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女性向け医療変えるか 急成長フェムテックの可能性 

CBINSIGHTS
女性の健康をIT(情報技術)などで支える「フェムテック」が世界的に脚光を浴びている。デジタルデバイスなどを使って月経を管理する簡易なものから、最近では卵子凍結や胎児の監視など不妊症治療、遠隔診療、女性特有のがん検査、など領域は多岐にわたっている。CBインサイツの予想では、フェムテック市場は2025年には500億ドル(約5兆5000億円)まで膨らむ見通しだ。フェムテックの可能性や米国を中心に活発化するスタートアップ投資の動きをまとめた。

女性(female)とテクノロジー(technology)を掛け合わせた「フェムテック( FemTech)」はデジタルヘルスの中枢を担う分野になりつつある。

日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

この分野には女性の生涯に及ぶ医療ニーズに対応した様々な製品・サービスが含まれる。比較的初期の段階の市場だが、このところ投資家や企業からの関心が高まっている。

新たなイノベーション(技術革新)により、この分野の商機を探り続けるエコシステム(生態系)が構築されつつある。今回のリポートでは、フェムテックとは何か、市場の現状、注目すべき商機について取り上げる。

フェムテックとは何か

・フェムテックの定義

「フェムテック」という言葉は月経管理アプリ「クルー」の創業者、アイダ・ティン氏による造語だ。女性の健康とウエルネスをテクノロジーでサポートする製品やサービスを呼ぶために考案した。スマートフォンアプリやウエアラブル端末といった「モバイルヘルス」やネット接続機器などのツールを活用し、月経や妊活、妊産婦の健康などを管理する。

一方、女性の生涯の経験を対象にした新たな製品・サービスも登場しており、この市場の潜在力は増し続けている。

フェムテックの歩み

フェムテック市場は当初、女性が月経周期を手動で入力して追跡するモバイルアプリで主に構成されていた。今ではがんから更年期に至るまで女性の健康のあらゆる問題を対象にした製品・サービスを備える大きな市場に成長した。

フェムテックはリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)のほか、女性の健康という観点から心臓病などの慢性疾患にも対応し、女性特有の病気や女性に多い病気に改めて注意を喚起している。

この市場への関心はここ数年で徐々に高まっている。2020年にメディアがこの話題を取り上げた回数は過去最高に達した。

フェムテックへの関心、20年に過去最高を更新 (11年2月~21年2月のニュースでの「フェムテック」「女性のヘルステック」への言及回数)

どこに商機があるか

フェムテックはヘルステックのニッチな分野にすぎないとの見方もあるが、製品・サービスの数やそれぞれの使用事例が増えているのは大きな市場機会がある証しだ。

フェムテック市場、拡大の可能性

CBインサイツの業界アナリスト予想によると、現在の世界のフェムテック市場の規模は推定350億ドル相当で、25年には500億ドルに膨らむ。だが、潜在規模はこれを上回る可能性がある。

フェムテックはこれまで、妊活や月経のケアが中心だった。今ではこうした分野のさらに枝分かれした製品・サービスや、リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)の他の分野の解決策もみられるようになっている。例えば、子宮内膜症や多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)など、不妊と月経の双方に影響を及ぼす婦人科疾患への注目は一段と高まっている。

さらに、子どもを持つ母親は自分の子どもに対する医療の8割を決めるとされる。つまり、女性の健康に対する価値を創出できる企業には、子どもや家族の健康に関する製品・サービスでもブランド忠誠心を育める大きな商機がある。

遠隔医療を手掛ける米メーブン・クリニック(Maven Clinic)は当初、女性の健康に特化していた。事業の成長に伴い「家族全体を健康に導く」包括的水準のケアの一環として、子どもや家族を対象にした医療サービスの提供にも乗り出した。

同社は20年6月、子どもとの関係強化を支援する親向けのアプリを手掛ける米ブライト・ペアレンティング(Bright Parenting)を買収した。

高齢化の進展で、シニア向け健康サービスの需要が拡大

米国の人口で最も増加率が高いのは65歳以上だ。60年には65歳以上の高齢者は総人口の25%弱を占め、女性の平均寿命は87歳、男性は84歳に達するとみられている。

米国では9500万人近くが65歳以上に (1960~2060年の米国での65歳以上の数、単位は百万人)

