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核融合炉のトップ研究者が起業 「脱炭素」期待の技術

日経ビジネス電子版

核融合炉の研究で世界トップクラスの技術を持つ企業、京都フュージョニアリング(京都府宇治市)が京都大学から生まれた。定期交換が必要な主要装置を、世界中のメーカーに供給するビジネスモデルの確立を目指す。

「この部品にはどんな材料が合うか教えてください」

「この実験にはどういう装置を使ったらよいですか」

核融合炉の研究を専門にする京都大学エネルギー理工学研究所の小西哲之教授には、こんなメールが世界中から届く。核融合炉の一部を知っている研究者は多くても、全体を語れる人はごくわずかだからだ。小西氏は、日米欧中など7つの主要国・地域が参画する共同事業「国際熱核融合実験炉(ITER)」で、ブランケットと呼ばれる主要装置を担当する日本代表委員を務めた経験を持つ、核融合炉の世界的な研究者だ。

トップ科学者がそろう

その小西氏がCTO(最高技術責任者)を務めるのが、京大ベンチャーの京都フュージョニアリング。核融合炉の主要装置であるブランケットの開発、生産を手掛ける。将来、核融合炉が実用化された際には、炉を建設する世界各国の企業に納入するビジネスモデルの確立を目指している。ブランケットは数年で取り換えが必要なため、継続的なビジネスが見込める。

欧米では、気候変動が喫緊の課題となった2010年代半ばから、二酸化炭素を排出しない核融合炉ビジネスが盛り上がりをみせている。米グーグル、米アマゾン・ドット・コム創業者のジェフ・ベゾス氏、米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏らが資金を投じ、40~50社のスタートアップが誕生。京都フュージョニアリングも世界の流れに乗って引き合いが増えている。

同社には小西氏のほか、プラズマ加熱に用いるマイクロ波発振源「ジャイロトロン」の第一人者、坂本慶司執行役員も在籍し、世界で「トップサイエンティストがそろう会社」として知られていることが強みだ。

19年10月の会社設立後、最初に受注した仕事は、同12月に欧州のスタートアップから依頼されたブランケットの設計コンサルティング業務。コミュニケーションを重ねた上で、研究計画や戦略を指南、助言するため、1年がかりで約100ページに及ぶ書類をまとめて納入した。

日本で核融合炉というと原子力などと同じカテゴリーで語られることが多いが、中身はずいぶん異なる。電力供給が止まれば核融合の反応も止まるため、安全性は原子力より格段に高い。

構造はこうだ。ドーナツ形の真空容器の中に、セ氏1億度を超える超高温の重水素と放射性物質であるトリチウム(三重水素)を閉じ込め、原子をくっつけることでヘリウムと中性子に変え、エネルギーを生む。太陽の内部と同じ反応を起こす。

京都フュージョニアリングは、核融合炉に関する起業を狙っていた小西氏が、のちに同社CEOに就く長尾昴氏と出会ったことで19年に始動した。

2人が初めて会ったのは京都大学イノベーションキャピタルが催したマッチング会。長尾氏はコンサルティング会社を経て、電力ベンチャーを株式上場させた経験がある。京大大学院工学研究科の修士課程を修了しており、科学に明るいこともあって核融合炉にも強い関心を示した。年齢は親子ほど差があるが、3回会って意気投合した2人は起業を決意。「経営でどちらかが『ノー』と言ったことはやらない」(小西氏)と決めた。

長尾氏からみた小西氏の魅力は、頭の軟らかさだ。権威ある研究者でありながら、日々、変わり続ける研究内容や技術の進歩をアンテナを高くして捉える姿勢を持つ。「国際共同事業のITERでさえ通過点にすぎないと考え、最善の方法が何だろうかと常に様々な可能性を思案しながら改善できる人」。長尾氏は小西氏をこう評する。

本気でやれば世界で勝てる

小西氏が最初にITERに関わったのは、実験炉の設計者の一人として参加した1989年。当時から世界各国の核融合炉技術のレベルをみてきた小西氏は、日本の技術力の高さを強調する。最近では日立製作所東芝など大手企業を退職して同社に来る技術者がいて、改めてその優秀さには目を見張るものがあるという。「日本が今から核融合炉に本格的に取り組めば、かつての原子力のように世界をリードできる」と小西氏は強調する。

この10月には、英原子力エネルギー庁(UKAEA)が2025年に着工する核融合炉の建設に、現地企業など数社と共同で参画、設計を担当することが決まった。小西氏は「いずれ1000億円規模のプラントを造れるようになりたい」と話す。核融合炉が世界でメジャーな発電手法になったとき、同社がその中心にいる日が来るかもしれない。

(日経ビジネス 中山玲子)

[日経ビジネス  2021年11月8日号の記事を再構成]

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