三菱ケミカル、ギルソン改革シナリオ検証 難所は3つ

「力強いプレゼンだった」「かなりタフな目標だ」──。三菱ケミカルグループが2月24日に2023〜25年度の新中期経営計画を発表すると証券アナリストからこんな声が上がった。25年度(26年3月期)の連結コア営業利益目標は約3650億円。今期予想(23年3月期、2000億円、製薬関連の係争終結に伴う一過性利益 を除く)の約1.8倍に増やす計画だ。

これはアクリル樹脂原料「MMA」の市況が大幅に改善した恩恵を受けた17年度(3804億円)並みの水準。当時の幹部が「ある種、異常とも言える出来だった」と話したほどだ。それでもギルソン氏は意に介さない。「計画を遂行すれば目標は達成できる」と強気をのぞかせる。
自信を支えるのは、自らが進めてきた構造改革だ。高機能製品を扱う「スペシャリティーマテリアルズ」への変革を掲げ、不採算事業からの撤退や、海外市場での営業強化、積極的な価格転嫁といった取り組みを断行してきた。時価総額が高まらない理由に挙げていた「持ち株会社制」にもメスを入れ、迅速に意思決定できる組織へと改めた。
ギルソン氏は現時点で「改革に遅れはなく、順調に進んでいる」と自己評価。スペシャリティーマテリアルズ化への鍵を握る「機能商品」関連で注力する電気自動車(EV)/モビリティー、デジタル、食品などの市場はいずれも「世界的なトレンドに沿って成長している」(ギルソン氏)とみている。
株式市場からの評価も回復しており、新中計発表日には株価が22年3月末以来約11カ月ぶりの高値を付けた。
「石化分離」の実現危ぶむ声
新中計の今後を占う上で考えられるのは以下の3つのリスクだ。
1つ目は、21年12月に表明した石油化学(石化)事業、炭素事業の分離の行方だ。今回の新中計で、石化事業は共同事業体(JV)方式で他社と統合させた上で25年度中に売却または非連結化、炭素事業は23年度中に売却する、といった道筋をそれぞれ示した。
JVのパートナーとなる相手について、市場では「同業や同じコンビナート内で事業運営する企業と組むのが自然だ」(国内証券アナリスト)との見方がある。ただ、ギルソン氏は今回、その進捗状況を含め一切具体的な話には踏み込まなかった。「石化分離がうまくいくとは思えない」(国内大手化学幹部)との冷ややかな声は業界内に少なくない。

2つ目は注力する製品の市場環境への不安だ。自動車向けの電解液や半導体装置部品、食品用の包装フィルムなど三菱ケミカルグループが強みとする製品群は少なくない。ただ、いずれも年7〜13%の売り上げ成長を前提に新中計は描かれている。これに対しても「成長をけん引するほどの突出した機能製品は見当たらない」(証券アナリスト)との冷めた見方がある。
従業員の士気が3つ目に挙げられる。新中計では非財務目標として、20年度に65%だった従業員エンゲージメント(社内の意識調査における好意的回答者の割合)を、25年度には80%に引き上げるとした。「ギルソン氏の考えに合わず辞めていく社員もいる」(同社関係者)とされる中、求心力を保てるか不透明感が残る。
社長就任と同時にギルソン改革が始動したのは21年4月。まだ結果を求められる時期ではないものの、小林喜光・元会長から託された「時価総額を2〜3倍に」という目標への道のりは遠い。30年以上にわたって化学業界で培ってきた能力を日本で発揮できるか。ギルソン氏にとって真の腕の見せどころはこれからだ。
(日経ビジネス 生田弦己)
[日経ビジネス電子版 2023年3月7日の記事を再構成]
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