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採血不要の血糖測定、スマートウオッチで

アップルやサムスン、開発競う

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採血なしに血糖値が分かるウエアラブル端末の開発競争が激しくなってきた。糖尿病の患者や予備軍が日々の血糖値の変動に気づきやすくなり、生活習慣や服薬の改善につなげて重症化を防ぐのに役立つ。糖尿病は世界で約5億人が患っており早期発見へのニーズは強い。米アップルや韓国サムスン電子などIT(情報技術)大手が巨大市場への参入をうかがっている。

アップルウオッチにはすでに心電図測定機能が搭載されている

2月、アップルが取得した米国特許が米メディアを通じて公になった。空気中の微小な粒子を電磁波で測定する技術で、血糖値の測定に応用が可能だ。2020年にはサムスン電子と米マサチューセッツ工科大学(MIT)が、光が散乱するときに波長が変化する現象を応用して血糖値を測る技術を発表したばかり。医療機器メーカーの間で「アップルも血糖値の測定事業を検討している」との観測が広がった。

アップルは腕時計型端末「アップルウオッチ」の健康管理機能を強化してきた。18年12月に心電図の測定機能を搭載。1~2年以内にも血糖値測定に対応した機種を販売するとみられている。サムスンも「ギャラクシー」ブランドの機種に近く血糖値測定機能を追加するとの観測がある。

両社が狙うのは、糖尿病の重症化予防のパラダイムシフトだ。糖尿病患者はこれまで、毎日のように指先に自ら針を刺して採血し、血糖値を測定する必要があった。痛みや煩わしさが、きめ細かい血糖管理や治療継続の障壁ともなっていた。日々の血糖値を適切にコントロールできず、腎臓病などの合併症に至ってしまう患者は少なくない。

ウエアラブル端末を使えば、採血の痛みや煩わしさを感じることなく血糖値を常時把握できる。生活習慣や服薬量の最適化を通じた適切な治療が可能になる。

測定は光学やソフトウエアの技術が鍵を握る。端末内蔵の発光ダイオード(LED)やレーザーで手首の皮膚表面に光を当て、反射したり散乱したりした光を受光素子で受信。その強さや波長を解析することで血糖値を導く仕組みだ。

採血なしに血糖値を測る手段として現時点で最先端をいくのは、上腕や腹部に貼り付けて使うパッチ式の血糖測定器だ。極細のセンサー(針)が皮膚の下に刺さり、体液から血糖値を数分おきに自動測定する。痛みを伴わず入浴中や睡眠中も測りつづけられるのが強みだ。

テルモが7月に日本で発売した米デクスコム製のパッチ式血糖測定器

テルモは提携相手であるパッチ式血糖測定器の世界大手、米デクスコムの製品を19年から発売。メドトロニック(アイルランド)や米アボット・ラボラトリーズなどの医療機器世界大手も同様の製品を日本で発売済みだ。

ただ、パッチ式はセンサーを2週間おきなどの頻度で交換する必要がある。センサー1個で数千円するなどコスト面の課題も残る。アップルやサムスン電子がウエアラブルの実用化に成功すれば、糖尿病領域の業界勢力図が大きく塗り替わる可能性もある。

日本ではスタートアップ企業がこの分野で存在感を示す。医療用センサー開発のクォンタムオペレーション(東京・中央)は1月、血糖値を測れる腕時計型端末の試作品を発表。ライトタッチテクノロジー(大阪市)はレーザー技術を使い、5秒ほど手をかざすだけで血糖値を測れる小型機器の開発を進めている。

日本は法規制の壁


糖尿病は国内に約1000万人の患者がいると推定され、すでに40兆円を超えた医療費を高騰させる要因の一つとなっている。重症化すると腎機能が下がって人工透析が必要になるケースがあるが、人工透析にかかる医療費は年間で1兆円規模だ。血糖値のコントロールを改善して合併症を防げれば、医療費を抑える効果は大きい。
糖尿病の予備軍の人たちも、腕時計型端末などを使い普段から血糖値を意識しながら生活することで、糖尿病に至るのを防げる可能性が高まる。
ただ、日本では利用にあたって規制の壁がある。アップルウオッチの心電図測定機能の場合、医学的な診断には使えないものの「医療機器に該当する」との見方は米国と日本の規制当局に共通する。一方、日本での利用開始は米国に比べて約2年遅れた。問い合わせ窓口の開設をアップルに求めるなど、厚生労働省が慎重な姿勢を貫いたことが背景にある。
米国では医療用アプリなどの審査を迅速化する仕組みを米食品医薬品局(FDA)が10年代から整えてきた。日本では21年4月、厚労省が医療用アプリの開発企業向けの相談窓口をつくるなどの取り組みが始まったばかりだ。

(大下淳一)

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