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米マスターカード、オープンバンキング強化へ提携拡大

CBINSIGHTS
米マスターカードが金融デジタル時代に対応した取り組みを急いでいる。重要戦略の一つがフィンテック企業との提携だ。金融機関のデータや機能を外部のサービスと連携する「オープンバンキング」の需要が世界的に高まっている。その基盤強化に向けてスタートアップへの出資や買収を相次いで進めている。
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

世界最大級の決済網を持つ米マスターカードはこの2年で数百社と戦略的な提携を結び、数十社に出資し、5社以上を買収している。

こうした関係の多くからは、中核事業である決済処理の強化に加え、4つの長期目標=「新たな地域への進出」「オープンバンキングの実現」「新興国市場での金融アクセス拡大」「暗号資産(仮想通貨)・ブロックチェーン(分散型台帳)、サイバーセキュリティー、電子商取引(EC)など決済以外への事業拡大」も重視していることがうかがえる。

CBインサイツのデータを活用し、マスターカードの最近の買収、出資、提携から5つの重要戦略をまとめた。この5つの分野でのマスターカードとのビジネス関係に基づき、企業を分類した。

・バンキング

・ブロックチェーン&仮想通貨

・クレジット&融資

・サイバーセキュリティー

・決済インフラ

バンキング

マスターカードのバンキング戦略は、API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース=システム同士が相互に連携するための技術仕様)や銀行向けテック基盤、銀行口座を持たない層を対象にしたデジタルバンキング基盤を通じてオープンバンキングを実現するフィンテック企業との関係構築に主眼を置いている。

同社はここ2年、提携と買収によりオープンバンキング戦略を進めている。

20年にはオープンバンキング基盤を強化して金融サービスの種類を増やすため、リアルタイムの金融データ収集サービス、米フィニシティ(Finicity)を9億8500万ドル(約1400億円)で買収した。

22年5月には、中東や北アフリカで存在感を高めるためにバンキングと決済のAPIを提供する米i2cと提携した。

同時期には、金融商品の発売を支援するために銀行とテック企業をつなぐAPIを提供している米シンクテラ(Synctera)とも提携した。商品には銀行口座やカードプログラム、送金なども含まれる。

APIを銀行に提供するテックプラットフォームとも関係を築いている。例えば、22年3月には次世代のクレジットカード処理を手掛ける銀行テックプラットフォーム、米ゼータ(Zeta)と5年間の提携を結んだ。ゼータのシリーズCエクステンションラウンド(調達額3000万ドル)にも参加し、提携を強化した。

同じ3月にはクラウドを活用したバンキングプラットフォームを運営するスイスのテメノス(Temenos)と提携した。銀行が英国でマスターカードの振り込み依頼サービス「リクエスト・ツー・ペイ(Request to Pay)」を容易に導入できるようにするのが狙いだった。

さらに、21年には銀行口座を持たない層にサービスを提供するBtoC(消費者向け)デジタルバンキングプラットフォーム2社に出資した。黒人とラテンコミュニティーを対象にしたデジタル銀行、米グリーンウッド(Greenwood)のシリーズA(4000万ドル)に参加し、米モカフィ(Mobility Capital Finance=MoCaFi)のシリーズA(1200万ドル)にも加わった。モカフィは米国の経済的に苦しい層を対象にした金融プラットフォームを提供している。

ブロックチェーン&仮想通貨

マスターカードはここ2~3年、仮想通貨とブロックチェーンの分野で重要な布石を打っている。

21年9月には仮想通貨事業を強化し、デジタル資産のエコシステム(生態系)でいち早く成長を遂げるため、仮想通貨の取引データやブロックチェーンの分析を手掛ける米サイファートレース(CipherTrace)を買収した。企業がデジタル資産サービスの開発に伴うリスクに加え、コンプライアンス(法令順守)や規制の義務について理解できるよう、マスターカードのサイバーセキュリティーサービスとサイファートレースの仮想通貨のコンプライアンスサービスをセットで提供するのが狙いだった。

