合弁事業成功のポイント
新風シリコンバレー SOZOベンチャーズ創業者 フィル・ウィックハム氏
ベンチャーキャピタル(VC)がスタートアップと起業家を支援する方法は単に出資という形で資本を注入するだけではない。特に日本とシリコンバレー、さらに世界をつなぐVCは他のシリコンバレーのVCとの差別化のためにもユニークな付加価値をつくる必要がある。

私たちはそれを事業開発機能においている。
シリコンバレーのスタートアップが日本進出を考える時に、どこからはじめてよいかわからないことも多い。そんな時に「日本進出のサポート」のスペシャリストとしての「ビジネスディベロップメント」支援をしている。
この「ビジネスディベロップメント」機能の主目的はスタートアップの企業価値を高めることである。これは直接的に日本市場における橋渡しになる重要顧客の獲得を支援し、日本市場での確かな実績をつくるということだ。
私たちはこれまで米パランティア・テクノロジーズとSOMPOホールディングスによる合弁会社設立や、コインベースへの三菱UFJ銀行による投資、ズーム・ビデオ・コミュニケーションズと大同生命のパートナーシップの実現への支援をしてきた。
スタートアップが日本企業と提携するのは単にお互いの顔合わせをするだけでは実現しない。成長意欲の高い海外のスタートアップは時にアグレッシブ過ぎて日本企業からは敬遠され、理解されないこともある。
一方、伝統的な日本企業は、海外のスタートアップからは保守的に見えてしまうこともある。
そうした複雑で絡み合ったビジネス環境と文化の違いが交差する中で、海外のスタートアップと日本企業の事業開発の接点をナビゲートするには、柔軟性、忍耐力のほかに、背後にある文化・価値観などへの理解、説明や対話を持続する力が重要となるのだ。
そんな時に役に立つ手法は、企業のミッション、社会貢献の気持ち、各企業・社員としてのアイデンティティーとプリンシプルに立ち戻ることだと考えている。お互いが大切にしている価値観を分かち合って、同じビジョンに向かって切磋琢磨することで、これまで誰もできなかったことが成し遂げられる。
スタートアップと日本企業間によるプロジェクトが始まったとたんに、急に人が変わったかのようにエネルギーと情熱が生まれる人をみてきた。プロジェクトにかかわる人々が強烈なリーダーシップを発揮してチーム、組織そして会社を変えていく。
リーダーシップは役職が高い人でしか発揮できないものではない。全ての人がリーダーであり、周りに影響を与えて、新しい事業、共創を生み出していく力がある。日本のビジネスではなじみがないかもしれないが、こうしたベースになるような取り組みが大切であると考えている。
これからも事業アライアンスの橋渡し役として、更に高い付加価値をつくり、投資先と投資家の両者に貢献できるよう、常に進化を続けていきたい。
[日経産業新聞2022年6月14日付]