寿命が延びているということは、老化に伴う健康問題をサポートする女性向け製品・サービスへのニーズが高まるという意味だ。

例えば、女性は更年期に入るとエストロゲン(女性ホルモン)の分泌量が減り、骨粗しょう症や心臓病など一定の疾患のリスクが高まる。老化によりがんや神経変性疾患のリスクも増える。さらにアルツハイマー病は女性に多く、患者の3分の2を女性が占めている。 

様々なデジタルプラットフォームがこうした健康上のニーズに応えようとしのぎを削っている。オンライン医療や生活習慣の指導、ウエルネス製品により一人ひとりの女性に応じた知見や助言を提供する。

将来的には中年期の女性の健康に関するさらに正確な知見を提供し、慢性疾患をより良い状態に保つようサポートする製品・サービスに大きな商機があるだろう。

新型コロナで、患者に寄り添ったケアの重要性が浮き彫りに

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)により、通常の受診以外にも患者と医療従事者の定期的なやりとりを促すデジタル技術の重要性が浮き彫りになっている。

これは女性の健康に関する多くの分野でも明らかになった。特に米国では妊婦の新型コロナの感染率や致死率が上昇しており、健康に問題のない妊婦にとって遠隔医療は不可欠になった。

多くの病院や診療所が外来患者数を抑えたため、患者はモバイルアプリやネット接続機器に大きく頼っている。例えば、妊婦は米ベビースクリプツ(Babyscripts)のデジタルプラットフォームやネット接続機器を活用し、産婦人科医と連絡をとることができる。

母体や胎児の心拍数を測るイスラエルのヌーボ(Nuvo)のウエアラブルベルトを着用すれば、妊婦は健康に異変が生じている可能性にリアルタイムで気付き、医療従事者に伝えることができる。

こうしたプラットフォームは、妊婦の多くが自宅にいながらにしていつでも治療を受けられる低リスクの手段を提供する。医療従事者は患者を遠隔からモニタリングするツールによって患者の最新のバイタルサインをダッシュボードで把握し、患者の無用な来院を抑えられる。

コロナ収束後も、こうした選択肢は柔軟なオンライン治療を求める患者にとって重要となるだろう。

フェムテック企業の現状

・資金調達は活発になっているが、まだ初期段階が中心

女性の健康に携わる企業への投資はここ数年増加傾向にある。20年の資金調達件数は240件、調達額は17億ドル近くと過去最高を更新した。

女性の健康に関連した企業への出資が増えている 16~20年の資金調達件数と調達額(公表ベース、単位は100万ドル)

フェムテックの分野全体の調達額は増えているが、初期段階の調達案件の割合が依然高く、この分野がまだ成長途上にあることを示している。例えば、20年のシード/エンジェルとシリーズAの調達ラウンドの件数は全体の半数以上を占めた。

この分野ではアクセラレーターやインキュベーターの活動も活発化している。仏インキュベーション施設「ステーションF」は21年1月、フェムテックのスタートアップ専用の支援策を開始した。仏保険大手アクサは20年6月、仏アクセラレーター「50インテック」と共同で世界のフェムテック支援プログラムに乗り出すと発表した。

既存企業もフェムテックの商機を模索

既存企業などもフェムテックのさらなるビジネスチャンスを探り始めている。

AARP(旧全米退職者協会)は更年期の不調をテクノロジーで軽減するコンテストを開催し、この分野への注目度をさらに高めた。AARPのイノベーション基金も20年12月、尿漏れに悩む女性向けの衛生用品を手掛けるダイレクト・トゥー・コンシューマー(D2C)、米アテンション・グレース(Attn:Grace)に出資した。

米日用品大手プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)もこの分野で活発に動いている。19年にはオーガニックの生理用品を手掛ける米ディスイズエル(This is L)を買収し、更年期の女性向けスキンケアシリーズ「キンドラ」を発売した。

消費者向け製品・サービスの技術革新に加え、ライフサイエンス部門でこのところ相次いでいる大型エグジット(出口=投資資金の回収)も女性の健康に対する関心が高まりつつあることを示している。医薬・農薬大手の独バイエルは20年8月、月経などの治療薬開発に取り組む英バイオテック企業カンディ・セラピューティクス(KaNDy Therapeutics)を約4億2500万ドルで買収した。