21年初めには、仮想通貨イーサリアム上でのアプリケーション開発を支援するブロックチェーン企業、米コンセンシス(ConsenSys)の転換社債(発行額6500万ドル)を引き受けた。その後、両社は拡張性とプライバシー機能に焦点を当てたブロックチェーンのアプリケーション向けモジュール式ソフトウエアシステム「コンセンシス・ロールアップス(ConsenSys Rollups)」を共同開発することで提携した。この2つの動きは、マスターカードがブロックチェーン技術をさらに深く掘り下げ、消費者向けの革新的な金融サービスの開発について理解するのに役立った。

21年には仮想通貨で報酬がもらえるクレジットカードを発行するため、米仮想通貨交換大手のジェミニ(Gemini)とも提携した。マスターカードは消費者の進化する期待に寄り添った決済オプションを提供し、消費者の選択の幅を広げることを目標に掲げている。

22年に入ってからは、ブロックチェーンと仮想通貨のスタートアップ3社、オーストラリアのインミュータブル(Immutable)、米コインベース・グローバル、スイスのネクソ(Nexo)と提携している。

インミュータブルはブロックチェーンサービスを提供し、分散型ゲームを開発している。同社との提携により、マスターカードのカードを使ってNFT(非代替性トークン)を購入できるようになった。

同様に、コインベースとの提携により、仮想通貨に詳しくない人も仮想通貨を保管・管理する「ウォレット」を使わずにNFTに足を踏み入れられるようになった。コインベースのNFTマーケットプレイスの利用者は、マスターカードのカードを使って買い物できる。

ネクソは仮想通貨を担保にした即時融資を提供する。マスターカードとの提携により、仮想通貨で利用限度額を設定した初の決済カードを発行した。

マスターカードは22年、アルゼンチン発祥のEC大手メルカドリブレ(Mercado Libre)とも提携し、メルカドが手掛けるブラジルの仮想通貨プログラムの安全性と透明性を高めた。メルカドはマスターカードの子会社サイファートレースの技術を活用してデジタル資産の規制やコンプライアンスの義務を確認し、実施状況を監視している。

クレジット&融資

マスターカードは主に提携を通じて融資分野に手を広げている。

海外でのプレゼンス拡大に向け、ここ2年ほどはメキシコのアプラゾ(Aplazo)、英ジルチ(Zilch)、アラブ首長国連邦(UAE)ドバイのポストペイ(Postpay)など、後払い決済「BNPL(バイ・ナウ・ペイ・レイター)」との提携に力を入れている。

21年にポストペイと提携して中東・北アフリカ(MENA)地域のBNPLに参入し、この地域の消費者の買い物体験を強化した。

22年にはアプラゾと組み、中南米の消費者向けに分割払いが可能なバーチャルカードを発行した。同様に、ジルチとの既存の提携を拡大して欧州でBNPLデジタルカードを発行し、域内で後払いを提供した。

21年には資産を担保に融資を提供する英デミカ(Demica)と提携してBtoB(法人向け)決済に手を広げ、各国企業の運転資金の確保を支援した。

さらに、22年2月には少額融資のモバイルアプリを手掛けるエジプトのカシャット(Kashat)と提携し、MENA地域での存在感をさらに高めた。カシャットの利用者に融資返済用のプリペイドカードを提供し、エジプトで銀行口座を持たない人が金融サービスを活用できる「金融包摂」を後押ししている。

サイバーセキュリティー

マスターカードはこの分野の2社を買収していることから分かるように、サイバーセキュリティーも重視している。21年には本人確認や知見を提供する米エカタ(Ekata)を8億5000万ドルで買収し、20年には企業のサイバーセキュリティーリスクの判断を支援するイスラエルのサイテジック(Cytegic)を傘下に収めた。

