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京都信金、2000人の対話が育む「おせっかいバンカー」

日経ビジネス電子版

京都信用金庫(京信)は、取引先への融資だけでなく、あらゆる課題解決に貢献する「おせっかいバンカー」の育成を経営方針に掲げる。金融知識だけでなく幅広い視野を持つ異能へと職員一人ひとりを育てる。そのためには企業風土改革から始めなければならない。そう考えた理事長の榊田隆之は「日本一コミュニケーションが豊かな会社になろう」とぶち上げた。

◇    ◇    ◇

「何でもかんでもとは言わない。1回だけ、日本一という言葉を使わせてほしい。我々は『日本一コミュニケーションが豊かな会社』を目指そう」。2018年6月に京信の理事長に就任した榊田隆之は、全職員に向かってこう宣言した。

京信は総資産額が約3兆5601億円(22年3月末時点)と、信用金庫業界では上位に入る。しかし同じ京都市内には総資産額が6兆円超と全国トップの京都中央信用金庫がある。

規模で劣る京信は、従来の金融の枠にはとらわれない姿を模索。「資金の融資だけでなく、事業主が抱える課題解決こそが21世紀のバンカーの役割」(榊田)と見定めた。

その実現には2つの課題があった。1つは、これまで金融知識だけを磨いてきた職員たちが、幅広い課題に対応できるかどうか。もう1つは、営業ノルマのような自分の成績ではなく、顧客に喜んでもらうことを自分の仕事の喜びにつなげられるかどうか。どちらも職員の意識改革なしにはなし遂げられないことだった。

「人を生かすも殺すも組織の風土。組織風土から変えなければ人は育たない」。そう考えた榊田が導き出したのが、冒頭の「日本一コミュニケーションが豊かな会社」だった。

理事長に就任直後の18年7月から9月にかけて、パートを含む全役職員2000人を対象に「2000人のダイアログ(対話)」を実施。見ず知らずの職員たちが5人ずつ車座になって、業務上の課題やアイデアを出し合った。

当初は「信頼関係がない人に本音は話せない」「何をしゃべっていいか分からない」という戸惑いの声が上がり、会話も低調だったという。

しかし出てきたアイデアが制度として採用されるようになると、経営トップが本気だと現場の職員も気づきはじめた。多様な意見が出るようになり、今では2000人のダイアログは年2回の定例行事となっている。

ここから生まれた制度の1つに「地域グループ内自由異動制度」がある。支店内での内勤と外勤スタッフの入れ替えや近隣の支店との異動は、人事部を通さずに現場の判断で自由にできるようにした。また、社外のイベントやセミナー、勉強会などに参加する費用を助成する「他流試合サポート制度」も創設した。

榊田は「決まった業務をするだけでは視野が狭くなる。広げないといけない」と話す。コミュニケーションを活発にしたのは、多様な職員が刺激を受け合う風土を醸成するためだった。

活動の場は、社外にも広げていった。

取引先企業の課題をプロジェクトチームで解決する取り組みはこれまでに1000を超えている。プロジェクトに入るのは融資の担当者だけではない。あるスーパーの売り上げを改善するプロジェクトでは、パート職員が手を挙げ、利用者の観点で品ぞろえや売り場づくりをアドバイスした。

取引先に派遣して約1カ月間業務を経験する研修制度には、これまでに200人を超える職員が参加した。「30代に入り、業務がマンネリ化している職員に刺激を与えている」(榊田)。さらに長い1年間にわたり出向する制度もある。実際にビジネスの現場に身を置くことで、金融以外の課題解決を考える意識づくりが狙いだ。

「実際にプロジェクトを動かすためには、チームワーク、フィールドワーク、そしてプレゼンテーションという3つの能力が必要だ」と榊田。京信が目指すべき未来の姿を議論して発表する「フューチャーセッションプロジェクト」では、その3つの能力を鍛える。寸劇形式でプレゼンをするなどのユニークな内容は、既成概念にとらわれず人間の幅を広げる狙いがあるという。

「独立」を積極的に応援

榊田はこうも話す。「社外でも通用する人材を育てないといけない。自我が芽生え、京信の枠を超えて働きたいという職員は応援する。結果的に離職率が高まるのは仕方がないことだ」

そうした職員を積極的に応援する制度も創設した。「京信アントレ・サポート」がそれ。起業のために退職した場合、仮に事業に失敗しても5年以内なら原則として退職時と同等もしくはそれ以上の待遇で復職を認めるというものだ。

学生時代からの夢だったアフリカとのフェアトレード(公正取引)の実現や、ネイルサロン、ラーメン店などの開業のために退職する職員が現れているという。成功すれば地域経済の活性化につながる。もし失敗しても、その糧を生かして取引先の課題解決に貢献できるかもしれない。

榊田は「寄ってたかって」「おせっかい」といったフレーズをビジョンに掲げる。共通するのは、自律的に考え、積極的に取引先に関わる姿勢だ。「職員のみんなが、訳の分からんことをしだすようになった。でも、理事長の私が『そんなことしたらダメだ』と言ったら終わり。ストレスは相当なもんですよ」。榊田は苦笑する。それでも「京信を『変人』の集まりにしたい」という榊田の決意は固い。=文中敬称略

(日経ビジネス 佐藤嘉彦)

[日経ビジネス電子版 2022年8月8日の記事を再構成]

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