フェムテックの見通し

市場の需要の高まりと消費者行動の変化により、未来のフェムテックは女性の健康とウエルネスに対して次のアプローチを優先するようになるだろう。

・対面とオンラインを併用した治療提供モデル

・対症療法にとどまらない包括医療

・女性専用の慢性疾患の管理

・対面とオンラインを併用した治療提供モデル

医療の他の分野と同様に、フェムテックの未来の製品・サービスにより女性の医療サービスに対する融合的なアプローチが可能になるだろう。通院治療にオンライン治療を統合することで、個人の好みや健康状態、必要な治療の種類などに応じた様々な選択肢を提供できるようになる。

ウエアラブル端末や在宅検査キット、デジタル診断装置の増加はこれを促す重要な役割を果たすだろう。

例えば、モバイルアプリを使ったスクリーニング検査により、もっと早い段階で健康問題に気付くことができる。米オビアヘルス(Ovia Health)はこの手法を使って「産前産後のうつ」を発見している。同社の臨床研究でこうした症状が見つかった比率は、米疾病対策センター(CDC)が挙げている比率の3倍近くに上った。

最近はオンライン診療も提供する診療所が増えており、併用治療モデルとはどんなものかを垣間見ることができる。

・米ティア(Tia):一般的な女性の健康

・米カインドボディ(Kindbody):不妊治療(体外受精や卵子凍結保存)

・米ウーラヘルス(Oura Health):母体の健康

・米リアル(Real):メンタルヘルス

・対症療法にとどまらない包括医療

ヘルスケア製品・サービスはさらに心身一体の包括的な性質を帯びつつある。慢性疾患の治療では対処療法だけでなく、栄養や運動、メンタルヘルスなどの要因も注目を集めつつある。

この変化により、性の健康などこれまでタブー視されてきた分野が勢いを増している。例えば、米ロージー(Rosy)は性欲の減退に悩む女性に教育コンテンツなどを提供するモバイルアプリを開発している。同社は20年6月にサービスを拡充し、性の問題を抱える女性が専門家からオンライン診療を受けられるサービスを開始した。

更年期障害についても従来のホルモン補充療法にとどまらない包括的な選択肢が現れ始めている。

・女性専用の慢性疾患の管理

多くの慢性疾患では女性の健康問題に関連する臨床データが明らかに不足している。これはリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)や心臓血管など女性に多い病気に当てはまる。

そこで、この分野にもっと革新的な解決策をもたらそうと取り組む初期段階の企業が続々と現れている。例えば、米ポリー(Pollie)は女性のホルモンバランスの乱れを管理するプラットフォームを手掛ける。PCOSや子宮内膜症など情報の少ないリプロダクティブ・ヘルス疾患のオンライン医療を提供し、希少な情報や治療へのアクセスを拡大している。

卵巣がんや子宮頸(けい)がんなどの婦人科系がんでも、より早い段階でのスクリーニング検査や治療を可能にする革新的な診断サービスが登場している。イスラエルのモバイルODT(MobileODT)は人工知能(AI)を活用し、臨床現場で子宮頸がんのスクリーニング検査を実施する。

女性に多い病気でも革新的な製品・サービスが投入されている。米ブルーマーテック(Bloomer Tech)が開発した心臓をモニタリングするウエアラブルブラジャーや、独オステオラブズ(Osteolabs)による50歳以上の女性向けの骨粗しょう症診断テストなどが主な例だ。

今後はリプロダクティブ・ヘルスでもそれ以外の分野でも、女性専用の慢性疾患の管理は重要になるだろう。

将来の可能性

フェムテックの製品・サービスへの投資は徐々にだが着実に増えている。女性の健康の分野で消費者中心の製品・サービスの需要は一段と高まっており、人生の様々な段階で一人ひとりのニーズに応えたもっと利用しやすい治療手段が提供されるようになっている。新型コロナの感染拡大により、デジタルツールやオンライン治療の需要の高まりもさらに明白になっている。

栄養や幸福感、予防衛生に特化したウエルネスプラットフォームも包括的な視点から健康を評価する重要な役割を果たし続けるだろう。これは最近のSNS(交流サイト)上のコミュニティーや教育プラットフォームの台頭により一段と推進されている。

さらに、確かな臨床研究によって女性の生理学の観点から慢性疾患を理解することが必須になるだろう。がんや心臓血管疾患、自己免疫疾患などがその対象になる。

フェムテック市場にはあらゆる年齢層の個人の好みやニーズに応じた広範な製品・サービスが提供されるようになるだろう。これは女性の健康と関連がある分野だけでなく、女性やその家族、ひいては公衆衛生全体に影響を及ぼす医療の新たな分野に広がる可能性を秘めている。

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