さらに、この2~3年でこの分野の企業数社に出資している。

22年5月にはセキュリティーコントロールの検証システムを運営する米ピカス・セキュリティー(Picus Security)に出資した。

20年には生体認証などのセキュリティーや不正防止技術の開発に取り組む人工知能(AI)企業、米トラストスタンプ(Trust Stamp)に出資したほか、暗号化技術を使って銀行に安全なデジタル研修を提供するインドのサインジー(Signzy)のシリーズB(500万ドル以上)、米データセキュリティー企業エンベイル(Enveil)のシリーズA(1000万ドル)にも参加した。

マスターカードがサイバーセキュリティー分野を重視していることは、銀行口座を持たない層の信用履歴を作成する米ジュボ(Juvo)との提携からもうかがえる。両社は21年、中南米・カリブ地域の銀行口座を持たない層が基本的な金融サービスを利用できるようにするため、既存の提携を拡大した。

決済インフラ

決済インフラ企業はAPIやテックインフラを活用し、カード発行や決済の受け付け、デジタルウォレットなど決済の多くのカテゴリーを支えている。マスターカードは世界の決済インフラ分野に参入するため、多くの決済インフラ企業と出資や提携をし、1社を買収している。

21年6月にはクレジットカードのインフラとAPIを提供する米デザーブ(Deserve)のシリーズD (5000万ドル)に参加した。同じ21年には、消費者のオムニチャネル(ネットと実店舗を統合した販売方法)での買い物体験を強化するため、決済インフラの米エピソードシックス(Episode Six)と独AEVIに出資した。

21年末には、クラウド型決済プラットフォームを活用して小売りや金融機関、フィンテック企業などの決済代行サービスを手掛ける米Arcus Financial Intelligenceを買収した。Arcusの技術やネットワーク、顧客との関係を活用し、中南米でモバイルバンキングの請求書支払いサービス「マスターカード・ビル・ペイ(Mastercard Bill Pay)」を推進するのが狙いだった。

22年6月には、マスターカードによるアジア太平洋地域のカード発行拡大プログラム「ネットワーク・イネーブルメント・パートナー(Network Enablement Partner)」に、カード発行・決済処理のクラウドプラットフォームを運営する米マルケタ(Marqeta)などを第1陣として迎え入れた。マスターカードはそれ以前にもマルケタの顧客がマスターカードの商品を利用できるようにしたり、新たなカードを共同で発行したりするためにマルケタに出資し、長年にわたる関係を強化している。

その他

マスターカードはこれら5つの重要戦略に加え、3つのカテゴリーでも注目すべき投資や提携をしている。

EC:21年には女性向け健康商品に特化したルワンダのECカシャ(Kasha)に出資し、デジタル決済を利用できるようにした。

保険:ここ2~3年で、保険とデジタル技術を融合するインシュアテック企業数社との提携や投資を進めている。21年末には保険おすすめサービスの米ストライド・ヘルス(Stride Health)のシリーズC(4700万ドル)に出資し、インターネット経由で単発の仕事を受注するギグワーカー向けの福利厚生システムを構築するために提携した。同じ21年にはクラウドを活用したインシュアテック企業の米ワン(One)と組み、マスターカードのバーチャルカードや国際送金カード「マスターカード・センド(Mastercard Send)」で保険金請求をリアルタイムで支払うサービスを提供した。

資産管理:マスターカードは資産管理を手掛ける企業とも関係を築いている。21年にはデジタル版「無尽講」を提供するエジプトのマネーフェローズ(Money Fellows)と提携し、同社の顧客がマスターカードのプリペイドカードで資金を受け取れるようにした。この2年で子供向け貯蓄アプリを運営する米ゴールセッター(Goalsetter)、女性起業家を支援する「インパクト投資(環境や社会に良い影響を与える企業への投資)」プラットフォームの米シーノート(CNote)にも出資している。

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