーコストの割合が高く、劣化しやすいためです。20年に発売された「ホンダe」では5年後の残価率は13%程度とされています。販売実績がまだ少ないため、将来の買い取り価格の予想が難しいとはいえ、かなり低い残価率と言えます。

割賦販売vs.サブスク

ここで、割賦販売とサブスクを現在価値で比較してみましょう。現在価値とは、将来のキャッシュが現時点ではどのくらいの価値があるかを表したものです。ファイナンスでは金銭の価値は時間とともに目減りするという考え方をとります。

これを車の購入に当てはめると、例えば割賦で月々同額を支払うのであっても、今月支払う額よりも、将来支払う額の方が価値が低いと言えます。

トヨタのRAIZE(ライズ)で「XGAS 1.2L」の標準車両価格は170万7000円です。つまり、購入時に一括して支払うとこの価格ということです。トヨタの見積もりシミュレーションによると、この車両を5年間の定額割賦(ボーナス時の追加支払いは無し)で購入すると毎月の支払額は3万5200円程度となります。実質金利は年率で3.05%と逆算できます。ただし、5年後に売却すれば売却代金を手にできます。ライズの場合、5年後の残価率をトヨタでは新車価格の35%と設定しています。この5年後の残価を考慮に入れると、実質的な支払額の現在価値は132万5147円となります。

この車をサブスクのキントで利用すると、5年間の契約で毎月の支払額は3万6630円となり、5年間の総支払額の現在価値は177万1825円と計算されます。この金額と定額割賦販売のネット支払額(残価を控除した支払額)の現在価値である132万5147円との差額(44万6679円)が、登録費用やメンテナンスなどの諸費用の現在価値ということになります。

一方、ホンダや日産のEVの実績から5年後の残価率を15%と低めに設定して再計算したのが上記の表の右半分です。同じ車であっても、残価率の影響で総支払額の現在価値は高く、購入の負担としては大きくなってしまうことがわかります。サブスクであっても、ある程度その影響は免れないでしょう。試算では、想定される月間サブスク代金は4万1139円と、残価が35%の場合の3万6630円から約12%の値上がりとなります。「bZ4X」の英国での販売価格が約650万円と発表されていますので、これが一括支払時の車両価格とすれば、サブスク代金は毎月15万6700円程度(4万1139円×650万円÷170万7000円)と相当の高額になると予想されます。

ユーザーに安心感

しかし、サブスクだと残価率が実際にどの程度下がるかを心配しないでよいという点で、買い切りとは大きく異なります。EVメーカー各社はバッテリーの保証期間を8年もしくは16万㎞と設定しており、5年後の残価率はガソリン車に比べて大幅に低くならざるを得ません。中古車市場に出回る台数も少ないことから、買い切りの場合は下取りや転売時の価格にも不安が残りそうです。

サブスクであれば一定の解約料を払えば途中で利用をやめることも可能です。日本ではまだEVの普及率が低く、購入者にとって不安が大きいことが予想されます。買い切りで購入する場合に比べてユーザーに安心感を与えられることが、トヨタとして初の量産EVをサブスクで提供する背景にあるのではないでしょうか。

さいとう・ただひさ
グロービス経営大学院教授。富士銀行(現みずほフィナンシャルグループ)からコンサルティングファームに出向、マーケティングおよび戦略コンサルティングに従事。その後、音響機器メーカーのナカミチで取締役最高財務責任者(CFO)と米国持ち株子会社の副社長兼CFO、米国通信系ベンチャーの日本法人代表取締役社長、エンターテインメント系ベンチャーの専務取締役、モバイル向けコンテンツ配信企業エムティーアイで取締役兼執行役員専務CFOを歴任。

「サブスクリプション」についてもっと知りたい方はこちら

https://hodai.globis.co.jp/courses/298902e0(GLOBIS 学び放題のサイトに飛びます)

「ジョブ型雇用、日本で浸透するか?」 17日イベント開催


グロービス講師が「わかる」ニュースの見方を解説


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