都内タクシー、14日に値上げ 上昇率は89年以降で最大

燃料費高騰や新型コロナウイルス禍の利用減を背景に、タクシー運賃引き上げの動きが各地に広がっている。都内23区と武蔵野市、三鷹市では14日から上がる。消費増税時を除くと15年ぶりで、上昇率は約14%と1989年以降で最大だ。事業者には値上げによる需要停滞や運転手不足など経営課題への対応が問われる。
値上げは内閣府消費者委員会の議論を経て関係閣僚会議で決定した。初乗りの上限は1052メートルで420円から1096メートルで500円に、加算は80円刻みから100円刻みになる。上昇率約14%のうち8%分は賃上げなど労働環境の改善に充てる。3%分は燃料費高騰への対策、残りはキャッシュレス投資などに振り向ける。名古屋市などでも12月5日から初乗りと加算の運賃が引き上げられる。
タクシーの運賃改定は、全国101のブロックごとに事業者が各地方運輸局に申請する。ブロック内の事業者の全体車両数の70%を超える申請があれば審査を始める仕組みだ。閣僚会議で決定する東京都を除き、人口50万人以上の都市を含むブロックは国土交通省と消費者庁の協議で決まる。
国交省によると11月8日時点で広島や岩手、香川など8ブロックで審査を進めている。ほかに京都、静岡など26ブロックで申請を受け付け中だ。
タクシー業界は運転手不足に加え、コロナ禍で夜間の利用が急減し、足元では燃料高騰が追い打ちをかける。政府は燃料価格の激変緩和対策なども実施しているが、事業環境は厳しく、今後も値上げの要望が続く可能性もある。
全国ハイヤー・タクシー連合会の調査で、2020年春にコロナ禍前の4割以下に落ち込んだ全国の事業者収入は22年4月以降、8割程度まで回復している。ただ、値上げで一時的な乗り控えを見込む事業者は多い。前回07年の値上げ後は、08年度の収入で1車両あたり1日4000円余り減った。
今回、事業者側が特に注意したのは「初乗りワンコイン」の壁だ。500円を超すと近距離利用は鈍くなる傾向がある。都内では17年に初乗りの距離と運賃を下げ、中距離以上は値上げになる改定などで需要喚起を模索してきた。
人手不足は深刻だ。コロナ禍では過去にないペースの離職が起きた。21年度末で都内の法人タクシー運転手は5万5391人。2年続けて4000人を超す減少とリーマン・ショック時を上回るマイナス幅で、記録が残る1970年以降32年ぶりの規模に縮小した。運転手の多くは歩合制で、物流業や警備業に流出したとみられる。平均年齢も58.2歳と高く、タクシー業界の持続的な人材確保を懸念する声がある。
新卒採用に注力してきた大手タクシーも影響を受けている。日本交通(東京・千代田)は21年、22年度に1000人への新卒採用拡大を掲げたが、実際は約300人と現状維持になっている。毎年約100人の新卒を採ってきた国際自動車(東京・港)も退職者数を埋められず、約600人減った。
実質値上げで先行したのは新潟市中心部だ。9月24日から初乗りの距離を1.3キロメートルから1キロメートルに短縮する代わりに、運賃(小型車)を600~630円から570~610円に変更した。
新潟市ハイヤー・タクシー協会によると「10月はイベントも多く、乗り控えの影響はまだ出ていない」。新潟県ハイヤー・タクシー協会は、レシートとともに応募すると旅行券などが当たる企画を9月下旬から11月20日まで実施。現時点で想定に近い6000件超の応募があり、「需要喚起の効果はある」と胸をなで下ろしている。
ただ、現場では「支払時に値上げを知り、今後は利用回数を減らすという人もいる」(市内の運転手)。初乗り上限の610円に設定した事業者も「下限の570円としたタクシーに客が流れるのでは」と先行きを厳しくみている。
(河野祥平、高垣祐郷、斉藤美保)

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