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パーパス、ESG経営の鍵に 持続的成長へ動機づけ強く

Earth新潮流 日経ESG編集部 相馬隆宏

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞日経産業新聞 Earth新潮流

1月、米資産運用会社ブラックロックのラリー・フィンク会長兼最高経営責任者(CEO)が投資先企業に毎年送っている書簡「フィンク・レター」が公表された。気候変動対策の強化などを求めているフィンクCEOがここ数年、重要性を訴え続けているのが企業の「パーパス(存在意義)」だ。2022年のフィンク・レターでは「パーパスをステークホルダーとの関係の基盤と位置付けることが長期的な成功の鍵となる」と記している。

世界の経営者が注視

パーパスはESG(環境・社会・ガバナンス)に配慮した経営でも重要な要素と言える。自社が何のためにあるのかを明確にしてこそ、ESGに取り組む意義を社員が理解し、本業と一体化させるという相乗効果を期待できる。

世界の経営者もパーパスを重視している。国際会計事務所KPMGが21年7~8月に11カ国11業界のCEO1325人に対して実施した調査で「企業の目的はすべてのステークホルダーに長期的価値を創造するため、あらゆる活動にパーパスを組み込むこと」だと回答した割合が6割に上った。日本企業に限ると7割を超え、新型コロナウイルス禍の前から約30ポイント増えた。

なぜ今、パーパスがこれほど注目されるのか。一橋大学CFO教育研究センター長の伊藤邦雄氏は「1つはコロナ禍のリモートワークでいろいろ考える時間ができ『なぜ自分はこの会社で働いているのか』を問い掛けるようになったことが大きい」と指摘。「もう1つは所得格差も含めて不安材料が出てくるなか、自分たちの働く上での心のよりどころを求めたくなっていることがある」と説明する。

人材の力を引き出す

企業が価値を創出する最大の源泉は人材である。変化の激しい時代にますます重要になる人材の力を引き出すためには、パーパスを明確にすることが不可欠というわけだ。そうした背景からパーパスを新たに定義する企業が増えている。しかし、企業価値の向上につながらなければ掛け声倒れに終わりかねない。

パーパスを起点とした経営を実践するにはどうすべきか。1つはパーパスと日々の仕事との関わりを社員が実感できるような工夫が必要だ。

その好例といえるのが、オムロンが12年度に導入した社内表彰制度「The OMRON Global Awards(TOGA)」だ。TOGAでは1年のうち突出した成果を上げた取り組みをたたえる。20年度に表彰された取り組みには、海洋プラスチック問題の解決に貢献する製品の開発もある。

企業理念を実践

TOGAの評価軸はただ1つ、企業理念の実践度合いだ。オムロンにとってのパーパスが企業理念である。そこには「われわれの働きでわれわれの生活を向上しよりよい社会をつくりましょう」と明記し、大切にする価値観として「ソーシャルニーズの創造」「絶えざるチャレンジ」「人間性の尊重」の3つを掲げている。

TOGAの表彰式にはオムロンの会長や社長も参加し、受賞者がそれぞれの取り組みを発表する。コロナ禍以降はその模様をオンラインで中継しており、21年は国内外から1万人以上の社員がリアルタイムで視聴した。

企業理念の実践とはどういうことなのか。他の社員の取り組みを全社で共有することで腹落ちもしやすくなる。参加した社員からは「実務と企業理念が直結しているのを実感できる」「企業理念を日常業務で意識する幅が広がっている」といった声が上がる。

今では企業理念に沿っているかどうかが社員の判断基準になり、現場の意思決定のスピードが上がっているという。それによって「収益力が上がり、お客様の期待に応えられるようになり、業績にもつながっている」(山田義仁社長)。オムロンではコロナ禍が長引くなかも22年3月期の営業利益が過去最高を更新する見通しだ。

個人と会社の重なり

パーパスの実践ではもう1つ、社員個人のパーパスと会社のパーパスとの重なりを見つけることもポイントになる。「自分のパーパスに駆り立てられて仕事をしているとなれば、社員のモチベーションアップにつながっていく」(伊藤氏)からだ。

英ユニリーバは社員個人のパーパスを重視する1社だ。09年に「サステナビリティを暮らしの"あたりまえ"に」をパーパスに掲げた。

全工場で電力会社からの購入電力を再生可能エネルギーに切り替えるなど環境負荷を低減する一方、業績を拡大した。10年間で売上高を10%、営業利益を30%伸ばし、時価総額は1.8倍になった。

「仕事がその人のパーパスに沿っているときこそ生産性が上がる」(ユニリーバ・ジャパン・カスタマーマーケティングのサンジェイ・サチュデヴァ社長)との考えから、採用面接の段階から候補者とパーパスについて話し合う。

定期面談で議論

入社後には、社員が自分のパーパスを見つけ、日々の仕事で実践し、さらにはキャリアプランに組み込めるよう支援する研修がある。パーパスについて考える機会は他にもある。例えば、上長との定期面談では常にパーパスについて議論し、人事評価にも影響する。

商品の企画やブランディングもパーパスが起点になる。例えば主力ブランドの「ダヴ」は女性の自己肯定感を高めることをパーパスに設定し、10代の若者を対象にワークショップを開催している。

持続的成長に重要なパーパスも「額に飾ったまま」では価値はない。経営者は、パーパスを社員が理解、共感し、日々の仕事で意識するようになるまで働きかけ続けなくてはならない。

[日経産業新聞2022年2月11日付]

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