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「アグレッシブさ失った」 三菱ケミカル首脳の焦燥

日経ビジネス電子版

石油化学事業の分離という大変革に挑む三菱ケミカルホールディングス(HD)。4月から三菱ケミカルなど事業会社の意思決定機能をHDに集約し、一体的な組織運営を目指す。就任2年目に入ったHD社長のジョンマーク・ギルソン氏が強調するのは「One Company, One Team」の考え方。その背景には「アグレッシブさが失われている」との危機感がある。

「三菱ケミカルホールディングスグループは、持ち株会社・事業会社別に経営していたこれまでの体制から、グループを一体的に運営する体制に移行しました」

最近、三菱ケミカルHDのホームページを開くと、こんなメッセージが表示されるようになった。同社が発信するニュースリリースの主語も、HDの後に「グループ」が加わった。些細(ささい)な変化のようだが、ギルソン社長が目指す組織像を象徴している。

それが「One Company, One Team」。事業分野や地域にかかわらず、フラットな組織へと生まれ変わろうというスローガンだ。今後進めていく組織改革はこの考えに基づく。

従来は持ち株会社である三菱ケミカルHDの下に、三菱ケミカルや田辺三菱製薬、生命科学インスティテュートといった事業会社がぶら下がり、それぞれが意思決定や事業運営を任されてきた。

4月からはこの方式を廃止。各事業会社には社長を置かない。代わってHDが意思決定を担い、投資判断のスピードを速めるなど機動的な事業運営を目指す。事業分野や国内、海外といった地域の垣根を越え、事業展開に一体感をもたらす狙いもある。

石化分離と同じく、組織構造の改革も三菱ケミカルHDにとっては大きな変化だ。なぜ今、こうした劇的な変革を推し進める必要があるのか。

「成長しなければならないというマインドセット、そしてアグレッシブさを失ってしまっている」。ギルソン社長は日経ビジネスの取材にこう語った。

石化の基礎原料から炭素、半導体製造で使う洗浄剤、医薬品などと幅広い製品を手がけているものの、成長のけん引力が今ひとつ見えない。2021年12月に開いた新戦略説明会でも、証券アナリストからは「強固な技術・競争力を持つのはMMA(世界シェア4割のアクリル樹脂原料)くらいではないか」「(半導体材料などの)機能商品がなかなか伸びていない」といった厳しい指摘が上がった。

実際、国内化学メーカーとしてはトップの連結売上高(22年3月期予想で3兆8860億円)を誇りながら、本業のもうけを示すコア営業利益はここ数年伸び悩む。

株式市場からの評価も高いとは言えず、時価総額は1兆2000億円程度にとどまる。同じく総合化学の旭化成は、売上高の規模こそ三菱ケミカルHDに1兆円強劣るものの、時価総額は1兆4000億円前後と逆に上回る。信越化学工業には時価総額で6兆円以上もの大差をつけられている。

必要なものはそろっているが……

好調とはいえない状況からいったい何を武器に成長を遂げていくか。ギルソン社長は「必要なものはそろっている」と話す。半導体材料のほか、自動車の軽量化に寄与する炭素繊維複合材料や生分解性プラスチック、酸素バリアー性を持つフィルムといった製品で成長を見込む。キャッシュカウ(安定収益源)としては、新型コロナウイルスのワクチンや今後上市を控える製薬、独自製法で低コスト化できるMMAなどを挙げる。

その上でギルソン社長は「こうした製品には日本国内で販売していても、海外では販売していないものも多くある。本来強みがあるのに、それに気づかず自信を失っているからだろう」と強調する。

日本は国内総生産(GDP)が30年近く停滞するなど成長が見られず、生産性も向上しない。そうした環境下で企業に勤めてきた従業員や管理職の多くが保守的になり、結果として日本の社会や企業自体が内向きになる――。三菱ケミカルHDもその例外ではなく、自信の喪失や現状満足という今の状況につながったのだとみる。

再び成長軌道へと戻すには「まずマインドセットを変えることが重要だ」(ギルソン社長)。自社内に既に強みがあることを認識し、従来の製品志向から市場志向へと発想を変えていく。そのための第一歩が「One Company, One Team」という意識を組織全体へ根付かせることにほかならない。

「企業を変えるには、世界の市場へどう攻めていくかという観点が不可欠で、そこにまさに会社としてのポテンシャルがある」。こう話すギルソン社長。それでも三菱ケミカルHDグループに対しては期待と不安が交錯する。石化分離の具体策の検討やコスト削減を着実に推し進め、実行力を示すときが来ている。

(日経ビジネス 生田弦己)

[日経ビジネス電子版 2022年4月7日の記事を再構成]

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